敵情視察
冒険者ギルドの受付嬢のマリアンさんに相談しに行ったところ、快く孤児院の情報を教えてくれた。
あの孤児院は、院長の名を冠してマクシーム孤児院というらしい。マクシーム院長はこの街を管理しているロンバード子爵と幼馴染みで、よく訪問しているのを見かけられるほど懇意にしているそうだ。
毎月7日の聖曜日、教会の式典の最中に教室が開かれている。最初は親の付き添いで、教会に来た子供の相手をしていたところから始まっており、今でも子供用スペース且つ勉強も出来るという事で多くの子供が通っている。
(意外にも真っ当な孤児院だな。院長だけが変なだけなのかも。まだ予断を持つ訳にもいかないな。)
今月はちょうど2日後にある。当日の集合場所はギルドで、手数料が取られるが入院許可証を貰えるとのこと。
マリアンさんに日時の指定を受けたあと、今日も鍛冶屋の仕事場へ急いだ。
◆
2日後の朝、俺とアルヴィは2人で冒険者ギルドへ向かった。いつもは気にしていなかったが、意外と子供連れがチラホラとみられた。
子供は7人で俺達を入れて9人になる。
(そうは言っても俺達よりも大きい子供の方が多いな。)
そんな子供達を横目にマリアンさんのいる受付に行くと、外出許可証と同じようなタグを見せられた。
「これが孤児院に入るためのタグよ。無くても大丈夫だけど、身分の証明にもなるから面倒がないの。2つで50ユクになるけど、構わないかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。使い道も無いので貯まる一方なんです。」
「あらそうなのね。はい確かに、頂きました。コーダ君って3歳くらい?君くらいの子は、あんまりいないかも知れないけど大丈夫かしら。」
「それは行ってみないと分かりませんね。これから長く付き合うかも知れませんしね。」
俺とマリアンさんが愛想笑いも交えながら話していると、アルヴィがシャツの裾を引っ張っていた。マリアンさんに会釈をしてからアルヴィと共に受付を離れた。
「どうしたの?」
「なーんか、デレデレしてた。」
「えぇ!?いや普通の会話だから気にしないでよ。」
「ふーん、今日から色んな女の子と出会うかも知れないし、なんか気になっちゃうよ。」
急にアルヴィに疑われてアワアワとしてしまって焦ってしまう。だがそんな俺を見て、アルヴィはクスクスと笑っていた。
「ぷくく、うそだよ。でもコーダが私以外の女の人と話してるの見るのが、ちょっと嫌なの。」
「俺もだよ。アルヴィは可愛いんだし、色んな男からちょっかい出されるんじゃないかなんてずっと思ってるよ。」
ギルドの中で仲睦まじく会話していると、教会へ行く人達の案内人が俺達を集めた。
その人について行き、ギルドから出て教会の前まで来た。先ほど貰ったタグを、修道服の人へ見せてから中に入った。
中は広く、100人は収容出来そうな大きな聖堂だった。天井は5m程で窮屈さを全く感じさせない造りだった。装飾は質素だが、格式の高さを思わせるような細工が加えられているのが分かった。
「初めて入ったけど、広いねー。」
「外からだと大きいしか分からないからね。」
以前アルヴィと空中に飛び上がり、この街──〈ジュマード〉という──を見下ろした時はこの街で一番大きな建物がここだった。
周りの子供達を見れば、この建物を見上げながらはしゃいでいた。
そんな時、ギルドからの案内人が付き添いの子供と大人を分けているようだったので、俺達もその集団に混じる事にした。
大人達はそのまま教会の奥へ進み、設置されている長椅子に腰掛けていった。
残った子供達は案内人を先頭にして、入り口から左に進んだ通用口を抜けて、同じ敷地内にあるであろう孤児院を目指した。
(まるでハーメルンの笛吹き男だな。子供達を何処に連れていくのだろうか。)
教会から庭のような場所に出ると、かつて見た孤児院が建っていた。孤児院の中へ入ると綺麗だけど、やはり大勢の子供が生活しているので低い所は塗装が剥げていたり傷が目立っている。
案内された先には、30人程度が入れるホールに先ほど教会内で見たような長椅子が並べられており、正面には黒板もあって学校を思い起こさせた。
案内人は俺達を正面から順に座るように指示をしていた。
「コーダ、どこに座る、どこに座る?」
「やっぱり隣同士がいいよね。あの窓際にしよう。」
いまだにどの席に座ろうか迷っている子供達をすり抜けて、一番前の窓際に隣同士で座った。
端にアルヴィを座らせる事で、隣に誰も近寄らせない事が出来るからだ。
俺達が先んじて座った事で続々と席が埋まり、一番前の長椅子は埋まった。俺の隣にはアルヴィと同じくらいの歳の男の子が座り、挨拶もそこそこに席についた。
案の定、隣に座った男の子はチラチラとアルヴィを見ており、座高の関係で俺が眼中に入ってない事は明白だった。
今のアルヴィはセミショートくらいの髪型で、冒険者という事もあり健康的な身体をしている。長い髪に慣れないのか、髪の毛をかき上げる仕草をよくするので、サラサラと流れる髪に目を奪われる。
一言で言ってしまえば美少女。そんな存在を初めて見るのでは、この反応は仕方ないと言える。
(だが、これでは俺が嫌だ。もっとアルヴィを独占したいのに、俺に力が無いばかりに・・・。)
これからもこの男の子のように、アルヴィに惹かれる男が現れ続けるのかと思うと嫌気が差して、隣に座る男の子を睨むのだった。
その後は、孤児院に住んでいる子供達も交え、文字の勉強をした。講師は院長ではなく、修道服姿の女性で安心した。講義中ずっとあの目を向けられるのは、アルヴィが落ち着かないだろうから。
今回は数字の勉強という事もあってか、金の単位を知れた。
全て硬貨ではあるが、1円玉相当がユク、10円玉相当がクローネ、100円玉相当がリルとなる。単価として見れば、日本の100分の1程度になる。
(ユク単位でしか報酬は貰わなかったけど、今度両替してみよう。)
それより上になると、1,000はメルク、10,000はネルクとなるがここまで高価だと平民にはほぼ関係ないそうだ。
教会の式典が終わるまで約2時間ほど勉強をした後、解散となった。
アルヴィを遠巻きに見る男達を尻目に、俺はアルヴィと手を繋いで帰った。
日本で100円→ネルケルト王国で1ユク
のような感覚です。
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