出立
小鳥が囀る声で目を覚ました俺は、自分が動けないことに気づいた。
両腕両足でがっちりと俺を挟んで寝ているアルヴィの腕を、なんとか退かしながら振り返ってアルヴィの体を揺する。
「アルヴィ、起きて、朝だよ。」
「んん・・・。こーだ、おはよー。」
「うん、おはよう。早速だけど離してくれる?」
寝起きのアルヴィはゆっくりと俺を解放したかと思うと、質問してきた。
「どこか行くの?」
「うん。オヤジさんにお礼を言わないといけないんだ。ここしばらく行ってなかったし、挨拶もしておきたい。」
「んー・・・。じゃあ私もギルド行こうかな。いつものとこに集合ね。」
アルヴィはそう言うとベッドから出て、タンスに手をかけて着替えを出し始めた。
「うわぁ!着替えるなら言ってよ!」
「別にいいのに・・・。」
「俺が良くないの!」
慌てて部屋から出て、俺も着替える為に、いつも寝ている部屋のタンスから服を出して着替える。
ドアを開けると、アルヴィが既に待っていて一緒に外に出た。
ヴァレリーさんが死んでから、初めて2人で外出する。何か感慨深いものを感じて、手で顔を覆ってしまった。
「何してるの?」
「何もないよ。アルヴィ気をつけてね。」
「コーダも、仕事頑張って。」
俺達は頷き合って、手を繋いで一緒に出発した。冒険者ギルドの前に来ると手を振りながら別れる。
何も知らない人から見たら、仲の良い姉弟みたいに見えるのかな、と思い少し笑ってしまった。
◆
昨日に続いて今日も依頼とは別で〈ミーラ通り〉に入る。顔馴染みの人は俺を見て、何か納得するように頷いていた。
(何だ?俺の顔になにか変なとこあるのか?)
手でペタペタ顔を触っているとオヤジさんの鍛冶屋、ハティルに着いた。
「おはよう!オヤジさん!」
「おう!・・・オメエその顔、何とかなったみてえだな。昨日来た時はどうなるかと思ってたが、やりやがったな。」
「え、あ、はい。何とかなりました。」
(そんなに分かりやすい顔してたかな。周りの人にもバレてるし。)
「また今度、その子連れてきてくれや。じゃあ開店準備だ!」
「はい!今日からまたよろしくお願いします!」
(今度オヤジさんには勿論、職人街の顔馴染みにもアルヴィを紹介しなきゃな。)
店の中から商品を外に出す。ガチャガチャと音を出しながら武器の入った箱を動かして、店前に看板を立てる。
「よしっ!今日もハティル開店だ!」
今日はいつにも増して客が多かった。俺を知っている人達も復帰を喜んでくれている。
昼まで働いて休憩を貰ったあと広場へ急ぐ。中央の噴水には、きれいな金髪をなびかせてアルヴィが座っていた。
「アルヴィ、ごめん遅くなった!」
◆
ここはどこかの部屋。蝋燭の火が頼りなく男達を照らしている。その内の1人の男は地味な格好をしているが、素材はきめ細やかで見る人が見れば貴族だと分かるだろう。
もう1人は眼鏡をかけていて、レンズが蝋燭の火が揺れるのを妖しく映している。
両方とも歳は中年だが、貴族らしき男は体は肥えて贅肉をゆらしている。そしてその貴族らしき男が口を開いた。
「この前もらったモノが壊れてしもうたわい。何かオススメはあるかのう?」
「ええ、活きの良いのがおります。最近ではギルドも協力してくれるので、良いのが集まるんです。」
「ほう。ではまた視察に行くのでな。その時にでも質を見るかのう。」
「ええ、是非に。お待ちしております。」
男達は下卑た笑みを浮かべながら、商品の下見を約束する。ふと、貴族らしき男が思い出したかのように喋り出す。
「そうそう、聖女様が各地の孤児院を回っておるそうじゃ。お主のところにも、いつか訪問されるかも知れん。」
「私のところにはまだ連絡はありませんねぇ。しかし聖女様ですか。聖女様と言えば、未だ幼く可愛らしい少女のようだとか。」
「ぶふふふっ。たまらんのう。・・・ではそろそろ失礼するのでな。」
貴族らしき男は、口をいやらしく歪めて席を立った。護衛を連れて外に出ると、暗い路地を歩き馬車へ乗り込んでいった。
その男の乗った馬車は、この領で最も大きく最も豪華な屋敷。ロンバード子爵邸へと入っていったのだった。
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