電磁浮遊
コーダ視点です。
なお今回登場する電磁気系の情報は、正しいかどうか分かりませんので、どうかご容赦を。
自警団から出発したアルヴィを3mほど後ろから追って、石畳の大通りを抜けて脇道に入った。住宅街に差し掛かったけど、しっかりとした造りの一軒家が多く見られた。
「いやあ凄いな。これが普通なんだろうけど、雲泥の差ってヤツだよこれは。」
アルヴィは、何かキョロキョロとしながら歩いていて、曲がり角を曲がった。俺は少し早足で追いかけて曲がるとアルヴィが見当たらなかった。
(うぇっ!?どこいった?)
辺りを探すと曲がり角の家と家の隙間にしゃがんでいた。
(何が探し物か?それとも会いたくない知り合いでもいるのかね。なんだかストーカーしてるみたいで後ろめたい。)
アルヴィはしばらくジッとしていたが、辺りを見回してからスッと立ち上がって、早足で歩いていった。
(何だったんだ?一体・・・。ん?これって何だ?)
アルヴィを見失わないように、サッと疑問に思った物を拾い上げてまじまじと見る。それは鉄のような錆びた金属のようだった。
先を歩くアルヴィは、ある平家の一軒家のドア開けて中へと入っていった。
(へぇ、あそこが家なんだな。今までの住宅よりグレードは落ちるけど、良い家じゃないか。)
などと失礼な事を思いながら、その家へ近寄って窓から中を覗く。
中では、アルヴィと泣いている大人の女性が抱き合っていた。
(あれは母親かなぁ・・・。感動の再会ってやつか。)
俺は人を殺した事など忘れて良い事をした気になり、その場を後にした。とりあえず今拾ったこれでアイデアが閃いた。それの検証をしないと、と思って近くの小道に腰を下ろした。
◆
足音を立てないという事で、一番に思いつくのは浮く事だろう。
地面に接していなければ、そもそも足音がない。忍び足で歩いたところで、昨日のように床板が軋めば意味がない。
そういう事を実現するのには、「何かの力」が必要だ。空から糸で吊り下げられるなら気にしなくてもいいだろうけど、そんなことは到底無理。「何かの力」で浮かせないといけない。
そこで目をつけたのは、磁力だ。同極同士で反発すれば浮くだけなら簡単なはずだ。
高校の授業で磁石を作った時を思い出す。鉄にコイルを巻いて電流を流すと、磁力が発生する。
ならば足の裏と地面に同方向の電流を流せば、反発するはずだ。幸いにも雷魔法は自由に使える。習熟すれば消費自体が少なくなりほぼ無制限で使えるだろう。
今はこの金属が一つしかないし、もう一つ探しに行こう。これを拾った場所なら他にもあるかも知れない。
◆
この金属が落ちていたところに行くと、軽い金属や重い金属など様々な物が多かった。鍛冶屋でもあるのだろうか。
中でも磁石自体があった事に驚いた。だがこの磁石はあまり強くないようで、周りの鉄に引っ付きにくかった。
(確か磁石って弱くなるんだよな。銅を巻けば、戻るんだったっけ。)
磁力が無いなら与えれば良い。鉄を闇魔法で強引に曲げて、磁石に巻きつけて雷魔法を使う。
あり得ない力もあり得ない威力も、魔力を注げば使えるんだから凄い能力だ。
闇魔法で巻いた鉄を剥がそうとすると、強い力で吸引し合っている。
(このまま持っておけばいいか。近くにある鉄も磁化させて・・・。よしっ2つの磁石が出来た!あとはこれを試すだけだ。)
顔を上げるともう辺りは暗くなってきていた。気づかないくらい熱中していたのか・・・。
まあ今日はこれくらいにして、早いけど寝るか。
アルヴィの家の近くで座り込み、革袋から出した腐りかけの果物を頬張ってから横になって目を閉じた。
◆
朝起きると、もう昼くらいで太陽が真上にあった。
(寝過ぎた・・・。一昨日は寝てないから仕方ないんだけど。さて、今日は実験をしないと!)
そんな事を思っていたら、アルヴィが家から出てきた。どこかに出かけるかと思っていたら、大声で何か言っている。
「あー!今日は、川にでも行って魚でもとるかー!」
(な、なんだ。どうしたんだ一体。・・・でも川か、〈ヴォーガ〉の川はヒドかったし、この街のにもちょっと興味あるな。)
アルヴィは歩き出したので俺も後をついていった。昨日とは違って周りも気にしてはいないようだ、と思っていたら急に走り出して角を曲がっていった。
(ちょっと、待ってくれ。俺も川に行きたいんだよ。)
急いで後を追って曲がり角を曲がると、正面にアルヴィが立っていて飛びかかってきた。
「つかまえたー!オマエ昨日から付け回していただろ!見えないからってバレてるんだよ!」
「う、うわあぁぁ!ビックリしたー!」
「ん?この感じ、子供かお前!?」
まさかバレてるなんて思いもよらなかった!そのまま地面に倒れて暴れるも、今の俺は2歳くらいで、アルヴィには全然敵わない。
「観念しろっ!まあとりあえず姿を見せるってなら離してやってもいいぜ。」
「うっ。いやでも今までずっとこのままだったし、今さらはずかしいっていうか・・・。」
「実はオレが困るんだよ。周りから見たら、空中に座ってるし誰もいないのに話してる変なヤツなんだって。」
確かに今の状態は変だろう。アルヴィに上から退いてもらうように言った後、俺は隠蔽魔法を解いた。
「えっと、初めまして、かな。俺はコーダっていうんだ。」
「おうなんだ、普通のヤツじゃねえか!焦ったぜ変なヤツだったらって・・・ん?おいお前・・・。」
アルヴィが俺から少し後ずさって距離をとった。何かやったか俺!?
「お前・・・くっせーぞぉ!ちゃんと水浴びしてるのかぁ!?」
「うえっ!?あっ、そういえばぜんぜんしてないな・・・。」
「お前もっかい姿隠せ!川に連れていってやるからそこで水浴びしろ!いいか!」
俺は頷いて、隠蔽魔法を使って姿を隠した。いつから水浴びしてないんだよ俺は。最悪の対面だなこりゃあ。
「おぉー。ホントに消えるんだなぁお前。まぁいいや。早く行くぞ!」
俺は駆け出すアルヴィの後をついて行く。先ほどまでとは違い後ろめたさは無かった。
もし気に入っていただけましたら、感想・評価・ブクマよろしくお願いします!