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サマター男爵領騎士団

アルヴィ視点になります。


 私がこの宿───ブローヌという名前だという───で働くようになって、もう2週間ほどが経った。

 最初は、見知らぬ土地でコーダと離れる事になるんじゃって心配してたけど、コーダも夜には帰ってくるのでそれから一緒に過ごせるようで安心してる。


 ここの仕事は大変だけど、お客さんにお礼を言われる時は、何だか良い気持ちになって顔が綻んでしまう。

 いつも受付にいるルティアさんにも、看板娘のようだって言われるのが何だかむず痒くなることもある。


 母さんが死んでからはコーダにべったりだったけど、最近では、これを機にもっと色んな世界を見てみたいなんて思う事もあるの。当然、コーダも一緒にね。



 ある朝、部屋の掃除をしているとお客さんが廊下の隅で抱き合っているのが見えた。


(えっ・・・?なに2人して口を合わせて・・・。)


 私がジッと見ていたら、私の後ろからルティアさんが近づいて来るのに気がついた。

 私は小声でこっちに近づくルティアさんを押し留める。


「あぁ、今は行かない方がいい気がしますっ。なんだか2人の邪魔をしてはいけない気がしますっ。」

「あら?どうしたのよ慌てて。・・・あーなるほどね、アルヴィちゃんちょっとコッチに来なさいな。」


 私がルティアさんを通さないようにと伸ばしていた手を引っ張り、廊下から遠ざけていく。

 ルティアさんは私の耳元でコッソリと、今の光景を解説してくれた。


「あれはね?恋人同士でするものなの。すごく愛おしくって大事な人とする儀式のようなもの。キスって言うのよ?」

「キス・・・。」


(私の愛おしくて大事な人は、コーダ。コーダとさっきみたいな事するんだ・・・。コーダとなら私は・・・。)


 キスの事を聞いた私が黙り込んでしまったのを見たルティアさんは、少しにやけたような顔でイタズラっぽく私の頬をつついた。


「あぁーアルヴィちゃん、想像してるのねー?でもホントに好きで大切な人じゃないとダメよ?結婚して家族になれるような人じゃないとダメなのよ。」

「け、けっこん!?かぞく!?」


 私はその一言に焦って大きな声を出してしまう。結婚なら知ってる。お母さんとお父さんになって子供がいる、そんな関係になる事。

 コーダとそういう関係になっちゃうんだ。うぅ、何だか恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。


「・・・アルヴィちゃん、あなたもう好きな男の子がいるのね?幸せ者ね、こんな可愛い子に好かれるなんて。」

「うぅぅ・・・、恥ずかしい・・・。」


 その日は一日、顔が火照っていてあまり仕事にならなかった。大人の男女を見るたびに、ルティアさんの言葉を思い出して、顔が熱くなってしまうから。


 夜、コーダと同じベッドに入る時も、顔を見られなくて背中合わせになってしまう。

 そんな私を心配してか、頭を撫でて暖かい魔法の光を当ててくれるコーダの事を想いながらいつの間にか寝てしまっていた。



 そこから更に1週間が経った頃、外が騒がしくなって鎧を着たような人達を多く見かけるようになった。


「珍しいねぇ。ありゃあ、男爵直属の騎士だね。家紋がしっかりと刻印されてるだろ?何か事件でもあったのかねぇ。」


 コッティさんがあの鎧の人達を見てそんな事を呟いていた。



・・・事件で思い当たるのは、この前の孤児院での一件。あれから1か月ほどが経っているから、逃げた私達の居場所が分かったんじゃって不安になってしまう。


 それに今日は偶然にも、井戸に水を汲みにいく当番になっている。

 ここから5分くらいの距離だけど、その道のりが途方も無く怖くなってくる。


(大丈夫。いつも通りに行って帰ってくればいいんだから。今はコーダもいない、私がしっかりしないと、また心配をかけちゃう。)


