ユージェステルの想い
伯爵家長男に転生したユージェステルのお話です。
父さんと母さんに魔法の事を聞いてから2年が過ぎた。あれ以来、魔法を勉強するのは、前世みてーな勉強とは違ってめちゃくちゃ面白いので、一日中魔法で遊んでる。
イメージと呪文だけで、俺の体から超常的なものが生まれるんだから、それはもう楽しいんだ。
今日は、母さんの妹の家へ旅行しに行くことになってる。そこには俺と同じくらいの子供がいるみてーで、友達になれるといいなーなんて思ってる。
今は出発前夜、両親とともに夕食を食べているところだ。
「今日ねイーリスと一緒に、外に買い物に行ったんだ。いつも行く果物屋の人が一緒に行ったからって値引きしてくれたんだ!」
「そうか、ジェスティは偉いな。パパも鼻が高いよ。」
「ええとても良い子ね。」
俺の両親は、俺の名前を縮めてジェスティと呼んでくれてる。愛称みたいでイーリスや他の使用人達も呼んで欲しいけど、なんかダメみたいだった。
その後も、家族3人で仲睦まじく夕食をとっていると、父さんが明日の予定の確認をし始めた。
「明日はブラッドベリー子爵領の西部にある家へお邪魔するんだ。朝から行けば夕方には着くだろうね。で、ここからが重要なんだけど、よく聞いてね。」
「うん。どうしたの?」
「他人の家って事もあってね。外では、私達の事をお父様、お母様と呼んでくれるかい?あと出来るなら、敬語でね。」
(なるほど。確かに貴族ってそーいうイメージあるよな。子供が無邪気ってのも良いけど、キッチリしねーといけねーなら仕方ねえ。)
俺は出来るだけキリッとした真面目な表情で、目の前の両親に挨拶した。
「分かりました、お父様、お母様。明日はよろしくお願いします。」
「・・・・・・。」
両親も周りの給仕達も、俺の余りにも急激な変化に戸惑ってしまっていた。
◆
今、俺は馬車に揺られブラッドベリー家へ目指している。見晴らしの良い街道を進んでいるので、景色が変わってけっこう面白いトコだ。
馬車には両親も同乗していて、俺が外の景色に感動すると解説をしてくれてる。
周りには馬に跨った騎士団もいて、強そーな鎧や腰に下げた剣なんかを見て子供のように騒いでいた事もあった。
昼から夕方に差し掛かる頃、街道から街の正門が見えてきた。大きい架け橋があってそこに検問も見えた。
俺の家から街を出る時もあったし、昔の日本であった関所みてーなものかと思って馬車から手続きを覗いていた。
橋を渡ったあと、商店や屋台が並んでいる方へは行かずに、どちらかと言えば自然が広がっている方へ馬車は進んで行った。
「この辺りはね、ブラッドベリー家の敷地内なんだよ?牧場を持っててね、この草原全てが家の庭なんだ。」
「すっごーい!そんなに大きいなら色んな動物がいるのかな!?」
「ふふ、それは行ってのお楽しみね。」
俺はテンションを上げて外を見ていると、やがて屋敷が見えてきた。そこには人が並んでいるのも見えてお出迎えしているようだった。
「もうそろそろ着きそうね。ジェスティも準備しなさいね。」
「はい、お母様。」
俺の不意な変わりように驚いてしまった母さんに、俺は舌を出してイタズラが成功した事を喜んだ。
「もう、ジェスティったらビックリさせないで。」
「ふふふっ、楽しい旅行になりそうだ。はははっ。」
俺達は馬車が止まるまで笑い合っていた。
◆
玄関まで着くと、両親とともに馬車を降りた。玄関先にはブラッドベリー家であろう人達がいて、俺達を出迎えてくれた。
「ようこそ!お義兄さん!いやあお久しぶりですね。ゆっくりしていってください。」
「ああ、久しぶりだねボイセン。しばらくよろしく頼むよ。」
待っていた一番豪華な服を着ている男の人、ボイセンさんと父さんが仲良さそうに話してる。
初めての場所でもあるし珍しい所なので、辺りを見回してると建物の陰に隠れている女の子を見つけた。
その子は俺と目が合うと、目をパチクリさせていたけど、俺がニカっと笑顔を作ると陰に隠れてしまった。
(あの子が言ってた子かな。あれくれーだったら知らない人がいっぱい来たら怖がっちゃうよなー。)
気付くと父さん達の話が終わったみたいで屋敷の中へ入ろうとしていた。でも俺はすぐに中に入るのも嫌だったんで、外を見学してみたいと伝えてみた。
「お父様、私は外を見てみたいです。こんな広大なお庭を見たのは初めてですので、気になってしょうがないのです。」
俺のそんな一言に反応したお父様は口元の笑いを隠しながら、目の前の人に聞いてくれた。
「ふむ。まだ日もあるし、暗くなる前に帰ってくるなら構わないよ。ボイセン、良いだろうか?」
