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新しい住処

主人公視点です。


 何処を見ても暗い夜闇(やあん)の中を当てもなく進む。

 腕の中のアルヴィはすやすやと寝てしまっており、起こさないように闇魔法で風除けを作って静かに飛び続ける。


 たまに火が揺れているような光が見えるが、人の影が見えるので近寄らないようにした。



 速度が落ちてきたら建物の屋根に足をかけて、磁力反発で跳ねるように加速をつける。

 慣性移動している間は魔力を使わなくていいけど、孤児院での戦闘からずっと使い続けているので残りの魔力は少なくなっている。


(早めにどこかに降りないと墜落してしまいそうだ。俺はいいけど、アルヴィに怪我をさせる訳にはいかないな。)


 それからしばらく進んでいると、ぽっかりと夜にも関わらず明るい街並みが見えてきた。


(繁華街かなにかか?なら宿でもあるだろうしこの辺で降りようか。)


 闇魔法を地面に設置して、抵抗力を上げた粘性の液体に沈み込むようにして着地する。もし姿が見えるようなら、急激に速度が落ちたように見えるだろう。



 光が見える場所に近づいて見ると、宿が軒を連ねる宿場町のようだった。この世界では珍しく夜まで店が開いているようで、まばらだが人が歩いている。


 宿の玄関には火が灯っており、オレンジ色の光が幻想的な光景を生み出している。


 どおりで明るい訳だと思いながら道を進んでいくが、見るからに高級な宿ばかりで、子供がおいそれと(・・・・・)入れるような雰囲気ではなかった。

 

(アルヴィと路地で夜を明かす訳にはいかないぞ。せめて寝床を1つだけでも確保しないと。)



 そんな事を思いながら道を歩いていると、少し外れた場所に小さな宿があった。今いる所からは離れているが、入り口に火が灯っておりガラス戸から受付が見えた。


 その場から顔を覗かせて中を確認したあと、建物の陰に隠れて隠蔽魔法を解く。

 アルヴィの体を魔法で支えながら肩を揺すって起こす事にした。



 まだ欠伸をしているアルヴィの手を引いて宿の前まで歩いた。

 もう深夜に差し掛かっている時間帯なので、泊めてくれるか心配だけど試してみないと始まらない。


 鈴のような音を鳴らしながらガラス戸を開けて、中に入ってみると薄暗いがしっかりと宿のような雰囲気を感じさせた。

 入り口から入ったすぐの、背伸びしても届かないような受付へ近づく。


 アルヴィにはその辺にあった椅子に座ってもらい、俺は椅子に登って身を乗り出すようにして中を覗く。

 ちょうど向こうからも、火に照らされた黒い人影が歩いて来たところだった。


「おや、珍しいねぇこんな夜更けに。いらっしゃい。」

「とりあえず1日泊めさせてもらいたいんですけど。」

「ん?その声・・・、よく見たら子供かい?珍しいにも程があるねぇ。」

 

 火の点いた蝋燭を揺らしながら出てきたのは、白いざんばら髪の老婆だった。薄暗いが60代くらいの年齢だろうか。

 その姿に一瞬身を固くしてしまったが、今は何とかして部屋を取らないと。

 

「1人部屋でいいんで、空いてますか?」

「部屋は空いてるけどねぇ、ウチは前払いだよ。金はあるのかい?」


 夜も深いので静かな声で話す老婆の言葉に頷いて、腰につけた巾着を取り出す。

 魔法で補強してあるので、俺以外が触っても簡単には取れないようになっている。

 

