お別れ
途中でアルヴィ視点に移行します。
ヴァレリーさんが死ぬ前の晩は、珍しくアルヴィと一緒に寝たいと言い出して、親子水入らずに入る訳もいかず、俺はお休みの挨拶をしてから寝た。
何か秘密のお話があったらしく、流石に入り込む余地はないよな。
翌朝、俺がヴァレリーさんの部屋に入った時、違和感を感じた。急いで駆け寄ると、ヴァレリーさんは息をしておらず体も冷え固まっていて、死後から時間が経っていたことを窺わせた。
「母さん、母さん・・・。起きてよ、ねえ。母さん・・・。」
「アルヴィ、落ち着いて。」
ベッドに近寄り、ヴァレリーさんの肩を揺すっているアルヴィに声を掛けた。
傍から見ていて、あまりに可哀想な光景だった。
「コーダ、母さんが起きないんだ。」
「アルヴィ・・・、大丈夫だから。僕がついてるから。」
アルヴィが俺の手を強く握っているが、どこか放心しているように感じた。
「昨日の夜に、母さんと話した時は、・・・元気そうだった。色んな話をして、色んな事を聞いて。」
「うん。そうだね。元気そうだった。」
実際、いつもより調子が良さそうではあった。今思えば、空元気というやつだったんだろう。ヴァレリーさんも死期を悟っていて、俺達に弱音を吐かないようにしてくれてたんだ。
アルヴィを椅子に座らせて、全身を優しく抱きしめる。
「大丈夫だよ、アルヴィ。俺がいるから。落ち着こう。」
「コーダ。おかしいんだ、涙が止まらない。泣きたくないのに、泣いてしまいそうなんだ。」
「アルヴィは泣いていいんだよ。我慢しないでいいから、泣いていいんだよ。」
俺はアルヴィを胸に埋めながらアルヴィの頭を撫でる。胸の辺りが濡れていくのを感じながら、アルヴィが落ち着くまで、抱きしめ続けていた。
10分ほどでアルヴィは落ち着いたようで、俺から離れようとしたので体を離した。アルヴィンの目元は赤く腫れていて、表情も冴えないけど放心状態よりは良くなった。
「アルヴィ、大丈夫?」
「ありがとう、コーダ。落ち着いたよ。」
弱々しいけど笑顔を見せてくくうkmれるアルヴィに、ほっと胸を撫で下ろし安堵の息をついた。
「母さんは・・・。」
「母さんは、死んじゃったんだね。」
「うん、そうみたいだ。」
アルヴィは呟くようにそう言った。まだ整理はつかないようだけど、一歩ずつ前進しているようだった。
「コーダ、オレ・・・、まだ心の整理がつかないんだ・・・。」
「大丈夫。すぐに切り替える事なんてないよ。ゆっくりでいいんだ。」
「良いのかな、そんなんで。」
アルヴィの手を握って部屋から出るように誘導する。部屋から出る時にヴァレリーさんを見ると微笑んでいるような気がした。
リビングに移動した俺は白湯をアルヴィに差し出した。喉が渇いていたのか、すぐに飲み始めた。
「ありがとうな、お前がいなかったら、わ・・・オレはどうにかなっていたよ。」
「ん?いや、俺は大したことしてないよ。」
「いやそれでもな。」
アルヴィはコップを持ったまま俯いて話していた。時折、上目遣いに見てきて、何か話しにくい事でもあるのかと勘繰ってしまう。
その日は何をする訳でもなく、2人で他愛もない話しをしながら過ごした。
◆
夜、オレは母さんに呼び出されて同じベッドで寝る事になった。内容はコーダに関する事らしいけど、何かあるんだろうか。
「ねえアルヴィ、コーダ君と出会った頃からその喋り方なの?」
「ああ、そうだよ?」
「あぁ・・・そうなのね。でも凄いわよねあの子、アルヴィにあんな大胆な事言って平然としてるんだもの。」
大胆・・・。あの時は驚いたし恥ずかしかったしで訳が分からなかったけど、母さん聞いてたんだ。アイツあんな強い想いを持っていたんだな。
「コーダ君ってね、アルヴィの事、男の子だと思ってるわよ。」
「ん・・・、えぇ!?嘘だろ!?」
「そんな喋り方だし気も強いし仕方ないわよ。でもそんなアルヴィにあんな事を言ったのよ?ふふっ、面白い子よね。」
確かにオレは・・・、アイツに自分の性別を言ったことは無かったけど。ああいう事言ってくるもんだから、知ってるもんだと。
「だからね、アルヴィ。その喋り方、直しなさい。コーダ君ならどんなアルヴィでも好きでいてくれるだろうけど、あなたも努力しないといけないわ。」
「うぅ・・・今更そんなこと出来るかなぁ・・・。」
「出来るわよ。だってあなたにはコーダ君がいるんだもの。絶対に後悔しないようにしなさいね。」
そんな事をを話しながら母さんに頭を撫でて貰っていると、気持ち良くて眠ってしまった。
その時、母さんが言っていた呟きはオレには聞こえなかった。
「お休みなさい。私の愛しい娘。これから頑張りなさいよ・・・。さようなら。」
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