新田真吾の転生
クラスメイトの転生です。
真面目系、生徒会副会長の人です。
広々とした室内、煌びやかな装飾、整然と並び屹立する本棚、目の前には細々と細工された鈍く光る机。
僕はそんな場所で教師から授業を受けていた。
「このネルケルト王国は、〈スルガン湖〉の東側を覆うように発展してきました。始まりの王ルインが〈スルガン湖〉の精霊ネールケルタリから認められ、彼の精霊の名をあやかり、ネルケルト王国が誕生致しました。」
「知っている。その時に精霊から貰った剣が王に代々継承されているファロスオーロであり、それがネールケルタリから認められた王の証なんだろう。」
僕が教師の話の続きを事も無げに説明すると、感激して褒めてくれるが、正直僕はくだらない気持ちだった。周りの大人からは神童と持て囃され食傷気味だったからだ。
確かに2歳くらいの幼児が国の歴史を話し始めたら驚いてしまうだろうが、何回も同じ展開だと面倒になるというもの。僕は興奮している教師に次の講義を促しながら、今までの記憶を辿って行くのだった。
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僕は平凡に生きる人生に退屈していた。平凡な家に生まれ、平凡な学生生活を送っていた。教えられることを普通に覚え、普通に実践してきた。それを周りは持て囃して僕はまた退屈していった。
修学旅行の帰りの事故で、転生出来ると神に言われた時には驚きや戸惑い以上に、歓喜が強かった。この日々に変化があるのならと転生を承諾し、世界エルランドの第二王子を選択し生まれ変わった。
◆
意識が覚醒したのは、数瞬後の事だった。視界は明瞭でないし言語も理解出来なかったが、周りが騒がしいことだけは分かった。
不意に優しく抱きしめられ、何かを囁かれた。あの時は分からなかったが、今思えばこう言っていた。
「シータイト・フォン・ネルケルト。それがあなたの名前よ。あなたはこの国の王となるのよ。」
それから1年は、寝ながら言語の習熟に注力した。しばらくは、言葉にならない声しか出せずにもどかしかったが、普通の子供よりは早かったようで驚かれていた。
どうやらここはネルケルト王国という国で、僕には兄が1人、姉が2人いるということで、転生時の不可思議な出来事は真実なのだと悟った。
僕の世話をしてくれている乳母の名前は、ヒルデという名前だそうだ。粗方、言語学習が出来たあたりで僕の世界を広げることにした。
「ヒルデ、おはよう。きょうはてんきがよくて、きもちがいいね。」
「・・・ぅ・・・あ・・・、あ、はい。とても心地良いお天気でございます。」
そんな反応に僕はイタズラが成功したかのようにはしゃいで笑ってしまったが、ヒルデは少しの間かたまって、直ぐに一声掛けて部屋を出ていった。その日は僕が生まれた日以上に騒がしい日となってしまった。
◆
それから更に1年程は、簡単な勉強を学び、魔法も少し使う授業もあった。どうやら僕は聖属性と風属性に適正があるらしい。
事あるごとに感心されることが厄介だったが、僕が規格外な存在であることも事実だった。
勉学では実際のところ覚えるだけで楽だった。魔法に関しては、魔力が過去の誰よりも多く、王位継承順位をも脅かすなどと言われているとか。
そんな事もあり、非常に早い段階から僕に専属の教師がついており、ただいま絶賛褒められ中だという状況だった。
今日の講義も全て終わり、教室となっている城内図書館から退室する。窓から見える景色は、もう薄暗い。城内はランプがあるので夜でも明るくなっている。
教師からいくつか本も借りているので、僕に付いている侍従に持たせて自室に帰る。
道すがら警備の騎士や侍従達と話していると、前から2人の少女が歩いてきた。
「フィオレンサお姉様、レティシアお姉様、こんにちは。いえもうこんばんは、でしょうか。」
「もう、シィったらフィオって呼んでって言っているじゃない!」
「レティのこともレティシアじゃなくて、レティって呼ぶの。」
この2人の少女達、フィオレンサとレティシアは僕の腹違いだが良き姉達だ。愛称で呼ぶのは少し恥ずかしいけれど、呼ぶと嬉しそうにしてくれる。
フィオレンサは8歳。快活でお転婆な印象だ。
レティシアは6歳。物静かだが押しの強い一面もある。
「このあとはシィも一緒にご飯食べるでしょ?」
「今日は、レティが隣にすわるの。」
2人の掛け合いに笑ってしまい和やかなムードになり、一旦別れの挨拶をして自室に向かう。その後は、広間へ移動してまた姉達と会話していると強引に入ってくる者がいた。
「おいっ!なんで、こんなところに、げみんがいるんだよ!ここはおうぞくのしろ、なんだぞ!」
意地の悪い事を大声で言ってきたのは、出来損ないの我が兄、ネルケルト王国の第一王位継承者、ルイス・フォン・ネルケルトだ。
ルイスが僕の事を下民と呼ぶのは、僕だけが側室の子だからだ。
フィオレンサ、レティシア、ルイスが王妃ルチアの子で、シータイトこと僕が側室モニカの子だ。ルイスが5歳で、僕より3歳上になるが知能は哀れとさえ思う。
自分と血の繋がる姉達が僕の世話を焼くのが気に入らないのだろう。事あるごとに突っ掛かって来ては場の空気を乱す。面倒すぎる。
姉達も毎度のことなので宥めるようにしていると食事の時間となった。
父王と王妃は僕達とほとんど食事を共もしない。公務が忙しいのだろう、頭が下がる思いだ。
僕は主に野菜を使った離乳食のようなスープと柔らかいパンで、兄姉達はフルコースのような宮廷料理だった。当然すべて食べ切れるはずもなく、食事マナーの実践でしかないのだろう。食事マナーの教師なのか、ルイスだけは食事中に指導が入ることが多かった。
食事も終わったので兄姉達に就寝の挨拶を済ませて自室に戻った。自室に備え付けの風呂に侍従と共に入り、10分程で出る。
その後は、教師から借りてきた全ての本に目を通して、寝るだけとなる。
2歳児には大きすぎる天蓋付きのベッドに入って先ほどのことを考える。
将来、あの兄が王になる時が来れば由緒ある国でも脆くも崩れ去るだろう。どうにかして兄を蹴落としてしまおう。
そうだな、まずは醜聞でも流すか。

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