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セレスティアルと婚約者

少し長めです。


 前にお父様から言われた事が、私の運命を変えてしまったんじゃないかと思ってしまう。婚約者に選ばれたなんて、聞かなければ良かった。

 私は公爵家の長女で第一王子の婚約者候補。当然、王宮に訪問すれば待遇は良いはずだった。

 でも今いるのは、よく手入れされた庭園の一角、少し建物とは離れた東屋だった。

 

 私は今、第一王子から逃げている。



 お父様のお仕事を見学する名目で、王宮に訪問した私達は、王様にご挨拶するために応接間まで来ていた。

 中は、豪華絢爛とまではいかないが、装飾品はキラキラと家具は素材を活かして艶めくような鈍い輝きを出している。

 座っているソファも、手前が硬く奥がゆったりと柔らかくてとても座りやすい。


 しばらくお母様と侍女達と待っていると、お父様がドアから入ってきた。


「やあ、今日は来てくれてありがとう。王様はまだ公務があるのでね、今日は王子並びに王女殿下方が挨拶に来て下さったんだ。大丈夫かな?」

「ええ、こちらとしても有難いわ。是非ご挨拶したいわ。」

「そうか。では入室して頂くよう。どうぞお入りになってください。」


 お父様がそう言うと、私達が座っている訳にもいかないので立ち上がって待っていると、まず金色の髪の毛が見えた。

 最初に入ってきた男の子は、青い色の目を吊り上げて偉そうな雰囲気がにじみ出ている。

 2番目に入ってきたのは女の子で、続く子も女の子だった。この2人は同じ金髪だけど、背が高い方が青くて、もう1人が薄銀色だった。最初の男の子と違って、取っ付きやすそうでこっちに笑顔を向けてくれている。


 最後に入ってきたのは男の子だった。この子だけ、髪の色が空のように透き通った薄い青色で目も同じように青かった。少し非現実的な色をしていたので、他の3人とは、しっくりこない印象を受けた。


(最後の子はお母さんが違うのかな。一番小さいし、あれが第二王子なんだろうなぁ。)



 全員が並び終えた所でお父様から合図があり、第一王子から口を開いた。


「オレは、ネルケルト王国、だい一王子のルイスだ。」

「・・・私は第一王女のフィオレンサよ。フィオって呼んでくれていいわよ。よろしくねっ。」

「私は第二王女のレティ。よろしく。」

「最後に、私は第二王子のシータイトと申します。本日はようこそおいで下さいました。」


 目の前の4人が続けて挨拶をしてくれたのでこちらも返さないといけない。まずお母様がした後に、私の番が回ってきた。


「私は、デルセン公爵家の長女、セレスティアルです。王子並びに王女殿下、以後お見知り置きを。」


「おい、お前。セレスティアルとか言うの。おれのこんやくしゃなんだってな?なにかとくいなことあるか?」

「はい、私は魔法を使う事ができます。セリスという方からもお墨付きを貰うほどですが、まだまだ使いこなすほどまででは。」


 私が謙遜しながら魔法が得意である事を言うと、偉そうなルイス王子がズカズカとこちらに歩いてきてこう言った。


「魔法がとくいなのだな。オレもそうなのだ。今から外へいってお前の魔法をみせてくれ。」

「え、えぇ。勿論でございますわ。」


 何を言われるかと思ったけど、外で遊びたいだけか。出来るだけ好印象にしておいて、婚約者になるかどうかは後で考えよう。


 ただ目の前のルイス王子はにやけているような顔だったけど、その向こうにいる王女達は何か心配しているような顔だったのが気になった。



 お母様はお父様と連れ立って大人のお話があるみたいで部屋で別れてきた。

 何人かの侍従を連れて中庭に出たあと、ルイス王子に周りに何もない場所に誘導された。


 私の得意な魔法が見たいという事だったので、その場所でどういう風にしようかと思い、呪文を唱える。


 5cmほどの水球を3つ宙に浮かべ、宙で遊ばせたあと3つの水球をぶつけて細かな霧を作った。

 そこへ聖魔法で光を当てると、その空間だけ虹が架かったようにキラキラと輝いていた。


(水と光だったら一番に思いつくのは、虹だよね。さて反応はどうかしら。)


「どうでしょう。私は水と聖に適性があるんです。」

「凄いわ!綺麗なものねぇ。ほら、ルイスも!あなたのためにやってくれたのよ?何か言いなさい。」


 フィオレンサ王女は私の虹の魔法を気に入ってくれたみたいだった。でも当のルイス王子は不満げな顔をしていた。


「・・・ハッ!こどもだましだな。これで何になるんだ。芸でもやって金をせびろうなどと考えているのではないな?」

「ル、ルイス、あなたねえ・・・。」

「姉上はだまっていろ!魔法というのは強くなければならんのだ!見せてやる、魔法とはこういうものだ!」


 口角を吊り上げたルイス王子は私の方へ手を向けて呪文を唱えた。手に炎が集まっている。


(私の方へ飛ばすつもりなんじゃないでしょうね・・・?ま、まさか、でも。)


