EX 神、思う
2話飛ばして投稿していました。申し訳ありません!
ベリルテス視点になります。
よろしくお願いします。
我はベリルテス、数多ある世界の管理者である。
世界の管理はひどく単純で、例えば世界が暑くなれば寒くする、例えばある生物が多くなれば災害を発生させて殺すといったものだ。そのような単調な作業に飽きた我は人間の魂を弄ぶことにしたのだ。
人間とは面白い。この生物が多少居なくなったところでまた増えていく。そして人間という生物の感情を喰うことが、我の荒んだ心を癒してくれたのだ。特に絶望だ。我は絶望をした魂を喰らうのを至上の悦びとしている。
つい菓子を摘んでしまう、そんな感覚で。
◆
我は絶望し叫喚の渦に巻き込まれたような場所が特に好みだ。事故現場などという言葉は最もそそる。
普段は人間がまばらだが、陰鬱な雰囲気のある過去の事故現場を再現した博物館が大のお気に入りであった。唯一の欠点は人間がいないこと。しかし今日だけは違った。
館内は、普段の静寂と違い人間の作り出す雑踏を音楽にして我を出迎えてくれた。日々を退屈に過ごす我への褒美なのだと思った。もっと近くで観察してみたい、と思うにはそう時間は掛からなかっただろう。
多くは若い人間達のようだった。若い人間は良い。感情が激しく揺れ動くからだ。中には凄惨な事故の説明を聞いて顔を青くするものまでおる。よいな・・・よいぞ・・・もっとだ、もっと見せてくれ、と近づき過ぎたのだろう。若者達の中の1人の男と目があった。
するとどうだ、こちらを注視したかと思えば小さい悲鳴を上げたではないか。やはり良いな若者というのは、あの若者は去っていってしまったが、今日はあの魂を喰うことにするか。
観覧を終えたあとは集団で固まって車で移動しているようだ。我は空中で追跡をしながら考える。こうも我のためにお膳立てをしてくれているのだ。失敗しないようにしなければ。
まず、凄惨な事故をさせるためには、もう一つ同じような質量のものが必要だ。それと場所だ。事故は多くの目に触れなければ謎で終わってしまう。それはいけない。
衆人環視の中で大きな音を出してもらわなければ。交通量も多過ぎてはいけない。詰まり過ぎて速度を落としてしまうからだ。
我は先ほど目があった若者の絶望を想像しながら、思案し続けるのだった。
◆
空が夕焼けから夜の暗闇に移り変わろうとしている頃、我は良い場所を見つけた。長い直線で小さな事故すら起こりそうにない見通しの良い場所。近くに人間達の家も固まっている。ここだ。
ちょうど向かいから大きな車が近づいてきている。我のため人間達は舞台を整えてくれている。
感謝の意を込めて若者達の乗ったバスに魔法をかける。闇属性の睡眠魔法と遠隔操作魔法を使い、乗員乗客を眠らせ、あの大きな車へ誘う。
向こう側の車は、急に自分の目の前に横切ってきた車にブレーキが間に合わなかっただろう。耳をつんざくような大きな音が鳴る。
よいぞ・・・くくっ。
我よ、まだ笑うな。抑えきれない歓喜と恍惚な表情を携えながらも、近くに寄って観察しなければと急ぐ。
若者達の車には33人乗っていたようだが8人は即死しているか・・・。まあ良い。だが残りの者達は今の衝撃や痛みで跳ね起きて阿鼻叫喚といったところだ。
この大きさの音だ。すぐに人が集まり情報は拡散され痛ましい事故として記録されるだろう。我の作品としてお気に入りのあの場所に展示されるかも知れない。そしてこの若者達は絶望と恐怖で自らの魂を染め上げるのだろう。
くくっ・・・。ああもう抑えられん・・・!
この痛ましい事故を作れた達成感と欲望が満たされたことで、我は全身全霊で精一杯この歓喜を表現したのだった。