男を見せる時
コーダ視点になります。
更にあれから1か月が過ぎた。アルヴィの母親は日に日に弱っており、ベッドから起き上がれない日が増えていた。
俺の治療魔法も間隔を短くしているが、対症療法という感じで悪化するのは止められそうにない。
アルヴィも外に行く時間が減っていて、交わす口数さえ少なくなっていた。
朝、いつもの依頼で鍛冶屋に行く前にアルヴィに声をかけた。
「アルヴィ、今から行ってくるよ。お昼、何か買ってこようか?」
「ん?ああ、じゃあスープ買って来てくれ。」
「うん。無理しないでね。」
元気のないアルヴィと言葉を交わしてから家を出た。家から仕事場への道はいつもより暗かった。
(俺は何してる・・・!あんなにアルヴィは憔悴していって、俺が支えになるんじゃなかったのかよ。)
トボトボと歩いていたらいつの間にか、オヤジさんの鍛冶屋の前まで来ていた。いつものように挨拶をしたけど、いつもとは雰囲気が違っていた。
「おはよう、オヤジさん。」
「・・・オメエ何かあったな?」
「い、いや何もないよ?」
オヤジさんは目を細めて俺を見てきた。
「オメエは隠すのが下手だぜ。今日は手伝わんでいいから、何があったんか話せ。」
「え、いや話すようなことじゃ・・・。」
「いいから話せってんだ!男のくせにウジウジしやがって、オメエはもっと賢い男だと思ってたんだがな。」
急に怒鳴られて、ビックリして後ずさる。近所の商店からも人が覗いてきて、俺達の話に聞き耳を立てている人もいた。
色んな人に聞かれるのも嫌だったけど、オヤジさんを見たらそんなの気にするな、と言うように話を急かしてきた。
だから俺は意を決して話し出した。
「俺は大切に思ってる人がいるんです。その人からはいつも元気を貰ってるし、知らない事も教えて貰ったりして俺なんか勿体ないくらいの良い人なんです。
でも最近、その人の母親が病気で寝込んでて、その人も日に日に元気が無くなっていって・・・。俺はその人を支えたいって思った!その人の救いになりたいって思ったんです!
でも何もしてやれない。その人には沢山貰ったのに、何も返せないんです、俺は!」
言いながら涙が出てきた。泣いてはいけないと思いながら、自分の無力さに悲しくなってくる。
「・・・コーダ、オメエは立派だぜ。そんなチビでガキなのに、人を想う心があるんだからよ。」
「でも、俺は何も出来ない!想うだけじゃダメなんだ!何かしなきゃ・・・いけないんです!」
俯いて泣いている顔を隠す。こんな情けない俺の泣き顔なんて、誰にも見せたくなかったから。
俺の言葉を聞いてオヤジさんが口を開いた。
「コーダ、まずは行動する事だぜ。倒れそうなら支えりゃあいいんだ、テメエの体でよ。」
「そうよ、コーダくん。君はこんなところで泣いている暇があるんなら、ガールフレンドを抱きしめてやんなさい。」
「だな!それでもダメなようならまた俺らんトコ来い!慰めてもっかい背中押してやるからよ!」
オヤジさんだけで無く、周りで聞き耳を立てていた人達からも声が上がる。いつの間にか彼女の事を話してるみたいになってるのはどうしてだろう。
オヤジさんが近づいてきて俺の頭をガシガシと乱暴に撫でる。
「全く近頃の子供は、考えすぎなんだよ。コーダ、顔をあげてしゃんとしろ!今すぐソイツの所に行って、オメエの想いをぶつけてやれ。」
「・・・はい、ありがとうございました!」
俺は顔を上げて、オヤジさんや周りで励ましてくれた人達にお礼をしてから駆け出した。
途中でスープを買うのも忘れない。アルヴィとの約束だから。
◆
スープを溢さないように魔法で蓋をして全力で走る。人混みも気にしない。早く、早くと思うけど、全然スピードが出ない事がもどかしかった。
(アルヴィ、ごめんね。気付くのが遅れてしまって。俺はこの街で君を見た時から運命が変わったんだと思う。
あの時、ザンクがいなかったら。あの時、門番と揉めていなかったら。俺は君に出会う事もなく、一人孤独に生きていただろう。)
俺を変えてくれたのはアルヴィだ。アルヴィに一緒にいたいって言われた時はよく分からなかったけど、今は君とずっと一緒にいたい。
◆
「アルヴィ!ただいま!」
「え?やけに早かったじゃねえか。どうしたん・・・!」
俺は母親の部屋で看病をしていたアルヴィに声を掛けて、そのままの勢いで抱きしめた。
「俺、アルヴィの事が大切なんだ!アルヴィの元気が無くなっていって、俺は何か出来ないかってずっと悩んでた。でも俺に出来る事なんて無いんだって思ってた。
でも違ったんだ!俺はアルヴィを抱きしめる事も出来るし、アルヴィの支えにもなれるんだって。だからアルヴィ、これからもずっと一緒にいよう。俺が君を支えるから。」
俺は思いの丈を全てアルヴィにぶつけた。アルヴィの体をもう離さないというくらいに、力いっぱい抱きしめた。
数秒ほど固まっていたアルヴィが俺の背中を叩くまで、俺は抱きしめていた。
「こ、コーダ、お前の想いは嬉しいよ。確かにお前に心配をかけてたのも分かってたし、オレ自身も普通じゃなかった。ちょ、ちょっと苦しいから・・・、もういいだろ?離してくれ!」
「アルヴィがそう言うなら。」
アルヴィから離れると、紅潮した顔で、恥ずかしそうに頬を指で掻いていた。
「あー、コーダ。今はこんな状況だし、何ていうかその、・・・お前の気持ちは嬉しいのは確かなんだ。でもなんていうか、その。そういう・・・こ、告白みたいなアレは慣れてなくて・・・。」
「うん、一緒にお母さんの看病しよう。」
「え?看病?・・・あー!そうだな!看病、看病!
コーダ、喉渇いてるんじゃないか?水とってくるよ!」
アルヴィは慌てて部屋から出て行った。ドアの向こうでドタバタと音がしているのは大丈夫なんだろうか。そんな時に、ベッドで眠っているはずのヴァレリーさんから声が聞こえた。
「・・・コーダ、くん。ふふっ、今の聞いたわよ。あなたも、なかなかやるわね。あんな子だけど、よろしくね?」
「はい。俺は一生アルヴィを大切にします。」
「ふふっ、あとコーダ君は、勘違いしてるかもしれないけど、アルヴィは・・・。」
ヴァレリーさんは何か言い掛けていたけど、アルヴィが部屋に入ってきた事で途切れてしまった。
「コーダ、水だ!飲んどけ。あーあちぃあちぃ。」
「アルヴィ、元気になって良かった。あ、そうそうスープも買ってきたよ。」
「お前ってヤツは・・・。」
俺とアルヴィは笑いあった。ヴァレリーさんも笑っていて、仲睦まじい家族がそこにはいた。
だが、病気はそんなこと関係なく忍び寄る。
それから1週間後、ヴァレリーさんは息を引き取った。
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