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火野愛子の転生

今回もクラスメイトの転生です。

男爵家に転生した話です。


 私は火野愛子、だった。今では屈強な男達の目の前で偉そうにふんぞり返っている。

 どうしてこうなった・・・。



 転生する前は、普通だったと思う。普通の高校に入って普通の友達と日々を過ごしていた。ただ唯一違ったのは、修学旅行だった。

 私達は修学旅行の帰り道、事故に遭ってしまって死んでしまった。


 その後は、ベリルテスという神様から別の世界への転生をさせて貰えることになった。まだここまでは良かった。


 法佳と私と幸田君だけが取り残されたように、選択を迫られて焦ってしまったのだと思う。幸田君には悪いことをしたと思うし、同じ世界に転生する事もあるから出会えるなら謝りたいほどに。

 幸田君に一番辛い役回りを押しつけて、私は男爵家に転生することを選んだ。



 この時に男爵家なんか選ばなければ。孤児・・・は嫌だけど平民だったなら、なんてどれだけ思っていたか。でももう遅い。

 私は私の作り出した状況を何とか改善するために今日も声を張り上げるのだ。


「ほらそこ!休んでもいいけど、たおれ込まない!これが終わったら、ごはんにするから、最後くらいがんばりなさい!」

「はいっ!教官!」


 本当にどうしてこうなった。



 生まれた時は喜ばれていたけど落胆も少し混じっていて、この世界のことを何も分からないなりに違和感を感じていた。

 私が生まれた家はサマター男爵家。アレックス・サマターというのが父で、王国騎士だったんだけど功績で男爵に叙爵されたっていう新興貴族だ。

 古い貴族からは嫌われているけど、騎士や騎士を志す者からは人望が厚く、王国直轄の騎士団の副団長にもなっているらしい。


(そんな家の子なんだから、女の子だったらガックリしちゃうよね。仕方ない事なんだけど、さ。)


 私が喋れるようになった頃、お母様に聞いたことがある。


「おかあさま。わたし、どうしてへやのなかにずぅっといるの?」

「アイーシャ、外にはね、こわぁい人達がいっぱいいるのよ。だからお披露目するのは、もうちょっと大きくなったらね?」


 外には怖い人達がいるらしい。今思えば、確かに怖い人達っていうのは分かるんだけど。

 私はその時のお母様が言われた言葉に興味が出て、目を離した隙にコッソリ見に行ってやろうと思っていた。


 とある昼下がり。本来なら私はお昼寝の時間で部屋には誰もいない。これはチャンスだ。

 いつも寝ているベッドの柵をよじ登って窓のヘリを掴んで外を見る。普通、貴族の庭って庭園をイメージするんだけど、うちは違っていた。

 2階から見える庭は、地面が広がっていていくつか建物が点在していた。中央ではザッと100人くらいの男達が模擬戦のように棒のような剣を打ち合っている。でも体格はバラバラで、太っている人もいるし筋肉が目立たない痩せた人もいた。


 騎士だ。私の知識の中ではそう答えが出た。

 でも騎士ってもっとカッコいいとか強そうってイメージだったけど、これはまるで・・・農民が武器を持っているようで頼りない。


 筋肉が全然ついてない。ここではどうなっているか知らないけど、基礎トレーニングを重視してないのは丸分かりだ。私は前世ではインターハイ出場枠に食い込むほどだったけど、生まれ持った体格もあってそれが打ち止めだったと感じていた。

 

(でもここの人達は違う。体も大きいし技術もある。今からでも遅くないし、どうにか出来ないかな。)


 居ても立ってもいられなくなってベッドから降りて外へ向かうのだった。



 幸運にも誰にも会うこともなく外に出ることが出来た。部屋から出たことのない私には迷路のような所で、裏口のようなドアから外に出た。

 外は、庭と同じく地面になっているけど、通路は石畳になっていて歩きやすくなっている。建物に沿うように歩けばいつかは辿り着きヨチヨチ歩いていると、壁にもたれて座り込む人が見えた。


(あの服装は、さっき庭で剣を打ち合ってた人よね。どうしたのかな。)


 見た目は痩せている、その人に近づいて話を聞いてみることにした。


「こんなところで、どうしたの?」

「うわっ!・・・なんだ子供か。いや別に休憩してるだけだよ。」


 その人はそう言うけど、項垂れているし悩みがあるかも知れない。


「わたしはまだこどもだけど、はなしくらいならきけるよ?」


 何となく可哀想になって、私はその人の隣に座って、話を聞くことにした。


「・・・まあ、お嬢ちゃんには話しても別にいいか・・・。

 実は俺、ここの騎士団に志願して訓練を受けているんだけど、ついて行けなくってさ。今も仮病で抜け出したんだよ。それでこれからどうしようかなって。親にも騎士になるって言ったから今更・・・。」


(この人、確かに痩せてるし体力ないのかも。もしやるならまず、お肉をつけないとね。)


 私はその人にこんな提案をしてみる。


「わかった!じゃあ、わたしにまかせてくれない?あなたをりっぱな、きしにしてあげるから!」

「えぇ!?何言ってるの。そんなこと出来るはずないよ。」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。こうかがでなかったら、やめてくれてもいいから、わたしのいうことをきいてみない?」