「炎よ、わが敵をつらぬけ!ファイアアロー!」


 案の定、私に向けて魔法を使ってきた。炎の矢は私をすり抜けて後方の地面で爆発した。

 私はそばを通る炎の音を聞いた瞬間に叫び声を上げて、反射的に反対方向へ逃げ飛んでいた。


「きゃあ!!」

「ふはははっ!いやあすまん。手がすべった。」


 なんなのこいつ・・・。当たったら怪我じゃ済まなかった威力よ。あんな魔法を人に向けるなんて、正気じゃないわ。

 周りにいた王女達はしばらく呆然としていたけど、今にも詰め寄ってすごい剣幕で怒っている。


「ルイス!あなた今何をしたか分かってるの!?」

「オレは魔法とはこうあるべきだとおしえてやったのだ。姉上はだまっていろ。」

「あなたねぇ・・・。謝りなさい。今すぐ謝るの。それならお父様にも報告しないから。」


 ルイス王子はフィオレンサ王女に叱られているけど、どこ吹く風といった感じで全く気にしていないようだった。

 逆にフィオレンサ王女が何か言うたびに、怒りが増しているようにも見えた。


「オレがあやまるだと?未来の王たるオレが?そんなフヌケたことができるか!」


 怒りのままに魔法を暴発させて、先程と同じような魔法が中庭の地面をえぐっていた。

 私の方まで飛んできた魔法もあり、近くの木に当たって半ばから折れてしまった。


「ひぃっ!」


(冗談じゃない・・・。こんなののそばにいたら命がいくつあっても足りないわ・・・。)


 私は意を決して駆け出した。どことも分からず走る。とにかくこの場から離れなくちゃ。

 私の足音に気づいたのか、誰かが私を止めるような事を言っている。


「あ、あなた!待ちなさい!」

「フィオ、僕が探しに行きます。レティは誰か大人の人を呼んできて。」

「任せて。」



 私は東屋で人心地ついていた。あんな凶暴な王子なんて聞いてない。

 子供の頃の癇癪持ちってやつなんだろうか、魔法っていう力があるからこそ凶暴になってしまったのかもしれない。


(こんなはずじゃ無かったのに。仲良くなって婚約者になって未来の王妃に、なんて思っていたけどこれじゃあね。)


 そんな事を思っていると、急に突風が吹いた。私の髪を草や土ごと巻き上げて、おさまったころには髪もボサボサであられもない状態になっていた。

 私は髪を気怠げに整えながらため息をついてしまった。


「はぁ・・・。何でこんな事に。」

「さて、やはり兄の婚約者などに選ばれてしまったから、でしょうか。」


 さっきまで誰もいなかったはずの東屋に声がした。

 バッと声のした方を見ると、薄青髪の少年が東屋の椅子に腰掛けて、にこやかにこっちを見ていた。


「探しましたよ?セレスティアルさん。お怪我がなくて何よりです。」

「あ、あなたは・・・。シータイト様・・・。」


 声の主はこの国の第二王子のシータイト王子だった。急にいろいろ起こりすぎて混乱していると、シータイト王子がこんな事を言ってきた。


「実は、昔の兄はあのような人では無かったのです。今では暴力を振るうような人ですが、根は非常にお優しいのです。・・・ですからセレスティアルさんには、兄の婚約者になっていただきたいと僕は思っています。」

「ですが・・・私はあのルイス王子の性格が、とても私の手に負えるものではないと考えています。」


 私の思った事を率直に話してしまった。本人に聞かれていたらすごく失礼だけど、あんなのを目の当たりにしたら身を引いてしまうのは確かだった。


「ええ、セレスティアルさんのご懸念は尤もです。ですが今から僕が話す内容如何(いかん)では首を縦に振ってくれると嬉しいです。」

「お話、ですか。」


 この少年は一体何を言っているのだろう。同い年と言っていたけど、得体の知れない何かと話している感覚になる。


「僕の話というのは、このまま兄が横暴を続けるのなら、兄は王になれないというものです。兄が王になれないとあの性格ゆえに孤立してしまうでしょう。ですのでセレスティアルさんには兄の逃げ場(・・・)になって頂きたい。」

