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聖女巡礼


 孤児院での講義を受けてから、更に半年が経ち、俺は前世の記憶を総動員して、文字の読み書きを出来るようになった。

 習得の早さが人並み以上で驚かれたが、そもそも精神が子供じゃないので勉強するくらいなら十分集中出来る。


 背もアルヴィと同じくらいに成長し、アルヴィと同年代の男が近寄ってくる事は無くなっていた。

 子供同士の知り合いも増えて、孤児院でだけ会うが普通に話す程度にはなっていた。


 俺やアルヴィが異性と話す時は、互いに互いの事をジッと見てしまう事もあり、仲良し姉弟と評価を受けることになったのには文句が言いたいほどだ。

 そういう日の夜は決まって、寝る時にアルヴィの抱きつきが強くなる事以外は日常で変わった事は無かった。



 とある講義の後の時間。いつも来ないマクシーム院長が顔を出した。反射的にアルヴィの顔を見せないように背中に隠した後、院長の話に耳を傾けた。


「来週、アノルサクロ教会の聖女様が来られます。今ここにいる皆さんで、お迎えをしたいと私は考えています。

 もし興味がある人は、当日にこの場所へ集まってください。親御さん達を連れて来ても構いませんので。その日は教会の鐘を鳴らしますので、2回鳴る頃には集合しておいてください。」


 院長はそう言うと、質問攻めにあっていた。そんな院長を見ながら、俺も他の子達と同じく聖女について考えていた。


「聖女ねぇ・・・。」


 その夜は何故かアルヴィの抱きつきが強くなり、いつも恥ずかしさで背中を向けているのも許されず、俺の体を包み込むようにアルヴィは寝ていた。


(アルヴィ吐息も心臓の鼓動も聞こえるし、身動きも取れないし!何でこうなった!)


 その日は一睡も出来なかった。



 聖女が来る日、俺達は孤児院に来ていた。ギルドやオヤジさんからも参加して来い、と背中を押されたからだ。


「まぁまぁ、アルヴィ機嫌直してよ。聖女を見るだけじゃないか。」

「みんなして聖女、聖女って。・・・それならこれが終わったらずっと家にいてよ。それで許してあげるから。」


 なんとか機嫌を直して貰ったようなので孤児院へ急いだ。教会が近づくにつれて、祭りのように活気づいているのがわかる。

 

(この街は娯楽が少ないからなぁ。聖女を迎える事がここまで良い事なのか。)


 孤児院の庭に着くと、院長と講義を受けている全員が揃っていた。俺達が到着してすぐに、教会の鐘が鳴ったので結果的にそれが開始の合図となった。


「では今から、今日のスケジュールをお伝えします。今から1時間後に聖女様及び教会関係者ご一向が、ロンバード子爵邸へご到着されます。

 ロンバード子爵が案内人となり、我が孤児院にも立ち寄ってくれるそうです。そこで我々からのお迎えのご挨拶とご質問やご要望などをお伝えした後、聖女様は旅の疲れを癒すためにロンバード子爵邸へ戻られます。

 こちらにおられるのは、1時間もあるか分かりません。これから一生会えるかどうかも分かりませんので、悔いのないようにしましょうね。」


 院長は言い終わるとそそくさと何処かへ去って行った。院長の話からすると、聖女が来るまで待機のようだ。それまではいつものようにアルヴィと一緒にいよう。


「あー・・・、あの人がいると息が詰まりそうだよー。話が終わったと思ったら、こっちを見てくるし、気が付かれて無いとか思ってるのかな。」

「アイツまだそんな事してるのか。もし変な事されたら言ってね。潰すから。」


 実は孤児院なんかをやってるのは、ロリコンだからなんじゃないかと邪推してしまう。流石にそれは失礼か。

 俺はアルヴィの髪を手で軽く梳きながら、気持ち良さそうに目を細める笑顔を独占していた。



 もう少しで聖女が到着するようだ。街中が慌ただしくなり、騎士のような屈強な男達が増えて来ている。

 孤児院の門は開け放たれて、民衆が今か今かと待ち構えている。

 外に出ていた子供達が走って戻ってきた。そろそろ来るのだろうと、孤児院の子供達と院長など、関係者総出で横並びで待つ。


 門の前に荘厳な馬車が停まった。装飾は華美で宝石が散らされており、成金的な印象を受けた。

 馬車のドアに階段がかけられた後に、ドアが開かれる。


 中から降りてきたのは、白のヴェールを被り白い装束を身に纏って、いかにも聖女然とした少女だった。


(随分と幼いな。俺と同じくらいか?)


 聖女は騎士と侍女を引き連れてこちらに歩いてきた。聖女の前には、聖女の進路を阻まないように貴族のような男が先導している。

 俺達の前で止まった後に、側にいた院長から合図があった。


「聖女様!ようこそおいでくださいました。彼らは私の孤児院の子供達です。子供達からもご挨拶してください。」

「せいじょさま!きょうはよろしくおねがいします!」


 子供だけで一斉に挨拶をすると、聖女の表情までは見えないが驚いているように感じた。


 その後、孤児院の中を案内したあと、最後にいつも講義をしている部屋へと着いた。

 ここでは聖女からの挨拶と、聖女への質問時間がもらえるそうだ。


 聖女が正面に座り、俺達も向かい合っていつもの長椅子に腰掛けていた。きゃっきゃと騒がしい子供達を見ながら、司会役の侍女が口を開いた。


「本日はありがとうございました。大変有意義な訪問だったと思います。では聖女様から一言頂きます。皆さんご静粛に。」

「初めまして、私はアノルサクロ教会の聖女と呼ばれている、フォミテリア・カルヴェールです。

 私はまだまだ幼く、幅広い見識を得るためにこの巡礼をしています。このネルケルト王国の最南端であるロンバード領ジュマードで私は巡礼を終えます。

 最後にこの孤児院に来られた記念に、私の巡礼で得たものなどをお話ししたいと思っています。何か質問はありますか?」


 それを聞いた子供達からは、様々な質問が飛び交った。好きな食べ物は何ですか、一番の思い出は何ですか、旅で辛かった事はありますか、などと子供らしい無邪気な質問ばかりだった。


 今さっきまで、俺はそこに混ざるつもりは無かったのだが、聖女の発言からある疑問が浮かんだので聞いてみたくなった。

 スッと手を挙げ、質問の権利を得ると俺は聖女にこう言った。


「ここから南に行くと何かあるんでしょうか?」

「この街の南には、人が住めない荒れ地が広がっているというのが私の聞いた見解です。ですのでこの街は、強固な石門を作り上げネルケルト王国を守っているのです。」


 俺は耳を疑った。コイツ今なんて言った?そんな事を思っていたらつい口が滑ってしまった。


「〈ヴォーガ〉には行かないんですか?」


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