 コーダは私に過保護なくらい世話してくれる。そんなコーダにいつも感謝してるし、プレゼントだってこの前買ってきたところだ。

 こんなところで何かあっても良くない。今日を乗り切って、今夜渡すのよ。


 私は、裏口から大きなバケツを持って外に出る。何だか今日は一段と、肌寒い気がした。



 水を汲んだあと、両手で持ってヨチヨチと帰っている。

 水を入れたバケツは、歩くたびにチャプチャプと音を立てていて、こぼさないようにゆっくりと歩いている。


 いつもはこの辺りの人気が少ないけど、今日は珍しく大人の男の人が2人、前から歩いて来ていた。


 あの一件があってから1人で男の人に会うのが怖い。あまり目を合わせないようにして、すれ違おうとした時に強く腕を掴まれた。


「きゃぁ!」

「えれぇ上玉だなあ。こんな田舎にこんな娘がいるとはなあ。ぐへへ、おい袋持ってこい!」

「おうとも!ロンバードが大ポカやらかしちまってから買い手が減ったからな。ここらでアデルに売り付けてやろうぜ!」


 この男達は私を(さら)おうとしているんだ!そう思っても力が入らない。何とか持っているバケツを振り回すも、あまり効果がないみたい。


「おうおう、元気な嬢ちゃんだ。まぁ安心しな。ちょっとばかし貴族に遊ばれるだけだからよ。」

「いやっ、やだぁ・・・。コーダぁ・・・。」


 あの時の恐怖が頭を駆け巡り、また嫌な事をされるんだという思考に支配される。

 貴族、という言葉にビクリと肩を震わせていると、遠くの方から声が聞こえた。


「うぉ!やべえ騎士だ!とっとと逃げるぞ!」

「くっそーもう少しだったのによぉ。嬢ちゃん、命拾いしたな?げへへっ。」


 男達に乱暴に腕を払われて地面に投げ出される。解放された安堵感と腕に残る痛みに、少し涙がでてしまっていた。



 さっきの声は騎士の人だったみたいで、ガチャガチャと音を鳴らしながら駆け寄ってきていた。


「君!大丈夫かい!?あの男達は?」

「・・・し、しらない。急に腕をつかまれて・・・。」

「そうか。でももう大丈夫だから。あの男達は私達が逃さないからね。・・・お前らはさっきの男達を追え!」


 抱き起こしてくれた騎士の人は、いつの間にか後を着いてきていた他の2人の騎士に指示を出していた。私はそんな光景を見ながら慌てて感謝の言葉を伝えた。


「あ、ありがとうございます!助けてくださって!」

「いいんだ、これも騎士の務めだからね。それに君のような少女は、我々にとっては見過ごせないしね。」

「それって、どういう・・・。」


 騎士の人の言った言葉が理解出来なくてぽかんとしていると、私を地面に立たせて土を払ってくれてから自己紹介をした。


「私の名前はクインシー。サマター男爵領騎士団所属の騎士だ。男爵様の指示でここの辺りを調査に来ているんだ。」

「クインシー、さん・・・。」


 目の前の騎士の人、クインシーさんははにかむような笑顔を向けながらそう言ってくれた。


「君の家へ送るよ。1人は危ないからね。あと名前を教えて欲しいんだけどいいかな?」

「わ、私の名前はアルヴィです。あ、水を汲まないといけないんです。少し待っていてください!」


 私が慌ててバケツに水を汲んだあと、宿への道を進む。行きとは違って私の横には鎧をまとった騎士がいる。


 でも私は助けてくれた騎士の人が声をかけてくれても、生返事を返すだけ。やっぱり少し怖いような気がして心を開けないでいた。


(やっぱり私の横にはコーダがいて欲しい。助けてくれたのがコーダだったなら、私は・・・。)


 少し顔を赤くしながら道を歩く。さっきまで感じていた怖さはもう何処かへ行ってしまっていた。

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