アイツらがいなかったら
アルヴィ視点になります。
オレはこの街で母さんと2人で暮らしていて、6歳になる。父さんは物心ついた時にはいなかって、オレはそんな男にも興味無かったから聞かなかった。
最近、母さんは調子が良くない。寝込む日々が増えていく一方で心配している。
この街は〈ジュマード〉と言われてて、オレの住んでるところは下町になる。
オレは冒険者ギルドで、冒険者になって日銭を稼いでいたけど、ザンクとかって言うヤツに絡まれた時から状況が変わった。
(アイツら、オレが子供だからって雑用ばっかりやらせやがって。貯金と合わせて何とかやり繰りしてるけど、いつまで保つか分かんないぞ。)
元々ギリギリな生活が更に苦しくなってしまった。母さんもご飯を食べられなくなって、寝込む日々が増える程になってしまって心配だ。
今日もザンクから依頼を押しつけられた。
(少しは自分でやれよ!どうせ俺には大した金も寄越さないくせに。これなら自分で依頼を受けて達成する方が絶対良いに決まってる。)
でも今ちょうど冒険者ギルドの通行証の更新の期限が来てしまっていたし、門番が見てない隙に外に出て行ってやろう。
街は壁に囲まれているけど、子供が通れる隙間なんてゴロゴロある。オレはそんな隙間を通って外に出た。
今日の目的は、止血薬や魔力を混ぜると水薬にもなるっていうへカル草を袋にいっぱい採りに行くというものだ。採る時は屈まないといけないし、動物も追い払わないといけないから面倒なんだけど。
これを真面目にやったって、ザンク達からは金を貰えるなんて分かんないし。
(石でも詰めて重くしときゃ、あの間抜けには分かんねえだろ。そうと決まれば・・・。)
底に石を詰めて、へカル草を重ねれば・・・。
とりあえずパッと見は分からないくらいにはなったな。時間も節約出来たし、帰ったらオレだけで正式な依頼を受ければいいか。
1時間ほどで引き返し、さっき通った隙間を目指す。周囲を確認して、コソコソと潜り込もうとするも袋がつっかえてしまった。
(あちゃー。入れすぎたか。早く抜けねえと衛兵のオッサンがやってくるしなぁ。)
袋から少し石を取り出そうと思って、隙間から戻ると目の前に、いつも門のところにいる衛兵がいた。
「げっ!」
「まーたお前か。今日という今日は逃さねえからな。ほら来い。」
へカル草を詰めた袋を取られてしまったので、オレは渋々、衛兵のオッサンについて行くしかなかった。
◆
なんとか頼み込んで無料で通してもらったあと、すぐにいつもザンク達と落ち合う路地へ急いだ。
(もう一生のお願いは使えそうにねえなぁ。何か良い手を考えねえと・・・。金があれば余裕なんだけどなぁ、ザンクのヤツがいなかったら。)
オレはザンク達と出会ってしまった事を後悔しながらも、先を急いだ。
路地に入って奥へ進むとザンク達が待ち構えていた。
「おっせえぞ!いつまで掛かっていやがるんだ!罰として・・・そうだな。ケイトの店の串焼き買ってこい。5本くれえだな。その重そうな袋を持っていてやるから、早く行ってこい!」
袋を引ったくられて、背中を蹴られて路地から叩き出されてしまった。
「あんにゃろう!雑用ばっか押し付けやがって!・・・でもまあ、今日はあの袋を納品すんだよな。ぷくくっ。」
間抜けが納品で恥をかく姿を想像して笑いを漏らしてしまう。さて適当に買って戻るか。
串焼き両手いっぱいに持って戻り代金を要求すると、端金を地面に投げつけられた。
「うわっちょ、ちょっと。・・・あれザンクさん、全然足りないですけど・・・。」
「てめえが時間かけたからだろうが。迷惑料でこんくらいになるのは当然だろ。さて用は終わったんだ。また次も頼むぜ〜。」
しっしっと手をヒラヒラ振られて恨みがましくザンク達を見て、路地から出たけど、オレの顔はにやけていた。
◆
門まで引き返して掃除の雑用をしたあと、挨拶を済ませて外に出る頃にはもう暗くなっていた。
(とりあえず晩飯の分は、貯金から出すか。今日は近道して帰ろう。冒険者ギルドの横から帰ると早いんだよな。)
門番のオッサン達に挨拶してから出て、冒険者ギルド近くの路地に早足で駆け込んだ。
急いでいたからいけなかったんだろう、誰かにぶつかってしまった。
「うぁ!ごめん!大丈夫だったか?」
「・・・っんあ?その声は・・・。へぇ、アルヴィじゃねえか。今まで疑ってたが、俺は神を信じるぜ!ええ、おい!」
そのぶつかった人に、急に髪を掴まれもがいていると、暗い中うっすらと顔が見えた。
「てめえがあんなことしなけりゃあな!俺もこんなことしたくねえんだがよお!」
そのまま地面にに放り投げられ、背中を強く打ったのか呼吸が上手く出来なかった。
「テメエら、やっちまうぞ。このナメたガキに分からせてやらねえとなぁ!」
ザンクが周りにいた仲間達に呼びかけて、寄ってたかってオレに蹴りつける。
「殺しちまわないようにしろよな!ガハハハッ!俺らをナメた罰だぜ、アルヴィ!」
ザンクがそう言って、オレの腹を蹴り上げた。
(こんな事になるなんて・・・。いや、オレのしたことは間違ってねえ・・・。コイツらがクズなだけだ。オレはそんなクズに殺されてしまうのか・・・。)
頭や腹を蹴られていると意識が遠のいてきた。オレの上では色んな事を言っているけど、オレにはほとんど聞こえていなかった。
「クソガキが!虚仮にしやがって!てめえが石を詰めるなんてことしなけりゃこんな事にはならなかったんだよ!アルヴィ!」
ザンクがそんな事を言っていたと思ったら、大きな破裂音が聞こえて、それからオレは意識を失った。
◆
目が覚めるとベッドの上だった。ベッドの周りには椅子や、ガラス瓶が並べられた棚なんかもあって、寝ている間に知らない場所に連れてこられたんじゃないかと不安に駆られた。
(おいおい、どこだよここ。・・・ん?誰か入ってきたか?)
