急げ、早く
少し時間が戻って、主人公視点になります。
以前にアルヴィにまとわりつかせた俺の魔力が、ウロウロと動いているのを暗闇の中で感じていた。
それは今、真っ直ぐにこちらへと戻って来ている。
(アルヴィだ!1人で逃げ出したんだ!)
そう思った瞬間、半ば諦めかけていた脱出を、再開する。
唯一空いている、光差す小さい穴に向かって闇魔法でこじ開けようとする。鋭いドリルのようにして、その穴だけは失わないように掘り進める。
「おうおう、無駄な努力はやめたまえよ。このままおとなしくすり潰されてくれや。あんまり派手にするとバレちまうからな。」
バシバシと俺を包んでいる土を叩いているらしいドンガは、余裕といった口調で俺をからかう。
(コイツを何とかして倒さないと。こいつの供給する魔力さえ止まってくれれば・・・。)
そう思っていると、壁の外で大きな音がして中まで響いてきた。何かが倒れたようなそんな衝撃だった。
そう思っていると、土が簡単に崩れていく。全てが一気に崩れないのでドンガ自体の影響はある事が分かる。
抵抗がなくなったようなそんな感覚から、更に掘り進めると土に塗れた細い指が見えた。
脊髄反射でその指を魔法で掴む。毎日毎日、触れ合っていた指だ、見間違えるなんてない。
その指を起点にして土を弾くようにして崩すと、金色の髪と透き通った青い目をした少女が見えた。
「コーダ!」
「アルヴィ!」
アルヴィのにこやかな顔を見て安堵感を覚えたと同時に、アルヴィの背後からナイフを振りかぶる男のような人が見えた。
顔が無残にも潰されて原型も留めていないような男が、キラリと光るナイフをアルヴィの背中に突き立てたあと、俺から強引に引き剥がした。
「・・・んのクソガキがぁ!土よ!我が敵を貫け!アースニードル!」
簡単にアルヴィの軽い体が宙を舞い、地面から飛び出た土のトゲに落ちていく。
(やめろ。やめろ。行くな!)
俺の願いもむなしく、アルヴィの体が土のトゲに吸い込まれていく。
細く柔らかな背中に突き立った先端は、何の抵抗もなくアルヴィの体内を貫いていく。
先端が反対側から飛び出した時には、赤黒い液体でテラテラと鈍く光っていた。
体は地面に接する事なくトゲの中ほどで止まり、腕をだらりと下げたアルヴィが動き出す事はなかった。
「あ・・・、あ・・・。」
俺はその光景を見ている事しか出来なかった。アルヴィがナイフで刺される時も、アルヴィの体が宙を舞う時も、俺は何も出来なかった。
いつもそうだ。いつも俺は何かあってからしか動けないんだ。
「・・・ハッ!この俺を舐めるなよ!ガキ共がぁ!」
何か雑音が聞こえる。何かが視界の端に映る。
アルヴィの血が地面に滴っている。急いで止血をしなければ。
(そうだ。治療魔法をかけないと。あの時のように俺が助けるんだ。)
体を強引に動かすも土がまとわりついて動けない。邪魔だ。
アルヴィが血を流してるんだ。急げ。
目の前が急に土で覆い尽くされる。耳障りな声が響く。
(邪魔だ。俺とアルヴィの間を邪魔するな。)
俺の世界にお前たちはいらない。アルヴィだけがいい。アルヴィだけがいればいい。
アルヴィ以外ここにいるモノ全てを消え去るように願う。
俺の体の中からどろりとした闇魔法が滲み出るような感覚を覚える。
まるで夜の暗闇が平等に世界を塗りつぶすように、俺を中心に広がっていく。
俺の体を拘束していた土がサラサラと砂のようにほどけていく。上半身が自由になったところで強引に動き出す。急げ。
完全に拘束が解けていなかったのか、前のめりに倒れながらも地面を這って進んでいく。
視界は黒く、周りも全てが闇に包まれている。ただ唯一、アルヴィのところだけが光となって現れている。急げ。
アルヴィの近くに来ると、どろりとした温かな液体を体中に感じながら這い進む。視界は真っ暗闇のまま、ついに辿り着いた。急げ!
「・・・コー、ダ・・・。」
その声を聞いた瞬間に、全てがクリアになる。今まで黒く見えていた景色が、霧が晴れたように散っていく。
俺はアルヴィの声の聞こえた方を見る。
そこにいたのは、白いシャツを赤く染めて、弱々しくも俺に笑いかけてくれている、俺の愛する少女。
血塗れのアルヴィがそこにいた。
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