レベルアップ
アルヴィが連れて行かれたであろう場所はすぐに見つかった。自警団の詰所は、冒険者ギルドの隣にあったからだ。
1階建てだが奥行きは結構ありそうに思う。以前チラッとモンテルロがしてた話では、自警団は冒険者ギルドの直営だったし、合理的な立地だと思った。
中を覗いてみるとバタバタとしていて、とても入り込む余地が無いようだった。
裏口でもないかと壁に沿って歩いてみる。右隣は冒険者ギルドなので、左側の小道に入ってみる。
壁沿いに行くと窓ガラスがハマっている窓が1部屋毎にあった。
(窓ガラス!すごい文明を感じるぞ!都会だなぁここは。)
〈ヴォーガ〉との余りの違いに驚きを隠せないでいると、ベッドに座っているアルヴィが見えた。意識が回復したのか、食事中のようだった。
(へぇ、もう元気そうで安心したよ。でも痩せているから、傷が目立っちゃてるなぁ。今夜お見舞いに行こう。)
俺は何だかアルヴィに対して、庇護欲をくすぐられていた。俺を弟のようだと言っていたバーリーの感情が少し分かった気がした。
夜までヒマなので俺はその壁を背に、持っている革袋の上に座って昨日気になったことを確認することにする。
昨日の夜、魔力の総量が増えていた事だ。それ以外にも変わっているかも知れないので、久々に全ステータスを確認した。
【名前】コーダ
【年齢】2
【レベル】2
【ジョブ】孤児
【魔法属性】雷 闇 聖
【体力】10/12
【魔力】206/210
【力】 10
【守り】12
【速さ】12
【運】 10
【スキル】『毒耐性』『病気耐性』
ステータスが成長している!ザンク達を殺してレベルアップしたのか。あんなヤツらでも冒険者だったんだから、ゲーム的に言うと経験値が多かったのだろうか。
魔力は10上昇していて、他の数値は2ずつ上昇しているのか。上がり幅が今のところ分からないけど、魔力が増えてくれるのは純粋にありがたい。
(魔力は俺の生命線、魔力切れの代償は嫌というほど味わった。俺は一生この力に頼って生きていくしかないんだ。)
何度目になるか分からない、決意を新たにして、新スキルである『病気耐性』を考える。
どのタイミングで手に入れていたのか、分からない。でもある程度なら分かる。
『毒耐性』は毒を盛られていたから手に入った。ならば『病気耐性』も同じように何かの病気に罹ったんだ。
思い当たる節は、ゴミ捨て場からゴミ溜め穴に落とされた時だ。ゴミ捨て場もそうだけど、あの穴は不潔の根源だ。カビや有害物質の温床だなんて容易に想像がつく。
でも症状が出なかったのは何故だ・・・。昨日の治療魔法を知らず知らずのうちに使っていた・・・?
そもそも、何故あの時なのか。それ以前も不潔なところには足を運んでいたし、生水や生肉も口にしていた。普通ならその時点で重篤な病気に罹っていてもおかしくない。
(・・・そうか。聖魔法だ。あれを隠蔽に使っている時といない時でハッキリと分かれている。聖魔法自体に治療の効果があるんだ。)
俺は常に安全地帯にいたって事なのか。本当に魔法ってのは底知れない。聖魔法以外にも俺の気付いてない効果があるんだろうか。
(確かに、これは魔法を持っていない人達には恐ろしいだろうな。)
俺は軽く笑いながら考察を続けるのだった。
◆
日が落ちて薄暗くなってくると、昼間の喧騒も鳴りを潜め静かになっていた。自警団の中もまばらだ。
(探検がてらお見舞いでも行くか。音を消す魔法があれば楽なのに。)
魔法については分からないけど、まだまだ成長の第一段階だろう。これで習熟したとも思えないし、研究を惜しまないようにするだけだ。
開けっ放しの扉から中を覗くと意外と狭い事がわかった。入り口から入るとロビーになっていて、昨日の冒険者ギルド程ではないけど2つの受付がある。そして受付の右側に大きな通路があった。冒険者ギルドにも通用口があったし、中で繋がっているんだろう。
その通路の分かれ道のに扉が見える。あの先にでも医務室のようなものがありそうだ。
入り口に足をかけて中へ入ろうとすると、床板がギィッと音を立てた。
「ん?なんか聞こえなかったか?」
「えぇ?いや聞こえてねーが。」
(うぉ!ビックリした!)
建て付けが悪いのか知らないけど、天然の鶯張りとは恐れ入る。入り口がこの調子だと入る事が出来ないぞ。
さてどうするか。昼間に見たアルヴィの具合はそこまで悪いようには見えなかったから、また機会がある時にしよう。
今日はお見舞いはやめにして別の日でいいか。
とりあえず今は、消音の魔法をどうにか実現することが最優先だ。通行の邪魔にならないところに座ってウンウンと考えていた。
◆
朝になったが、未だに見当がつかない。眠い目を擦りながら色々考えたが、なかなかアイデアが浮かばない。
今までの経験上、イメージさえ出来れば何とかなりそうなんだけど、さてどうするか。
そんな事を考えていると、自警団の入り口の方で、騒がしい声が聞こえてきた。
「大丈夫、アルヴィ君?また何かあったらここに来なさいね。」
「ありがとな!自警団ってよく知らなかったけど、良いところだな。」
「おお!元気になって良かったぜ。1人で帰れるか?」
「大丈夫!けっこう近えしな!」
アルヴィが退院?したみたいだ。ヒマだしついて行こう。この街の探検にもなるし、知らない場所を見て回るより良いだろう。
俺は自警団から出て行くアルヴィの後ろから欠伸をしつつ、ついて行くのだった。
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次回はアルヴィ視点になります。