家族ができた
「話は終わったみたいね。」
俺達が抱きしめ合っていた時に、横から声をかけられた。アルヴィが慌てて離れて、顔を赤くしていた。
「か、母さん。起きてたの?」
「まぁ、あれだけ大きい声だったらね。近所迷惑だから中に入りましょう。コーダ君だったわね?あなたもどうぞ。」
アルヴィの母親は顔色が悪そうだけど、アルヴィに似ていて綺麗だな。アルヴィともども母親似なのか、金髪で澄んだ青い瞳をしている。アルヴィも髪を伸ばしたら、こんな感じになるのかな。
アルヴィが俺の後ろに回って背中を押して来たので、家の中に入った。
中は意外と広く、玄関からはリビングと台所が見えて、奥にはドアが2つあった。窓ガラスもあって光が取り込まれていて中は明るい。
「狭いけど、ゆっくりしてね。」
「いえ、おかまいなく。」
「ふふ、小さいのにアルヴィより丁寧なのね。」
アルヴィの母親はテーブルの横の椅子に腰掛けて、おいでおいでしている。アルヴィが隣に座って、俺が向かいに座った。
(何だか三者面談をしてる気分だ。)
アルヴィの母親が手をパンと叩いて、仕切り直した。
「じゃあ自己紹介をしましょう。私の名前はヴァレリーよ。よろしくね、コーダ君。」
「よろしくおねがいします。コーダです。」
丁寧な挨拶を出来る限り丁寧な挨拶で返した。目の前のヴァレリーさんはそんな俺に微笑みを返してくれた。なんか恥ずかしい。
アルヴィは何故か不満そうな顔をしていた。
「アルヴィより年下なのよね?いくつなの?」
「そうですね。俺は2才です。」
「マジかよ!喋れてるからもっと上かと思ってたぜ。いやあ、ホントに2才?」
何度目になるか分からない、年齢イジリ。俺は苦笑いをしながら頷いた。
「コーダ、お前・・・。まだ信じらんねえけど、チビだしそんくらいなのかねぇ。」
「こらアルヴィ、そういう事言わないの!それと、そろそろお掃除行かないといけないんじゃないの?」
「そーだった!それを誘おうと思ってコーダ探してたんだった!」
「えっそうだったの?」
てっきりこの話が本題だと思ってたけど違ったのか。
「これから門の詰所の掃除に行かないといけないんだ。だからコーダも一緒に連れてこうってな。」
「あぁ、うん。いいよ。いこう。」
俺が快諾すると、アルヴィは立ち上がって俺の手を引いてきた。
2人で玄関に立って、ヴァレリーさんに挨拶をする。
「行ってきます!」
「いってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。そろそろ雨の時期だから早めに帰るのよ。」
(雨か、実は俺はほとんど経験していない。この世界の雨は普通の雨なのかな。)
俺達は2人で外に出て、歩いて門を目指す。空を見るといつもより少し雲が多いように感じた。
◆
門のところに着くと、あの時に門番をしていたグリスという人が出迎えてくれた。
「おっアルヴィ。今日は遅かったな。横にいるのは友達か?お前にしちゃ珍しいな!」
「コイツもヒマそうだったから誘っただけだよ!」
「コーダです。よろしくおねがいします。」
グリスは俺の丁寧な挨拶に面を食らっていたものの、詰所に案内してくれた。
「じゃあ今日はこの部屋だ。紙は適当に固めてくれたらいい。本も棚に戻しといてくれ。ゴミはいつもの木箱にでも入れといてくれたらいいからな。じゃっ頼むぜ〜。」
詰所の中は、ゴチャゴチャしていて動物でも暴れたのかというほどに物が散乱していた。テーブルや周りの床には瓶があり、こんな所で飲み食いしてるのかと目を疑った。
「んじゃ早く終わらせるぞ。コーダは床にあるゴミを集めてくれ。紙はまとめてあの大きい机に置こう。オレは本とかを片付けるから。」
「アルヴィ、魔法つかっていいかな?」
「ん?ああ、掃除に使えるのならやってくれ。」
俺はアルヴィに了解を得たので、足元から闇魔法を絨毯のように広げ、瓶だけを選別してひとまとめにした。闇魔法を移動させて木箱へ入れて魔法を解除すると、木箱の中に瓶の山が出来ていた。
よしっ、日常生活にも使えるな。
「お前、便利だなぁー。オレもちゃっちゃとやっちまうか。余裕があったら椅子とか机も整列させといてくれ。」
「うん、分かったよ。」
