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出立


 小鳥が囀る声で目を覚ました俺は、自分が動けないことに気づいた。

 両腕両足でがっちりと俺を挟んで寝ているアルヴィの腕を、なんとか退かしながら振り返ってアルヴィの体を揺する。


「アルヴィ、起きて、朝だよ。」

「んん・・・。こーだ、おはよー。」

「うん、おはよう。早速だけど離してくれる?」


 寝起きのアルヴィはゆっくりと俺を解放したかと思うと、質問してきた。


「どこか行くの?」

「うん。オヤジさんにお礼を言わないといけないんだ。ここしばらく行ってなかったし、挨拶もしておきたい。」

「んー・・・。じゃあ私もギルド行こうかな。いつものとこに集合ね。」


 アルヴィはそう言うとベッドから出て、タンスに手をかけて着替えを出し始めた。


「うわぁ!着替えるなら言ってよ!」

「別にいいのに・・・。」

「俺が良くないの!」


 慌てて部屋から出て、俺も着替える為に、いつも寝ている部屋のタンスから服を出して着替える。

 ドアを開けると、アルヴィが既に待っていて一緒に外に出た。


 ヴァレリーさんが死んでから、初めて2人で外出する。何か感慨深いものを感じて、手で顔を覆ってしまった。


「何してるの?」

「何もないよ。アルヴィ気をつけてね。」

「コーダも、仕事頑張って。」


 俺達は頷き合って、手を繋いで一緒に出発した。冒険者ギルドの前に来ると手を振りながら別れる。

 何も知らない人から見たら、仲の良い姉弟みたいに見えるのかな、と思い少し笑ってしまった。



 昨日に続いて今日も依頼とは別で〈ミーラ通り〉に入る。顔馴染みの人は俺を見て、何か納得するように頷いていた。


(何だ?俺の顔になにか変なとこあるのか?)


 手でペタペタ顔を触っているとオヤジさんの鍛冶屋、ハティルに着いた。


「おはよう!オヤジさん!」

「おう!・・・オメエその顔、何とかなったみてえだな。昨日来た時はどうなるかと思ってたが、やりやがったな。」

「え、あ、はい。何とかなりました。」


(そんなに分かりやすい顔してたかな。周りの人にもバレてるし。)


「また今度、その子連れてきてくれや。じゃあ開店準備だ!」

「はい!今日からまたよろしくお願いします!」


(今度オヤジさんには勿論、職人街の顔馴染みにもアルヴィを紹介しなきゃな。)


 店の中から商品を外に出す。ガチャガチャと音を出しながら武器の入った箱を動かして、店前に看板を立てる。


「よしっ!今日もハティル開店だ!」


 今日はいつにも増して客が多かった。俺を知っている人達も復帰を喜んでくれている。



 昼まで働いて休憩を貰ったあと広場へ急ぐ。中央の噴水には、きれいな金髪をなびかせてアルヴィが座っていた。


「アルヴィ、ごめん遅くなった!」



 ここはどこかの部屋。蝋燭の火が頼りなく男達を照らしている。その内の1人の男は地味な格好をしているが、素材はきめ細やかで見る人が見れば貴族だと分かるだろう。

 もう1人は眼鏡をかけていて、レンズが蝋燭の火が揺れるのを妖しく映している。

 両方とも歳は中年だが、貴族らしき男は体は肥えて贅肉をゆらしている。そしてその貴族らしき男が口を開いた。

 

「この前もらったモノが壊れてしもうたわい。何かオススメはあるかのう?」

「ええ、活きの良いのがおります。最近ではギルドも協力してくれるので、良いのが集まるんです。」

「ほう。ではまた視察に行くのでな。その時にでも質を見るかのう。」

「ええ、是非に。お待ちしております。」


 男達は下卑た笑みを浮かべながら、商品の下見を約束する。ふと、貴族らしき男が思い出したかのように喋り出す。


「そうそう、聖女様が各地の孤児院を回っておるそうじゃ。お主のところにも、いつか訪問されるかも知れん。」

「私のところにはまだ連絡はありませんねぇ。しかし聖女様ですか。聖女様と言えば、未だ幼く可愛らしい少女のようだとか。」

「ぶふふふっ。たまらんのう。・・・ではそろそろ失礼するのでな。」


 貴族らしき男は、口をいやらしく歪めて席を立った。護衛を連れて外に出ると、暗い路地を歩き馬車へ乗り込んでいった。


 その男の乗った馬車は、この領で最も大きく最も豪華な屋敷。ロンバード子爵邸へと入っていったのだった。

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