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新天地

第四章の開始です。


 ガスティマ達が見えなくなった辺りで、周囲に人がいない事を確認してから魔法で姿を消した。1秒も経たずに展開出来るようになったのは喜ばしい事だった。

 餞別として受け取った革袋は、抱えると重いので、闇魔法で包んで自分の体に固定した。


 2人と別れてからしばらく歩いたが、人が見当たらない。〈ヴォーガ〉と繋がっている道は、平坦なだけの整備されてない土の道だ。周囲の景色は荒れ地のように岩がゴツゴツしていて、草が飛び飛びに生えている。

 家屋が見てとれるけど、誰も住んでいないのか、倒壊しているものまである。後ろに小さく見える〈ヴォーガ〉も相まって、普通とは隔絶された寂れた印象を受ける。


(ガスティマが言っていたようにここ出身だと言うのは躊躇われるな。)



 更に6時間ほど歩くと石造りの砦のような門が見えてきた。門の前には人の列が出来ており、10人ほどが並んでいるだろうか。検問をしているところかな。


 門に近付いてみると凄く大きいことに関心する。5、6mくらいなのか、見上げても高い事しか分からない。石造りで頑丈そうだ。人の列は2つあって3分に一回くらいの間隔で列が進んでいる。


 門には兵士らしき武装した男が2人立っていて、受付のように身体検査みたいなことをしているようだ。しかも列に並んでいる人達は、その2人にタグみたいな物を見せているようだ。通行証かなにかかな?

 しばらく観察していると、先頭の方で何か揉め事があったみたいだ。見に行くか。


 先頭につくと、見た目7歳くらいの両手で大きな袋を抱えた少年と門番が揉めているようだ。あの大きな袋からは草が飛び出している。


「おい、アルヴィ。ここは通行証がないと通れない事になってるんだよ。そもそも通行証が無いと出る事も出来ないんだがな。今すぐ冒険者ギルドで発行して俺らに謝るか、罰金を払うんだ。」

「うっせえ!だから金がねえって言ってるんだろ!ギルドも手数料っていう訳の分からねえのがかかりやがるし・・・。

 一生のお願いだ!今日だけとおしてくれ!」


 やっぱりあのタグは通行証だったのか。そう考えていると門番が手を振り上げて、軽くアルヴィと言われていた子供の頭を小突いた。


「一体、何回目の一生のお願い(・・・・・・)だよ!ああー、そうだ!とある事をやってくれたら許してやるぜ。」

「マジか!太っ腹だな、門番のオッサン!何やりゃいいんだ?」


「俺はオッサンじゃなくてグリスって言う名前だ。やってもらう事っていうのはだな、この詰所の掃除だ!3日でいいぞ。」

「うえぇー。自分達でやりゃあいいのにぃ・・・。」


 門番のグリスは少しニヤけて、アルヴィに向けて手の平を上に手招きする。ゴネるなら金を寄越せという事だろう。そんなアルヴィは歯を食いしばって唸っている。


「ぐううぅ。・・・分かったよ。やるんだから通してくれんだよな!」

「ああモチロンだぜ。じゃあ冒険者ギルド行ったら頼むなー!

 ・・・んじゃ次の奴、タグ見せてくれー!」


 アルヴィは嫌そうな顔をしながら門を通り、そのまま走り去って行った。俺も観察はそこそこに歩みを進める。

 列と列の間をすり抜けるようにして門の中へ入る。誰かに接触するだけでも問題がある。自分の小柄さを活かして門の端から抜けることに成功した、と思ったらつんのめってしまった。


(うわっ、やばい!)


