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孤児院


 アルヴィが言うには、主に〈エイラス広場〉周辺で視線を感じるようだ。しばらくアルヴィには1人になってもらって、俺は姿を隠して辺りを見て回る。

 怪しいヤツはいないな。でもアルヴィはキョロキョロとしているし、視線は感じているのか。


 以前に孤児院の院長がアルヴィに興味を持っていたという事もあってか、孤児院方面への調査に重心を置く。

 しかしながら人が多い。人を隠すなら人の中とはよく言ったものだ。だが、離れているということはないだろう。かつての経験を元に、隠れやすく見通しの良い場所に目星をつけた。


 ここは、露店の食べ物を座って食べれるオープンスペース。人が途切れる事はなく、長時間いても不思議がられない。

 そこにある男がいた、噴水の方を向いて軽食を食べている男。木の机に置いた飲み物からは結露が滴り、くっきりとコップ状に円形の水跡をつけていた。


(こんなに机に染み込むほどに、飲み物を口にしていないのか。軽食と言えど飲まない事はないはずだ。)


 ここからアルヴィへは、目と鼻の先と言っていい。試しにコイツで実験してみるか。

 闇魔法で細かい粒を作って、男の足元へ忍ばせる。俺の魔法では唯一、固形として扱える闇魔法をこの男の靴へ付けて、コイツが当たりであれば目印になるし、ハズレなら解除すればいい。

 アルヴィの元へ戻って、移動してもらう事にした。冒険者ギルドまで入って俺を待っていて欲しい、とだけ伝えて、あの男の動向を見る。


 あの男が動き出すのを感覚で分かった。俺の魔法が俺以外の力で動かされている違和感を感じる。

 

(まだ偶然かも知れない。アルヴィがギルドに入るまで待たないと。)


 アルヴィがギルドに入った後、男はギルドの玄関扉を窺えるような場所に陣取った。当たりだ。


 音を立てずに近づいた俺は、男の腰に手を当てて雷魔法を使う。無意識でザンクを殺した以上の消費してしまった。近くにいる人が倒れ込む男を不審がって近づいてきた。

 男の足元に展開している闇魔法を忘れずに解除してから、その場を離れた。


(さて騒ぎが大きくなって、身動きが出来なくなる前に移動しよう。磁力反発が好きに使えるようになれば楽なんだけどな。)


 アルヴィの元へ急がなければ。



 姿を現してアルヴィの元へ駆け寄ると、涙ぐんでいたようで俺が帰るなり泣いてしまった。

 

 騒ぎが起きた時、俺の仕業だろうと思ったらしいが一向に帰って来ない俺の安否が気になっていたようだ。

 やはり迅速な移動手段と遠隔攻撃できる魔法を習得する必要があると再認識した瞬間だった。


 ギルドの前での騒ぎという事もあり帰るに帰れなくなってしまったので、アルヴィを慰めながらロビーに座っていると誰かが話しかけてきた。


「アルヴィちゃんとコーダくんだよね・・・?あの、今大丈夫かな?」


 話しかけて来た人は受付のマリアンさんだった。まだアルヴィが男口調だった頃から顔馴染みだった人だ。ヴァレリーさんが死んだ事を知っている数少ない人でもある。そんなマリアンさんは俺達がギルドで待ちぼうけているのを見て、話をしに来たそうだ。


「実はね、ふたりってお母さんが亡くなったんだよね?だからギルドではそういう子に、孤児院を紹介してるんだ。」

「孤児・・・院。」

「そう、でも気が向かなかったらいいのよ。もし2人で生活していくのが辛くなったら、相談しに来るだけでもいいから。」


 マリアンさんはそう言うと、俺達から離れていった。確かに俺達は身寄りの無い子供だし、そういう扱いをされるのも仕方ない。

 そんな時、何処かへ行ったマリアンさんが戻ってきた。


「そうそう、これ言うの忘れてたわ。孤児院では毎月、教会の式典のある時に教室も開いてるのよ。

 そこでは文字も学べるし、お友達も出来るかも知れないわ。興味があったら私に聞いてくれればいいからね。じゃあね。」


 そう言うと、マリアンさんは再び仕事場へ戻っていった。



 アルヴィの視線の件の様子見でひと月が経った。あの件以来、外に出る事自体が嫌になってしまったのでは、と思っていたがどうやら杞憂だった。

 ただ街の外に出るのだけは嫌らしく、すぐに片付けられる雑用依頼などをこなすくらいには大丈夫だった。


「見られるならコーダに見られたいよ。コーダの太陽みたいな綺麗な黄色の瞳が良いなぁ。」


 そうアルヴィに言われて赤面した事があった。俺の瞳の色は両親とも他の誰かとも違い、今まで見た全ての人に同じ色はいなかった。

 アルヴィに特別に思われてるなら、この色を誇りに思える。この先もずっと大事にしていこう、俺はそう思った。

 