ベッドの上で扉が開くのを見ていると、自警団のバッヂを胸につけた女の人が入ってきた。
「あら、目が覚めたのね。あっ、無理に起き上がらなくて良いわよ。どこか痛む所はない?」
「あ、いや。べつに痛むところはないけど・・・。ここは一体・・・。」
目の前に女の人が座りながら質問をしてきた。
「そうなのね。あなたは、昨日の夜に何があったか分かるかしら?」
「昨日・・・。あっ昨日は!ザンク達にボコられてそれで気を失って、それで。・・・あれ、何でオレ、こんな傷が少ないんだ?」
昨日殺されるかも知れないって思うくらいにはボコボコだったはず。今の体は、多少の傷はあるものの健康そのものだ。
「昨日の夜の事は本当に知らないのね?」
「あ、うん。じゃなくて、はい。気を失ってからは何にも・・・。気付いたらここで、何かあったんですか?」
何とか冷静になって大人相手の敬語を使うくらいには落ち着けた。
「あなたが倒れていた場所にはね。あと3人の大人達が・・・倒れていたのよ。だからね、あなたが何か知っているんじゃないかって思ってね。」
「あと3人?まさかザンク達のことじゃあ・・・。」
思い当たる3人はいるけど、倒れていたってどういう・・・。オレが何か知っているらしいと思ったのだろう、女の人は更に質問を続けた。
「ザンク?って昨日、隣のギルドの方で騒ぎを起こした男よね?何か知っているの?」
「いや、オレが知っているのはアイツらが冒険者ギルドをクビになったってことくらいで・・・。
実は前からザンク達に良いように使われてて、依頼とかも押し付けられてたんです。昨日は憂さ晴らしにザンクに渡された袋に石を詰めてやって、恥をかかせてやろうって思って。」
オレは一旦そこで区切って、息を吸って話し出す。その間、女の人は相槌を打ちながらオレの話を聞いてくれていた。
「それで門のとこで掃除の雑用してたら夜になっちゃってて、近道で帰ろうと思って路地に入ったらザンク達がいたんです。
アイツら、オレのせいで冒険者ギルドをクビになったとかって言ってオレを殴ってきて・・・。それからはもう分からないです。気付いたらここだったんです。」
「そうなんだ。辛かったわねぇ。・・・後で食事を持ってくるから今日はゆっくり休んで頂戴ね。」
オレの話を信じてくれたのか分かんないけど、ひとつ心配な事があって立ち上がって出て行こうとする女の人に伝えた。
「家で、母さんが1人なんです!すぐ帰って大丈夫だって言わないと!」
「あら、そうだったのね。でもその体じゃ、帰る方が心配されるわよ。どのあたりなのか言ってくれれば、自警団から事情を話してあげるわ。とりあえず、今日は休みなさいな。」
女の人に家の場所と母さんとオレの名前を教えると部屋から出て行った。オレは母さんの事が心配で気が気ではなかったけど、怪我もしてるし抜け出すことも出来そうにないとも思ってベッドに寝転がった。
◆
翌朝、人の通りが活発になってきた頃、オレは一晩で仲良くなった自警団から見送られて、振り返って世話をしてくれた人に挨拶をする。
「大丈夫、アルヴィ君?また何かあったらここに来なさいね。」
「ありがとな!自警団ってよく知らなかったけど、良いところだな。」
「おお!元気になって良かったぜ。1人で帰れるか?」
「大丈夫!けっこう近えしな!」
オレは苦手な敬語を使わなくなって、安心していた。いつボロが出るか分かんないし。
(それよりもケガが早く治ってよかったぜ。仕事も出来ねえしな。)
オレは世話をしてくれた自警団から出発して下町の方面へ歩き出した。
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