先達の矜持
アルヴィとの生活が始まって半年が過ぎた。最初の頃は恥ずかしさもあったけど、今ではアルヴィと一緒に住むのも、一緒に寝るのも当たり前となっている。
アルヴィが男の子のフリをしていたのは、周りから舐められないようにしたかったとかなんとか。短く切られていた髪も今では伸ばしているみたいで、より女の子らしさが際立っている。
髪型といえば、俺の髪も伸びてきたので、アルヴィに切ってもらった事がある。その時はくすぐったくて変な感じだったけど、ガスティマやバーリーなどとは違って本当の家族みたいに感じていた。
(彼らは保護してくれた存在、でも今は愛しい俺の・・・、何考えてるんだ!俺はまだ3歳だぞ。)
最近のアルヴィは、当初よりもスキンシップが増えている。どこへ行くにも手を繋ぐし、座れば対面ではなく横並びになる。
俺もアルヴィと触れ合えることで安心出来ているし、求めているのは俺の方かも知れない。
今日は鍛冶屋も休みなので、昼過ぎから2人で街を散策しているところだった。職人街である〈ミーラ通り〉の真反対側の〈エイラス通り〉を進んでいる。
広場からこの道、そして道を抜けた〈スルガン湖〉までが、この領のイチオシだそうで人が多い。
かつて人混みに紛れると、酸欠状態になっていたことを懐かしく思う。
(たぶん克服はしてないのだろうな。アルヴィと一緒だから大丈夫なんだ。)
隣に歩いているまだ少し背の高いアルヴィを見上げる。この雑踏でも変わらぬ可愛らしさが、人と紛れることでより際立っていた。
そんなアルヴィに見惚れていると、修道服姿の人が人混みに何か話していることに気づいた。
「アルヴィ、あれ何だろう?」
「あそこは教会ってやつだね。最近、聖女ってのが色んなとこを巡礼しているらしいの。近々この領にも来るみたいで、それを教会がみんなに伝えているみたいね。」
「へぇ、聖女ねぇ。」
聖女とは全く聞き馴染みが無い。教会のアイドル的な存在なのだろうか。そもそも何のために、各地を巡っているんだか。
そんな事を思ってると隣のアルヴィが、繋ぐ手が強くなりジト目になってこっちを見ていた。
「ど、どうしたの?」
「今絶対、聖女のこと考えてたでしょ。」
「か、考えてたけど!でもアルヴィの方がずっと綺麗だと思うよ。」
アルヴィの問い詰めを俺が返す刀で反撃する。今日の攻防は俺が一枚上手だったようだ。
敗者はただ赤面するのみ。いつも俺がやられているからこそ、たまには反撃しないとな。
それから歩くと、教会と同じ柵の中に2階建ての大きな屋敷があった。中には俺と同じくらいの子達が遊んでいる光景も見えた。
「ここは、孤児院だ。君達、誰か親はいるのかい?」
中を眺めていると、気の良さそうな男の人が話しかけてきた。その人は背が高く、淡い青色の髪で、同じ色の目を薄く開けている人だった。眼鏡をしているからか、理知的な雰囲気も感じさせた。
「私はここで孤児院の院長をしている者だよ。ここでは、身寄りの無い子供達を保護している場所なんだ。最近では冒険者ギルドにも紹介をして貰っているんだ。もし君達も親がいないのなら・・・。」
「いえ、俺達は間に合ってます。孤児院がんばってください。」
俺はその男から逃げるようにして離れた。その男が孤児院へ入って行くまで目を離さずに遠ざかる。
男が見えなくなった頃を見計らって、俺の手を潰さんばかりに強く握っているアルヴィに声をかける。
「大丈夫?あの男は何処かへ行ってしまったよ。」
「あ、アイツ、私の事をずっと見てた。すごい気持ち悪くて怖くて。」
「今日はもう帰ろうか。2人だけで一緒にいよう。」
俺達は引き返して家へと帰った。孤児院の前を通る時は中を警戒していたが、先ほどの男や遊んでいた子供達でさえもいなくなっており、ただそこに孤児院があるだけだった。
家に入ってドアを閉めると、アルヴィが抱きついてきた。
「アルヴィ!まだホコリとかが付いてるから!」
「もう無理!あの男の視線が気持ち悪くて、コーダと触れ合ってないとおかしくなる!」
「ちょっと待って!せめてベッドじゃないと危ないから!」
倒れそうになるのを闇魔法でもう一本の足を作って耐える。そのまま闇魔法を出したりしまったりしながら、アルヴィを背負ってベッドまで運んだ。
「もう、危ないからやめてね。」
「コーダなら支えてくれると思ったの。」
その日はいつも以上に寄り添って過ごした。余程あの男の視線が嫌だったのだろう。
(孤児院か・・・。本来なら俺達は入るべきなんだろうが、この生活が終わる事になる。これからどうなるか分かんないけど、選択肢には入れておくか。)
アルヴィには辛い選択をさせてしまうかも知れないけど、その時は俺が絶対に守ってやる。
◆
孤児院の院長という男に出会って数日、アルヴィは1人でいる時に視線を感じるのだという。
時間がある時は一緒にいられるようにしているが、それでも限度がある。待ち合わせは外ではなく、冒険者ギルド内ですることにして、出来るだけ人目の多いところを行動する事にしている。
冒険者ギルドでは俺とアルヴィが2人で会っている事もあって、知り合いも増えた。俺達の状況を知っている人達も増えてきて、子供2人で生活していることを心配してくれる人もいた。
その中にアルヴィを狙っているヤツがいるかもと思うと、吐き気がする。この俺を差し置いてアルヴィをつきまとうとは。
俺のアルヴィを怖がらせた罰だ。身の程を分からせてやる。
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