「あ・・・え?」


 話の内容が衝撃的すぎて理解できるのに、反応が出来ない。第一王子が王になれない日が来るというのだろうか。

 じゃあ私は何のための婚約者なんだろうか。


「おっとまだあなたの利益の部分を話していませんでしたね。あなたが今、婚約者になって頂けるのならば僕がセレスティアルさんの未来を約束しましょう。お金も自由、権力も自由、生活も自由です。」

「・・・そんな事が可能なのですか?」


 私がそう言うと一瞬シータイト王子が笑った気がした。


「僕の言う通りにしてくれればですが。」

「一応、話だけなら。」



 シータイト王子が言うには、ルイス王子には味方が少ないらしい。あんな暴力があるんなら、下手に刺激して被害を受けるのは馬鹿らしいし当然だと思う。


 そこでシータイト王子はこういう提案をしてきた。ルイス王子には、優しくされた経験や頼ってもらえた経験が少ないから、一番の理解者でを欲しているという話をされた。


 婚約者ならそのポジションにいる事は違和感がないし、後々に邪推される心配もないだろうという事だった。

 だけどその目的のための手段に私は驚いた。


「私がシータイト王子を侮蔑するのですか!?」

「はい。兄は僕の事を馬鹿にすることで精神的優位性を得ています。それに同調する人間がいれば心を開きますし、婚約者とならば一層の信頼と依存の対象になるでしょう。」


「私はそこで、ルイス王子の逃げ場となりルイス王子を制御できる存在となる、と。」

「ええ、そういうことです。僕に悪口をいう時は躊躇してはなりませんよ?僕はあなたを決して裁きませんから。兄の味方である限りは、ですけど。」


 シータイト王子は話は終わったとばかりに立ち上がり、私に手を差し出してきた。


「ではこれから戻りましょう。皆が探していますからね。」

「はい・・・、でもどうやって。ここが何処だか分からないんです。」

「ええ、ですからこうしましょう。僕の手を離さないでくださいね。」


 シータイト王子はそう言うと、私の手を取り東屋を出た後、呪文を唱え始めた。

 私は全く聞いたこともない呪文だった。


「風よ、我が翼となり我を包め、レビテーション。」


 淡い緑色の光が私達を包むと、風が周りの土を巻き上げて竜巻のように渦を巻いていた。

 ふと足元がふわりと浮いたような感覚を覚えて、地面を見ると足元から数センチほど浮いていた。


「きゃぁ!・・・う、ういて・・・。」

「では飛び上がりますので口を閉じていて下さいね。」


 私の隣のシータイト王子がそう言った後に、下から何かが押し上げたと思うと空中に飛び上がってしまった。

 足元はふんわりとしたクッションに立っているみたいで、手はしっかりと繋いでいるので、落ちはしないけど全く安心はできなかった。


「そ、そら!とんでるっ!?」

「ええ。ここから庭の近くまで行きましょう。先に降りてもらった後、僕に乱暴にされたとかなんとか言って下さればいいので。」


 私は地面に付くまで心臓がバクバクと脈打たせて心休まる時が無かったのだった。


(兄も兄なら弟も弟よ!なんなのこの兄弟は!)



 庭の近くで下ろしてもらい、少し息をついたあと駆け出した。この得体の知れない少年から今すぐ離れたかったから。

 この少年から危害を加えられない唯一の方法が、第一王子の婚約者なら私は喜んでそっちを選ぶ。


 庭に着いたあと、大人に説教を受けているようなルイス王子に勢いよく抱きついた。


「きっ!キサマ、不敬だぞ!」

「助けてください!シータイト王子が私に乱暴をしてきたのです!ルイス王子、あの無礼者に罰を!」


 ルイス王子は状況が掴めないようにしていたけど、私の後に帰ってきたシータイト王子を見てにやりと得意気な顔になった。


「ハッ!お前、この女にらんぼうなことをしたらしいじゃないか。姉上達にチヤホヤされたからっていい気になって、こんどはオレの婚約者にも何かしたのか、ええ?」

「いえ僕は魔法を使って、セレスティアル様を探していただけです。」


 周りには王女達はいない。心にもない事を言うのは躊躇われるけど、聞かれる人が多いよりは少ない方が気が楽だ。


「いえ!あなたは魔法で私の髪を乱暴にかき乱しあと、ルイス王子の婚約者たる私の手を取ってきたではないですか!?」

「くははっ!ユカイだな下民!誰でもお前にやさしいと思ったら大まちがいだ!」


 とりあえず、ルイス王子のご機嫌は取れたようで安堵した。

 シータイト王子の方は、ルイス王子に何を言われようともどこ吹く風という感じで、やっぱりこの人たちは兄弟なんだと思ってしまった。


 シータイト王子は、そのきれいな瞳を細めて薄い笑顔を見せている。

 私はそんな顔を見てぶるりと肌を震わせてしまったのだった。


次回から第六章になります。


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