 危うく声を出してコケるところだったが、何とか片足だけで跳ねて大丈夫だった。一体なんだと思って足元をみると、そこには石畳で舗装された道だった。


 生まれてからずっと足で踏み固められた土の道しか歩いてこなかったから、思わぬ急な変化に体が言う事を聞かなかったんだろう。

 前世じゃ舗装されて無い方が危なっかしかったけど、今は逆に石畳が新鮮に思える。音を立てずに石畳を何度も踏みしめて感触を確かめる。


(・・・俺は何やってるんだ。これが普通(・・)なんだ。あっちが異常(・・)なんだ。)


 俺は今までの価値観に違和感を感じながら、何度も足を踏みしめるのだった。



 門を抜け石畳の通りを歩く。出入り口付近という事もあり人が多い。俺は道の端で人を除けながら周囲を見渡してみる。


(ここは商店街って感じかな。食べ物や装飾品の露店が出ているし、この街の玄関口は活気付いているな。)


 串焼きや汁物の露店は人気なのか、人の集団がある。余程の人気なのか串焼きの提供が追いついていないようだ。ああいうのは匂いで釣るって言うけど、俺は魔法で隠蔽している届かない。

 

 遠くから眺めていると、先ほどのアルヴィが串焼きを5本持って、雑踏から抜け出してきた。そのまま門へ行くのかと思いきや、反対側へ早足で行ってしまった。


(おいおい、あの門番の所行かないといけないんじゃなかったのか?バックレようとしているかも知れないし見に行ってみようか。)


 アルヴィはすぐ先の路地に入っていった。俺も慌てて後を追い路地の前に立つ。中へは石畳が切れて土の道が続いていた。


(ここけっこう薄暗いな。まあこの程度、〈ヴォーガ〉の路地に比べたら全然快適だけど。)


 俺は暗さなんて気にせず突き進んでいく。L字の角を曲がった辺りで何やら話し声が聞こえてきた。


「遅えんだよ、グズが!ちゃんと買えたんだろうなあ?」

「ご、ごめんなさい。串焼き5本で10ユクです。」


 通貨の単位は分からないけど、パシリにさせられているって感じに見える。見た感じ柄の悪そうな30代くらいの男が2人、女が1人の合計3人のチンピラだ。アルヴィから串焼きを受け取ると、ポケットから出した硬貨を2枚地面に放った。


「うわっちょ、ちょっと。・・・あれザンクさん、全然足りないですけど・・・。」

「てめえが時間かけたからだろうが。迷惑料でこんくらいになるのは当然だろ。さて用は終わったんだ。また次も頼むぜ〜。」


 ザンクと呼ばれたチンピラは、アルヴィに硬貨を放った後、手をヒラヒラ振って仲間と共に串焼きを食べ始めた。アルヴィは納得出来ない表情で硬貨を拾った後、トボトボと路地を引き返して行った。


(落ち込んだアルヴィは気になるけど、こいつら許せないな。自分達より弱い存在を顎で使って、良い気になっている。このままアルヴィが不幸になっていくのも寝覚めが悪い。)


 俺はこの街で初めて人助け(・・・)に胸を躍らせるのだった。



 目の前のチンピラ3人は数分もしない内に串焼きを食べ終えた。そばに置いてあった袋を持って路地から出て行こうとする。


「あのガキは使えねーなぁ。仕事はテキパキやらんとなあ。ガハハ。」

「そんなこと言って、ガキの採ってきた薬草を納品すんだろ?」

「ああ、そうだぜ?俺がガキを使ってやってるんだ。金もやってるし感謝して欲しいくらいだがな。おっでも今日は結構重いじゃねえか。もうちっと金をやりゃあ良かったか?」

「やめときな。あのガキがつけ上がるだけよ。」


 ザンク達は悪びれるもなくそう言った。周りの2人は制止する訳でもなく同じように賛同している。


(こいつらは反吐が出るほどのクズだな。〈ヴォーガ〉でさえこんなのはいなかったぞ。)


 アルヴィはどう思っているのだろう。少なくとも良い思いはしていないはず。門番との話でも金が無いと言っていた。


 こういう弱者に力を振りかざす存在は、この俺が粛正してやる。



 そんなコーダの知る由もなかったことだが、〈ヴォーガ〉では発育の問題もあって、大人と子供の力の差が大して無い。


 厄介な場所として国からも認知されている事は〈ヴォーガ〉の存在を知っている者からすれば常識だ。

 冒険者ギルドから多数の精鋭が自警団員として派遣されている事もあり、自警団の徹底管理のおかげで下手な平民街より治安が良くなっている程だ。


 前世でも今世でも、悪者は必ず罰を受けてきた環境で生きてきたために、コーダの誤った正義感が育まれてしまったのだった。

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