「お金はあります。」

「へぇ、大した子供だ。1晩1クローネ、メシもつけるなら2クローネさね。」


 俺は巾着袋をまさぐってユク硬貨より大きな硬貨を4枚出した。

 手に持って老婆に渡したあと、何故か老婆は火に近づけてまじまじと見始める。


「・・・ん?ああ、子供だし作りモンじゃないかって思ってね。疑って悪かったよ、メシ付き2人だね。ここに名前書いておくれ。いや書けるかい?」

「大丈夫です。」


 疑われるのは仕方ない。紙束と羽ペンのようなものを渡されたので、俺とアルヴィの名前を同じ所に書いた。

 老婆は書いたのを見計らって紙束を取っていった。


「・・・コーダとアルヴィね。ならあんたから見て左の奥にひと部屋あるだろ?あそこが1人部屋さ。3号室と言うんだ。ベッドが1つしかないけどいいんだね?」

「はい。ではお世話になります。」


 老婆に礼をして椅子から降りてアルヴィに声をかけようとしたが、眠気に勝てなかったのか寝てしまっていた。


「おや、寝てしまったのかい?」

「ええ。なんかそうみたいですね。」

「運ぶの手伝おうかい?1人じゃ難しいだろう。」

「いえ、大丈夫ですよ。そうだ水あります?体を拭きたいんですが。」


 そう言う老婆に断りを入れつつアルヴィを抱え上げる。水が入ったバケツと布を受け取ったあと部屋に向かって歩き出す。

 当然、魔法の補助があるけど、後ろから俺を褒めるような声が聞こえた。


「大したもんだ。早くお休みよ。」

「はい、お休みなさい。」


 部屋のドアを片手で開けて中へ入り込む。まだこっちを見ているかも知れない老婆に軽く会釈をしてからドアを閉めた。



 部屋の中は、ベッドと机と椅子があるくらいで閑散としている。

 ガラス窓からは、外の微かな光を取り込んでいて、薄暗いけどどこに物があるかくらいは分かる。


 アルヴィをベッドに寝かせてから、周囲の確認を始めた。


(・・・ドアの向こうには人の気配はないな。窓は簡単な作りのガラス窓か。心配だし雷魔法の罠でも設置しておこう。)


 雷魔法を窓の取手あたりに滞空させておく。誰かが窓を開けてもすぐに気づけるように、静電気程度の威力に抑えておこう。


 あらかた確認を終えた俺は、アルヴィの体を水で絞った布で拭き始める。あくまでも外に出ている部分だけだ。特に髪の毛は重点的に。

 最後に聖魔法で浄化するイメージでかける。心無しかサラサラしたような印象を受けた。


 俺の体は適当に拭いてから、水を絞るとバケツに赤黒い水が溜まっていた。

 

(よく見たら服がボロボロだ。外套でもいいから羽織っておくんだった。アルヴィにも辛い思いをさせてしまったな。ああなる前に対処しなければいけなかったのに。)


 服に穴が空いていたり焦げて生地が固くなっている箇所も多く、反省するとキリがない。

 初めてのまともな戦闘だったんだ、次はもう少し賢く立ち回らないと。



 俺がモゾモゾとベッドに入ると、寝言で俺の名前を呼んでいるアルヴィの頭を撫でて横になる。

 

 アルヴィに固執していたあの貴族は殺しちゃいない。追跡されるのも面倒だし、何か手を考えておかないと。

 貴族という者達は、ああいうクズばかりなんだろうか。金に余裕があるから出来るんだし、そういうヤツも他にいるんだろうな。

 そんな事を思いながら今日は休む事にした。



 目を閉じて数瞬あと、コツコツと床を歩く音を耳にした。その音に気付いて急いで体を起こす。

 いつでも魔法を発動出来るようにして、音が聞こえるドアの方向をジッと見る。


 音が部屋の前で止まり、ドアを叩き始めた。


「朝ですよ。起きてますか?」

「・・・はい。起きてます!」

「あら、そうなのね。朝食を廊下の机に置いておくから早めに食べてくださいね。」

「あ、ありがとうございます!」


 そしてその声の主は、再び床を歩く音を立てながら去っていった。



(あぁくそっ。昨日の今日だからってビビりすぎだ。というかもう朝か。)


 今更、周りが明るくなっている事に気づいた。窓を見ても昨日のように薄暗いなんて事はなく、陽光が差し込み部屋を照らしていた。

 全く寝ていた感覚が無い。時間的には4、5時間くらいか。


 朝食だと言っていたのを思い出し、アルヴィを揺すって起こす。


「アルヴィ、起きて。朝食出来てるよ。」

「うぅん・・・、ちょう、しょく?・・・そんなに、寝ちゃってたっけ・・・。」


 アルヴィは意外にもすぐ起きた。朝食だと言うと早いのかも知れない。体を起こしながら目を擦りって周りを見回している。


「・・・え。ここ・・・どこ?」

「昨日、宿を取ったんだ。それで朝食を持って来てくれたんだって。」

「昨日・・・?昨日!コーダ怪我ない!?大丈夫だよね!?」


 昨日の事を思い出して俺の心配をしてくれたのか、俺の体中をまさぐってきた。


「大丈夫だからっ。怪我もすぐ治したし汚れもないし!ちょっと落ち着いてよ!」

「本当に本当だよね?・・・うん、コーダの匂いって落ち着くね。」

「そう言う事じゃないんだって!とにかく食べよう!」


 アルヴィに抱きつかれるのが流石に恥ずかしくなったので、強引に引き剥がしてベッドから降りる。

 照れ顔をアルヴィに見られないようにそそくさとドアを開けた。


 入る時は気づかなかったが、3段ある机がドアから続く廊下にあった。更に廊下沿いには2部屋あるようで、机の構造に合点がいった。


 その机から3号室と書かれた2人分の食事を持って部屋に戻った。

 部屋の中の机に置いてからアルヴィに声をかける。


「さ、早く食べてしまおうよ。これからの事も話したいからね。」

「・・・これからの事、か。うんコーダとなら頑張れる。」


 そう言うアルヴィと共に向かい合わせで座って食事を取った。パンとスープと野菜の簡単な食事だったけど美味しかった。アルヴィが一緒ならきっと何処でも大丈夫。

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