 その人はしばらく考えていたけど、最後には頷いてくれた。その日から私とその人の特訓が始まった。



 その人の名前はクインシーっていうらしい。私も自己紹介をしたところ、畏まられそうになって慌てて止める程には、この家に忠誠心はあるみたいだった。


 まず食生活改善から始める。クインシーさんは食が細いみたいで、寮で出る食事も半分くらいは残してしまうそう。これからは出来るだけ食べて貰う事にした。

 その後はキツめの筋トレをして貰う。器具なんか無いので、腕立てやスクワット、走り込みなど原始的な筋トレだけど何とかサマになってきた。



 クインシーさんは3カ月もしないうちに立派な身体になっていた。元々騎士を目指すほどであったから、筋肉がつきやすかったのかも知れない。

 その頃になると、同僚にも気づかれるようになったみたいで、私のことを話したいって言ってきたけど、結果がついてこないと言うのは恥ずかしいって言って断った。

 

 クインシーさんの実力は下から数えた方が早いくらいの能力だったのが、今や模擬戦でも上位に食い込む程だとか。

 確かにそんなに急成長する同僚がいるのは驚くよね。私が指導するのは、トレーニングの最初だけで、食生活改善とか筋トレとかもやってきたのは本人だし、私自身も感謝を向けられるのは何かむず痒くなる。



 とある朝、いつものように部屋で目覚めると外が騒がしい。今ではベッドの柵を登らなくても、外が見えるようになって成長を実感してる。

 

 外を見やると、庭で1対1の模擬戦をしているようだった。ギャラリーも多くて、今ちょうど、クインシーさんが戦ってるみたいだ。クインシーさんの相手は、同じくらいの体格だけど動きが悪そうに見えた。


 クインシーさんが鍔迫り合いをした後、体当たりをして相手を倒して首元に剣を向けた。


(クインシーさん、強いじゃない!なんかかっこいいし騎士って感じするわね。)


 一拍遅れて周りを囲んでいたギャラリーが声を上げて、クインシーさんを称えていた。

 伝令かな、その集団の中にいた1人がこっちへ走ってきた。お父様に報告するのかなと思っていたら、私の部屋のドアがノックされたと思ったら、勢いよく開けられた。


「アイーシャお嬢様!騎士団の方々がお呼びとの事です!何かやったんですか!?」


 突然のことでびっくりして固まっていると、


「と、とりあえず連れて来いって言われてるんです。失礼しますよ。」

「えっ?・・・ひゃあっ!」


 私は執事に持ち上げられてバタバタと部屋から出た。


 階段を降りて庭の方に出ると、クインシーさんを始め騎士団の方々が待っていたので執事に降ろして貰った。

 クインシーさんが私の方へ歩み出てきたと思ったら、片膝をついて胸に手を当てた。


「アイーシャ様、あなたのおかげで、私は強くなる事が出来ました。この強さは(ひとえ)にあなた様が私を鍛え直してくれたおかげであります。本当にありがとうございます。」

「え?・・・あ、いやわたしは、ぜんぜん。クインシーさんのどりょく、だとおもうよ?こちらこそ、つよくなってくれて、ありがとう。」


 私は面をくらってしまって、余り上手く返答出来なかったけど、クインシーさんが微笑んでくれたので、それからは何も言えなかった。

 すると、周りから声が出始めた。


「お嬢様、私めにもご指導頂きたいのです!」

「おい。失礼だろ。お嬢様におかれましては、本日も大変お美しく・・・。」

「お前こそ似合わねえ事すんな。」


 私に指導して欲しいと殺到してきた。クインシーさんが遮ってくれたから近づいて来なかったけど。

 そんなことを思っていると目の前のクインシーさんが小さい声で私に言った。


「私がここまで急成長したのを、遂にお嬢様だと明かしてしまったのですよ。彼らにも私にしたように鍛え直して頂きたいのです。多分、拒否権はないかと思われますが。」

「え、えぇ・・・。べつに、しじするくらいならいいけど・・・。」

「あとそれと強い口調で言わないと聞いてくれない荒くれも居ますから、出来れば最初だけでも強く言って頂けると幸いです。」


 クインシーさんは、いたずらが成功したみたいに、少し意地悪なことを言ってきた。確かに目の前には、クインシーさんとは似ても似つかない体格の人達が大勢。

 クインシーさんのように鍛えたらすぐ筋骨隆々になれるような才能の持ち主なら、埋もれさせるには惜しいな。


(よし!気合い入れろ、私!そもそも最初は、みんなの体格が貧相だった事から始まったのよ!なら・・・。)


 私はクインシーさんに横へ退いてもらって、深呼吸をして出来るだけ大きな声を出した。


「いまから!あなたたちに、しれんをあたえます!この庭をぐるっと3しゅうして、はやいものじゅんに、わたしのまえにならびなさい!

 それがおわったら、チームにわかれてしじをあたえます!分かりましたか!?」


 目の前の集団は私の声に驚いて呆然としていたが、クインシーさんの手拍子で我に返った。


「ホラ、何を呆けてる!お前らの望んでいた指導だ!早くしないと一番になれないぞ!ホラホラ!」


 その声に我先にと走り出した一同を見て、私はクインシーさんにお礼を言う。


「ありがとうございます。」

「いえいえ、当然の事でございます。」

「それで、クインシーさんは、なんでいかないんですか?」

「・・・え?」

 

 私の言葉を理解出来なかったみたいだけど、私も見習って手拍子で追い立てる事にした。


「ほら、はやくいかないと、いちばんになれませんよ!

 あっ!クインシーさんは、じぜんの、たんれんがありましたから、5しゅうで。」

「え、エェ〜!」


 ほらほらと手を叩いて、クインシーさんを追い立てた私を見て、少しだけ真面目に走るようになった騎士達だった。


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