巣立ち
主人公視点に戻ります。
境界線に到着した時、始めは目を疑った。立ち塞がるように立っている2人が居た事を理解できなかった。理解できないまでも無視できない事だけは分かったので、固く強張った顔の2人の前に姿を晒した。
「ガスティ、バーリー。ひさしぶり。」
2人は突然現れた俺に驚くも神妙な顔は崩さなかった。そんな中ガスティマが口を開く。
「久しぶりだな、コーダ。
今までどこ行っていやがったってえ言いてえとこだが、俺達にはそんな資格はねえって思ってる。」
「そう。ごめん、ボク、そっちにいきたいんだ。」
ガスティマは俺から目を離さないように強い眼差しを向けてきたけど、あまり意識しないようにする。少なくとも、あの時は拒絶の意思があった。だからもう前みたいな関係になることは無いだろう。
バーリーも表情を崩さないように話し出した。
「コーダ君、僕も君にこんなこと言う資格が無いと思う。でも伝えたい事があるんだ。聞いてくれるかな?」
俺はバーリーを見て頷いた。
「コーダ君と初めて会った時、僕が守ってあげなくちゃって思ってたんだ。ボロボロになって親から逃げてきて、衰弱した顔を見ていて守ってあげなくちゃって。
それからコーダ君と過ごす内に、コーダ君がいる事が普通になって、家族みたいになれたって思ったんだ。
でもあの夜、コーダ君の魔法を見たら怖くなっちゃって・・・顔を、背けてしまったんだ。謝っても謝りきれないと思ってる。ごめん。
コーダ君が逃げちゃったあと、すごく後悔したよ。不安がる君を抱きしめるだけで良かったのにって・・・。
今までの事を思い返してみたし、これからの事も考えたんだ。コーダ君、また僕らと一緒に暮らして欲しい。もうこれからはずっと君の味方でいるから。」
バーリーは俺に自分の思いの丈を伝えてきた。最後の方は泣き声を抑えているようだった。
俺だって家族だって思ってた。でもあの時、拒絶された顔が忘れられないのも事実。
俺は魔法を使って生き長らえてきた。危ない時も、苦しい時も救ってくれたのは魔法だった。俺にはこの力を捨てる選択肢なんて、無い。
「バーリー、もうもどるきは、ないよ。ふたりには、かんしゃしてる。
でももう、ちがうんだ。ボクはまほうを、すてられない。〈ヴォーガ〉にはいられないんだ。だからでていくだけ。それだけなんだ。」
俺はバーリーとガスティマに自分の気持ちを打ち明ける。この2人と別れるのは悲しいけど、〈ヴォーガ〉にいても変わらぬ日々が続くだけ。
俺の言葉に溜め息をつきながらガスティマが返答する。
「・・・ここから向こうは違う街になる。コーダにゃあ難しいかもしれねえが、この境界線は〈ヴォーガ〉ともう一つ別の領域を区切ってるんだ。ここを越えたら俺達も下手に動けねえ。俺達はもう助けらんねえんだ。・・・それでもいいんだな?」
「団長!なんてこと言うんすか!それじゃあまるで見送りみたいに聞こえちゃいますよ!なんとかして引き止めないと・・・。」
バーリーがガスティマの言葉に突っかかる。そんなバーリーにガスティマは強い口調で言う。
「バーリー!もうこれは引き止めるなんて状況じゃねえ。もうコーダは決めやがったんだ。旅立ちには早すぎるが、俺達は見送らなきゃならねえ!
コーダ!お前もだ!魔法ってのは貴族しか持っちゃいねえ。無闇やたらと使うと痛い目に遭うのは自分だ。お前は賢いから大丈夫だと思うが目立つ事すると損になるだけだぞ。」
意外にもガスティマは俺を引き止めるつもりは無いようだった。バーリーは俯いてしまっている。
このままだと円満とは言いがたい。この2人には納得して欲しい、
「ガスティ、バーリー。ボクがふたりに、かんしゃしてるのは、ほんとうなんだ。ボクをぜつぼうから、すくってくれた、のは、まぎれもなく、ガスティとバーリーなんだよ。
いろいろあったけど、ふたりには、わらっていてほしいんだ。わがままだけど、ボクはそうおもってるんだ。」
俺はあの夜のことがあったからって受けた恩なんか忘れた事はない。バーリーの言う事も痛いほど分かる。俺が魔法を持たない普通の孤児だったら、この2人と一緒に暮らしていただろう。
それくらい愛情を感じていた。そんな愛情を与えてくれた存在が悲しい顔をしているのが嫌だった。
「ボクも、かぞくだっておもってるよ。これからもげんきで、いてほしいって。
おおきくなったら、ふたりにあいにくる。ぜったい。かならず。だからバーリー、・・・なかないで。」
俺が話している途中から嗚咽が聞こえていた。バーリーはバッと前を向き、こっちに近付いてきて叫ぶように俺に想いをぶつける。
「絶対だよ!絶対戻ってくるんだよ!コーダ君が大きくなるまで、ずっとこの〈ヴォーガ〉で自警団をしてるから!約束だからね!」
「うん、やくそく!」
俺は近付いてきたバーリーの差し出す手と握手したら、がばっと抱き締められる。突然のことで驚いたけど、一拍遅れて抱きしめ返した。
10秒程はそうしていただろうか、ガスティマが近づいてバーリーの背中をポンポンと叩いた。
「そろそろ良いだろ、バーリー、コーダを離してやれ。」
スッと俺から離れたバーリーは涙を流しているようだったけど、笑顔だった。そんなバーリーを見て俺も笑顔になった。安堵感に包まれていると、ガスティマが指で頬を掻きながら俺に声をかけた。
「コーダ。俺はこういうの苦手でな。抱きしめてやるのは恥ずかしいから、これをやる。
何日かの食料と服だ。大きめのマントも入れといたから、寝床にでも使え。これからお前は多くの困難にぶち当たるだろう。チビだってこともあるが、出身だな。〈ヴォーガ〉出身ってのは、〈ヴォーガ〉以外じゃ肩身が狭え。出来るだけ隠して、何かありゃ魔法をぶつけてやれ。
お前はここが故郷になる。そういうナメたヤツはぶっ飛ばしていいぞ!俺が許す!」
ガスティマは俺に革袋を手渡して頭に手を乗せながらそう言ってきた。
(でも故郷か・・・。ここが俺の出発点。)
などと思っていると、ガスティマの大きな手が俺の頭を撫でる。
「あの夜、コーダが助けてくれなきゃ俺はここにいねえ程の怪我をしてたはずだ。確かに魔法は危険な力だ。
だが使いこなせれば何にだって使える。・・・お前には助けられたぜ。ありがとうな!」
ガスティマは俺の頭からてをどけると、俺に道を譲ってくれた。
俺は平民街の方へ歩き出して2人の前を通った後に、振り返る。
「ガスティ!バーリー!いままでありがとう!
いってきます!」
俺は、また振り返って歩き出した。後ろから2人の声が聞こえてきた。
「おう!行ってこい、コーダ!」
「コーダ君!気をつけてね!ちゃんと食べるんだよ!あとは寝る時はしっかりマントを使って、それで。」
「もういいだろうが。母親かお前は。」
そんな掛け合いを聞きながら、ふふっと笑ってしまう。少し振り返って手を振りながら、俺は〈ヴォーガ〉から出て行った。
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これで第三章が終わって、次は他のクラスメイトのお話です。