「ええ構いません。案内を2人を付いて行かせましょう。」
「そうか有難い、ではこちらは世話係を付ける。ユージェステル、見学しに行きなさい。」
俺は大人達に一礼したあと、案内人の先導について行った。奇しくも、さっきの女の子が隠れた方角だった。
◆
案内人の人は厩舎の責任者と侍女のようらしい。今は夕陽に照らされ金色に輝いて、風になびいている草原の方まで来ると屋敷のそばに厩舎が見えた。
「ユージェステル様は、そのお歳で魔法を使えているようですね。やはり伯爵家ともなると学習が早いのでしょうか。」
「ええ、私もこの段階から授業を受けられるので、他の同年の方々よりは早いかも知れませんね。」
俺と案内人が連れ立って歩いて会話をしている。他所の家だから難しい言葉を選ばなきゃいけねえのが面倒だなー。
(こんな歳から敬語なんて堅っ苦しいなー。貴族って大変だけど、大人相手に敬語で話してるのって違和感ありまくりだよな。)
そんな事を思いながら、馬のいる厩舎まで来た。そこにはオーバーオールとブーツ姿の女の子が干し草の整理をしていた。さっき建物の陰からこっちを見ていた子だ。
「シェリーフ様、こちらでしたか。エルダール家からお客様が来ておりますよ。」
「そうですか。ようこそいらっしゃいました。ごゆっくりどうぞ。」
シェリーフはそう言うと作業へ戻ろうとしたが、一緒に来た案内人に止められていた。
「いえ、折角ですのでシェリーフ様もご挨拶してください。そちらの作業は私がやりますので。」
案内人は厩舎の関係者だったのか、道具を持って作業をしに行ってしまった。
その代わりシェリーフと呼ばれた子がこちらへ歩いてきて、ドレスでも無いのにカーテシーのような動きで挨拶をしてきた。
「お初にお目にかかります。ブラッドベリー子爵家の三女シェリーフといいます。私のことはシェリーフとお呼びください。」
「あ、ああ。エルダール家長男のユージェステルです。あと畏まらなくていいですよ。」
俺がそう言う事を言ってもあまり表情を変えない子だった。
「シェリーフは、何故ここで作業していたんですか?」
「・・・私は、初めて見たときから馬が好きで、しょうらいは馬のお世話ができるようになりたくてここで教わってるんです。」
「へぇ、凄いですね。」
(俺と同じくらいなのにもう将来の事を考えてるのか。単純に凄いとしか思えねーな。)
「すごい?私がですか?」
「ええ、私と同じくらいなのに将来の夢を持っているのは凄いです。」
「私はすごくなんかないです。お姉さまたちは、小さいころからもっとおべんきょうができたし、まほうも使えていたんです。でも私は落ちこぼれで・・・。」
少し俯いてしまったシェリーフが可哀想になって、つい反射的に前世の妹感覚で頭を撫でてしまった。
「ええっ!?ユージェステル様!き、きたないです!土とかついてますから!」
「汚くなんか無いよ。こんなに綺麗で美しい髪をしているじゃないか。・・・服なんかも、ほら。」
少し軽めにハグをして自分の服とシェリーフの服を重ねた。すぐに離れてみても汚れなんか付いておらず綺麗なままだった。
服が汚れていない事を確認するためにシェリーフの顔を見てみると、夕陽に照らされているのか、赤く染まっているのが分かった。
「シェリーフは凄いんだ。しかも可愛くて綺麗だから。落ちこぼれなんて言わないで。」
「・・・は、はいぃ。」
また俯いてしまったシェリーフを見て俺は、再び頭を撫でてしまったのだった。そんなシェリーフに、今思いついた事を言ってみると、すぐ顔を上げて返事をしてくれた。
「じゃあ今から僕らは友達になろう。いいかな?シェリーフ。」
「い、いえ。そんな私なんかが。」
「まあまあ、僕もずっと堅苦しい言葉使うの疲れちゃったんだ。だからシェリーフだけ、シェリーフだけで良いから僕の話し相手になってよ。」
友達なんてお願いしてなるもんじゃねーけど、この子だったらなんか気の置けない相手になってくれそうって感覚があったし。
「私だけ!・・・ですか?」
「そ!ここに来たの初めてだしよく分かんないからさ。色々教えて欲しいんだ。」
「・・・そ、そうでしたら、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく、シェリーフ。」
俺は今日一番の笑顔を向けたあと、さっきより赤くなった顔のシェリーフと握手をするのだった。
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