次に俺はゴミを回収してまとめる。細かいホコリは雷魔法で微弱な静電気を闇魔法に混ぜると、面白いように引っ付いてきた。自分でも便利な能力だと感心しながらも、雑巾で拭き掃除も開始した。
2、30分もすれば綺麗になり、見違えるような部屋になったのは驚きだった。
アルヴィは、衛兵を呼びにいくのだと言って、部屋から出ていった。
この部屋は武器なども置いていないように思えた。子供に掃除させるのだから、万が一を考えてくれているのかもしれない。
椅子に腰掛けて足をブラブラさせていると、アルヴィがグリスを連れて戻ってきた。
「お前らすげえじゃねえか!アルヴィも大概早かったが。コーダ、お前も相当に掃除の才能があるんじゃねえか?」
「だろ!?んじゃ今日はもう終わりって事で良いよな?」
「いやーそれは・・・。こんだけ早えんなら他の部屋もやってくれよ。小遣いくらいは出してやるから。」
「やーりぃ!儲け儲け。オッサン早く案内してくれ。コーダもさっさと終わらしてメシ食いに行こう。」
俺は椅子から飛び降りてアルヴィ達の元へ駆け寄り、他の部屋へ案内されたのだった。
その部屋もすぐに終わらせて、また次の部屋も終わらせると、グリスが昼メシ代としてお金をくれたので、俺達は意気揚々と街へ繰り出すのだった。
◆
この街へ初日に来た時にみた露店街の先にある〈エイラス広場〉という場所に来た。
アルヴィが言うには、中央の噴水とここから放射状に露店が広がっている場所が、この領の観光地にもなっているらしかった。
周りの露店で肉と野菜のスープと、肉と魚──ヒゾイというらしい──の2種類の串焼きを、2人分買って広場のベンチに腰掛けた。
「いやー、一仕事終わったあとのメシは美味いな。この肉の串焼きが好きなんだよ。」
「うまいな。でも俺はこのヒゾイが好きかも。」
「その魚はこの領の名産でな、よく取れるんだと。オレはもうちっと濃い味の方が良いけどな!」
魚はこの世界で初めてになる。確かに美味かったし、懐かしいような不思議な感じがした。
俺もアルヴィを見習って肉を食べる。筋張っているけど噛み切れない程ではないので、いまだ未発達の歯でコリコリとかじった。
「食器とかそういうのは店に返さないとダメだぞ。串焼きの串もな。」
「ん、わふぁっふぁ。」
肉を飲み込むのに苦戦していると、既に食べ終わったのかアルヴィが俺を見ていた。
少し驚いてしまって、口内の肉を飲み込んでしまった。
「お前はこんなチビなのに頑張ってて凄いよな。」
「んぐ・・・、いや、アルヴィもすごいって俺は知ってるよ。」
「オレのどこが凄いんだか。」
「今から言おうか?」
俺がそうイタズラっぽく言うと、慌ててアルヴィは断ってきた。
「お前に言われるのは恥ずかしいんだよ!あー分かった分かった、お互い様だってことで。」
「うん、そうだね。」
俺達は食器を露店に返しに行ってから帰路についた。
家まであと半分くらいの距離に来た時に、雨がひとしずく頭に落ちた。
「あっやべえ!降ってきやがった。走るぞ!」
「え、あ。まってアルヴィ。」
周囲に人目が無いことを確認してから、2人の体を隠蔽魔法で包んだ。魔法で包むことで、即席の雨がっぱに利用出来るのだ。
「お前、便利すぎるわ!」
「いつもこれがあったから楽だったんだ。でもまわりから見ると、へんな感じだから急ぐのは変わらないけどね。」
「よしっじゃあコーダ、じっとしてろよ。」
アルヴィは俺の後ろへ回ったかと思うと、俺を抱え上げて走り出した。
「うわっ、ちょっ、アル、ヴィ!」
「オレもお前になんかしてやんねえとなって思ってな。静かにしてろよ。」
俺はアルヴィに抱きかかえられ雨の中を進んでいった。アルヴィに抱きかかえられていると、不思議に安心してしまっていた。
5分も走ると、家の前に着いた。アルヴィは息を整えて俺を下ろした。
そしてドアに手をかけ、そのままの勢いでドアを開けた。
「ただいまー!・・・ん?ほらコーダも。」
「ん・・・えっと。ただいま。」
アルヴィは元気よく、俺は少し恥ずかしがりながら。ただいまの挨拶を言ったのだった。
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次回は、クラスメイトのお話を2話入れて第四章が終わりとなります。