ファーストキス
「アルヴィ!ごめん、遅くなった!すぐに治すからしっかりして!」
血に塗れたアルヴィを見た瞬間、すぐに近寄って間髪入れずに治療魔法をかける。ドクドクと血が流れ出ているのをまずは止めないといけない。
そんな風に焦っている俺の右頬にアルヴィは手を触れさせる。
「ありがとう、コーダ。・・・でもいいの。・・・もう私は、助から、ないよ・・・。」
「・・・っでも!でも!だめなんだ。俺が助けるんだ!」
アルヴィの周りには血が広がっている。そこはもう血の海と言っても差し支えないほどに。
今さら止血なんてしても意味がないことは明白だった。
(そんなこと分かってる!でも俺は諦められるわけがない。アルヴィと別れてしまうなんて、俺はどうにかなってしまいそうだ!)
頬に添えられたアルヴィの手を右手で覆う。それは少し冷たくなっているような気がした。
「ねぇ、コーダ。・・・最後に、お願いが、・・・あるの。」
「・・・うん、何でも言って。」
「じゃあ、・・・顔、近づけてくれる・・・?」
アルヴィに言われるままに、抱き起こしながら顔を寄せる。
アルヴィは少しはにかんだような顔をした後、俺の唇に軽くキスをした。
「・・・これ、キスって言うんだって。・・・愛し合う恋人同士しか出来ないんだって。」
「アルヴィ・・・。」
俺に口付けてくれたあと、離れたアルヴィは涙を浮かべていた。
「コーダ・・・あのね。私、私ね。・・・コーダとずっとずっと一緒に、いたかったよ・・・!これからもずっと一緒に、いたかったの・・・。」
「俺もだ。アルヴィがいなくなる人生なんて考えたくもない!」
アルヴィは俺にそう言ってくれる。俺だって同じ想いなんだ。
「私・・・コーダと出会えて良かった。コーダ・・・好きだよ。」
「ああ、俺もアルヴィが好きだ!」
お互いに心情を吐きだす。俺もアルヴィも出会った時から運命だったんだ。
「でももうだめなの。・・・コーダの名前を呼ぶのも、コーダを抱きしめることも、・・・出来ないの。
コーダと、結婚して子供ができて、・・・家族になることも出来ないの。・・・もっとずっと一緒に生きたかった・・・。」
「・・・アルヴィ!」
今度は感極まって俺から口付けをする。アルヴィは俺のものだと主張するように、舌を入れてアルヴィを感じる。
お互い涙を流しながらお互いを感じ合う。
口内で血が広がっていくのを感じる。それでいてもアルヴィが弱々しくも、俺を離そうとしないでいる。
でもそんな幸せな時間も終わりが近づいてきているのも分かる。
「私の・・・初めてのキス。・・・コーダにあげられて・・・良かった。」
「俺もアルヴィじゃないと嫌だった。これからもアルヴィを一生離さないから!」
唇を離して至近距離で言葉を交わす。
「・・・死んでも私はコーダが好き。・・・・・・じゃあ、ね。」
今度はアルヴィから、さっきとは違って軽く優しいキスをしてくれた。
アルヴィは、微笑みながらそう言うと静かに目を閉じていった。
「・・・アルヴィ?ねぇ、アルヴィ?」
体を軽く揺さぶってみるものの、反応がない。
「起きてよ・・・。アルヴィ。ねぇ・・・。」
俺はアルヴィが目を覚まさないことを分かっていながらも、執拗に問いかける。
「アルヴィ・・・。俺を・・・ひとりにしないでよ・・・。」
涙がとめどなく溢れる。自分の胸がぽっかりと空いたような喪失感に襲われて、アルヴィの体を抱きしめながら号泣する。
それからアルヴィは二度と目を覚ますことはなかった。
◆
あれからどれだけ経っただろう。もう辺りは夕方でオレンジ色の光が辺りを照らしている。
ここで俺で頬を濡らしつつ、初めて周りの様子を観察する。
辺り一面にホコリのような砂のようなものが堆積していて、それは羽根のように軽く、風に乗って拡散しているほどだった。
その砂がアルヴィの周りの地面に飛んできて、赤く染まっていく。
(・・・アルヴィは全て俺のものなんだ。この砂でさえも奪うことは許さない。)
今もっとも自分に馴染んでいるような気がする闇魔法を、薄い膜のようにして辺りに広げる。
その膜を地面に浸透させて、アルヴィの部分だけを濾し取るように意識する。
膜を地上に露出させると、両手で2回すくえるほどの量を集める事が出来た。
それにより草や地面の色は、本来の色に戻ったようだった。
(良かった。こんなに失われてしまうところだったのか。)
中身をこぼさないようにその膜を閉じてから、身につけていた水筒に入れた。
静かに目を閉じているアルヴィの髪を、聖魔法で汚れを浄化にするように撫でていると、不意に人の気配を感じた。
アルヴィが連れ去られた方向から、鎧を着た騎士達と縛られた男達がこちらへ歩いてきていた。
先頭には、昨日アルヴィを助けてくれたっていう騎士、名前は、・・・クインシーだったっけ。
「これは・・・、コーダ君だったね。その君の前にいるのって、・・・まさか。」
その騎士はアルヴィを見て驚いたような仕草をした。そしてそのあと、こちらに近づいてきて触ろうとしてきた。
「触るな!」
俺は警戒の意味も込めて雷魔法で攻撃する。金属の鎧を着ているから、感電しないだろうけど少しは電撃を感じたようだ。
俺に向けて疑念のこもった視線を向けてくる。
お互いに沈黙していると、クインシーの後方から、ケタケタと笑いながら知ってる声が話しかけてきた。
騎士に捕縛されている男達の1人、マクシームだ。
「ああ、その少年はその少女が大好きでしたからねぇ。おおかた、大事な物が奪われるとでも思ったんでしょう。守れなかったくせに。」
「・・・マクシームかっ!お前だけは殺す!」
「やめないか!」
俺は静止を無視して、磁力反発でその騎士を越えるほどに飛び上がる。マクシームの頭を片手で掴み、直接電撃を喰らわせた。
高電圧を瞬間的に流したためか、眼球は白く濁って穴という穴から血が噴き出した。掴んでいた場所は黒く炭化していた。
マクシームはゆっくりと地面に倒れたあと、少し焦げ臭い匂いを放っていた。
俺はついにやった。明確な殺意を持って俺のこの手で人殺しをしたんだ。
後悔なんて露ほども感じない。ただあるのは、アルヴィを守れなかったやるせ無さと達成感だけだ。
後はあのクソったれの貴族だ。アイツだけは絶対に俺が殺す。
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