 俺はこの1か月、魔法の習熟に尽力した。合間合間で練習した結果、自らの体を浮かせる事が出来るようになり、以前の失敗もあったが自らを砲弾のように撃ち出すことで瞬間的に高速移動が出来るようになった。

 仕組みは簡単で、足底に磁化させた金属を二重に固定させて、両方に雷魔法を流す。同極で反発し合って高く飛び上がるという訳だ。地面側の金属には闇魔法で紐づけておけば失くす心配もない。


 そして現在、正午ごろ。隠蔽魔法で姿を隠した俺とアルヴィは、家の屋根の上にいた。

 俺はアルヴィを抱えており、アルヴィは俺の首に腕を回している。いわゆるお姫様抱っこの状態になっているのだ。

 アルヴィの方が大きいので、不格好だけど、闇魔法で支えているので倒れる心配はない。


 飛び上がる時にブレるといけないので、エレベーターのようにワイヤー代わりの闇魔法で補助をしている。

 俺だけ見える魔法の空間に魔法の補助をつけているので、アルヴィから見れば何も変わらない景色が広がっているだけだ。


「じゃあ行くよ。しっかり捕まっててね。」

「う、うん。コーダ、大丈夫なんだよね?」

「任せてよ、失敗してもアルヴィだけにはケガさせないから。」


 俺はそう言うとカウントダウンを始めた。今回の魔法は特別製で空気穴を閉じることで、音を遮断するようにしている。たまに空気穴を開ける操作が必要だけど、大した労力じゃない。

 つまり今は、どれだけ声を上げても音漏れしないのだ。


「3・・・2・・・。」

「ひゃあ!ちょっとちょっと!」

「ぐえぇ・・・、1、0!」


 カウントダウンが終わった瞬間、足元に雷魔法を発動させて、瞬間的に強力な反発を起こす。補助を受けながら飛び上がり、500mほどを5秒で到達する。

 目まぐるしく変わる光景に酔いそうになるが、アルヴィの締め付ける強さが上がっていくので、気にしていられなかった。


「ひゃああああああ!」

「ぐぇぇ・・・あ、アルヴィもうちょっとゆるくして・・・。」


 徐々に静止させるように調整しながら、出来るだけ俺に顔を(うず)めているアルヴィの背中をポンポンと叩く。

 アルヴィが力を緩めながらゆっくりと顔を上げ、周りの光景に目を見開く。


「・・・すっごおい!凄いよ、コーダ!見て!いつもいる噴水があんなに小さいよ!」

「そうだね。綺麗だね・・・。」

 

 興奮しているアルヴィに目を向けると、キラキラと陽光に照らされたアルヴィの顔がいつもより綺麗で輝いていて。俺は非日常な景色なんて見ないで、ただアルヴィに見惚れていた。


「私ばっかり見てないで、ほらあそこ!教会かな?この辺りで一番大きいのはあれかなー。」

「う、うん。すごく大きいね。」


 盗み見ていたのがバレるのは恥ずかしいな。しばらく見ていたいが、アルヴィに話したい事があるので口を開いた。


「実はアルヴィに聞いてほしい事があるんだ。嫌だったら断ってくれればいいから。」

「・・・急にどうしたの?いいよ話して。」


 アルヴィの了解を得て胸に秘めた思いを話し出した。


「前にマリアンさんに孤児院の話されたでしょ?その時に孤児院で文字を学べる教室があるって言ってたんだ。俺、そこに行って文字を学んでみたいと思うんだ。いいかな。」

「うん、いいよ。」

「いいの!?しかもそんなあっさり!」

「なーんだ、そんな事だったのね。もっと凄い話だと思って心配しちゃった。ふふふっ。」


 アルヴィは孤児院の院長の一件もあって、絶対嫌がると思ってたけどどういう事だ。

 

「アルヴィ嫌じゃないの?孤児院の院長と出会った時、あんなに怯えていたのに。」

「あっははは!もうそんな恥ずかしい事言わないでよ。確かにあの時は気持ち悪くて怖かったけど、コーダがいたから大丈夫だったんだよ。だからその孤児院に行く時もずっと一緒にいてくれないとダメだよ?」

「と、当然!アルヴィとはこれからもずっと一緒なんだから!」


 意外にもアルヴィはそこまで重く考えてはいないようだった。何か言わなくて良い事まで言ったような気もするけど、アルヴィが上機嫌なようなので気にしない事にした。

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