私だけの、コーダ
アルヴィ視点です。
コーダとは、気付けばずっと一緒にいた。朝起きるのも、食事をするのも、夜眠るのもずっと一緒だった。
それを嫌だなんて思わない。それが普通だし、落ち着く。
コーダからも私を大事にしてくれるのが分かるから、お互いにお互いを好きなのなんて確かめる事なんて無かった。
コーダと出会わなければ、私はどうなっていただろう。母さんが死んだ後、無気力になって跡を追っていたんじゃないかって思う。
私はコーダに救われたんだ。だからこれからもずっと一緒なんだよ?絶対に離さない。
◆
コーダとプレゼント交換をした翌朝。何故かいつもより早くに目が覚めてしまって、寝ぼけながら腕の中にいるコーダの背中に顔を擦り付ける。
昨日は、変な男に捕まりかけてしまったし、クインシーっていう騎士にも触られてしまった。
(私の体はコーダだけの物なのに、私が弱いから・・・。)
すやすやと寝ているコーダの頭を撫でてからベッドから降りる。ぐるっと周りこんでコーダの口をまじまじと覗き込む。
(昨日、もし声をかけられなかったら私はコーダと・・・キス、していたのかな・・・。ルティアさんは恋人とか大事な人とかって言っていたけど・・・。うぅ、恥ずかしくなってきた!)
起こさないように静かに後ずさってから、近くにある椅子に座った。
昨日コーダから贈ってもらった赤い櫛を取り出して、ジッと眺めてから自分の髪を梳かしはじめる。
いつもコーダが手でやってくれるように優しく扱う。面白いようにサラサラに整っていくので、コーダが起きたのに気づけなかった。
「あ、アルヴィ。おは、よう。」
「うん。おはようコーダ。」
どことなく赤い顔をしているコーダに挨拶をする。今日も良いことあるかなぁ。
◆
仕事を手伝ったあと、コーダと一緒に街へ繰り出した。昨日あげたブレスレットをしてくれているようで嬉しくなる。
いつの間にか少し大きくなったコーダを、見上げるようにして手を繋いで歩いていると、かつて私達が通っていた孤児院の院長、マクシームがいた。
マクシームは魔法使いを連れてきていて、コーダの動きを封じたすぐに私を捕まえてしまった。
「きゃぁ!やめて!離して!」
「乱暴な事はしませんからね。この人達に払うお金も必要なんですよ。」
私は捕まえられたまま何処かに運ばれてしまうみたいだ。
動けなくなっているコーダの方に手を伸ばして、助けを求めると同じように手を伸ばしてくれた。
大きな音が鳴って後ろの建物が壊れたけど、コーダはますます土に埋もれていって最後には見えなくなった。
「コーダ!コーダぁ!」
「黙っていなさい!誰か何かで口を塞いでください。」
マクシームに捕まえられながら、布で口を縛られて声が出せなくなってしまう。
(私が弱いから・・・。私がなんにも出来ないからこうなっちゃうんだ!なんとか、なんとかしないと・・・!)
足や手をバタバタと動かして、どうにか逃げようもするも、軽く担がれてしまってあんまり効果は無さそうだった。
(今回は私だけで抜け出さないと。これから一生コーダと会えなくなるなんて嫌だ。)
人目を避けるように路地裏の中に入ってしまう。しばらくおとなしくしていると、不意に足元が何かにクイクイと引っ張られている感覚を覚えた。
それはひどく弱々しく、集中していないと分からないような力だったけど、どこか温かいような気がした。
グネグネと路地を進んでいると、1つの扉の前で止まった。
その扉を開けば、私とコーダの未来が失われてしまうような予感がして、ここが分かれ道だと直感する。
(今、思いっきりお腹を蹴ったらいけるかな。最近はお手伝いばっかりだったけど、ちょっと前まで冒険者だったんだから。・・・よし、せーの!)
周りの人が扉に集中している間に、体を弓なりに反らして振り下ろす。ちょうど足のつま先が体にめり込む感覚を感じながら、担いでいた男の腕から抜け出す。
「ぅぐおっ!」
苦悶の表情を浮かべながら屈んだ男から飛び降りて走り出す。異変に気付いたマクシームも慌てているように見えた。
なぜか自分の足が何か目的地があるように動いている。走るにつれて妙な力が少しずつ強くなっているのが分かる。
私はその力の正体に気付いて、先を急ぐ自分の足に笑いかける。
「行こう、コーダの所へ!」
◆
私が見覚えのある道に出ると、私の背丈ほどの土の小山が出来ていた。
その土の前にはバシバシとそれを叩く男が、屈んで何か語りかけているのが分かる。
自分の直感も足もあそこが目的地だと示していた。
あの中にコーダがいる。まだ生きているんだ。
男の後ろにそっと近づいて、近くにあった石で頭を殴りつける。
痛みで倒れた男に馬乗りになって、何度も何度も叩きつける。
「私の!私の、なの!私だけが、コーダの隣にっ、いるんだから!」
男の顔から血が吹き出して、周りに飛び散っていく。幸いにも自分の体には跳ねなかったけど、手に持つ石や地面にはおびただしい惨状が見えた。
まだうめき声とピクピクと動いている体から、殺したわけじゃないことが分かった。
一息ついた後、そばにある土の小山を調べ出す。上の方に小さな穴が空いていて、そこを指で掘り出していく。
(早くしないといけないのに!早くしないと私とコーダは離ればなれになっちゃうのに!)
指に傷ができようとも、なんとか掘り進める。後ろから叫ぶ声が聞こえてくる。
早く、早く。
その時、指先が向こう側から掴まれる。そしてその穴を中心にして土がボロボロと崩れていく。
そこには暗闇でも爛々と金色に輝き、ギラギラとした目の私の愛する少年がいた。
「コーダ!」
「アルヴィ!」
顔や首だけしか出ていないコーダの頬を触れようと手を伸ばす。
コーダに触りたい、コーダと抱き合いたい、コーダと・・・キスしたい。
そんな時、目の前のコーダが目を見開き、私の名前を叫ぶ。コーダは私ではなく、私の後ろを見ているようだった。
私だけ見ていて欲しいのにと思っていると、胸にピリッとした痛みと異物感を感じた。
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