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残された者達の想い

少し時間が戻って(孤児になった日の後)、ガスティマ視点になります。


 自警団は、いつにも増してピリついた雰囲気だった。昨晩、川沿いの家に突入した後、コーダが魔法を使ったことで怪我をした者もいたからだ。大きな爆発だったが、幸い死者はおらず大事にはならなかった。ただ、夜に魔法の光を打ち上げたから余計な噂が立ってしまっている。

 曰く、南の方で魔法使いが暴れている。


 噂など簡単に消える訳もない。コーダを知る者ならば同情出来るかも知れないが、魔法という暴力を知っている者は戦々恐々としている。

 そんな事情は自警団内でも同様で、コーダを保護していたガスティマとバーリーに不信感を募らせている。ガスティマとバーリーは、周りの雰囲気の払拭に努力しつつ水面下ではコーダの捜索をしていた。


 あの時、コーダの味方でいられなかったことを悔やんでいたからだ。バーリーに至っては、このような雰囲気にも関わらず、肩を落とし日々を無気力に生きているのを心配される程だった。


 そんな中、自警団に陳情が届いた。〈アンハルト通り〉のゴミ捨て場に鳥が集っているという事だった。団長であるガスティマには通さずに、現場判断で若手に任せたのだった。

 その日の晩、ガスティマやこの若手達が、ファーナで晩飯を食べているときに気になることを話していたのが、ガスティマの耳にも入った。


 若手達が話すには、2歳くらいの子供の死体があった、と。



 ガスティマはその話を聞いた瞬間いても立ってもいられなくなった。すぐに若手達に詰め寄り詳細を問い詰める。その時の子供の状態、誰に回収されたのか、どこに捨てたのかなどを。


 ガスティマはファーナを飛び出し、薄暗い〈ヴォーガ〉を疾走し、明かりが漏れているある住居に駆け込んだ。


「バーリー!寝ている場合じゃねえぞ!コーダを見つけたかも知んねえ!」



 何か事件があった時、自警団内では主にモンテルロ副団長旗下、バーリーのいる部隊が〈ヴォーガ〉の情報収集をする。いまだ断片的な情報を整理するには、うってつけだった。

 ガスティマはバーリーに自分の得た情報を伝えた。

 

「今日の昼、〈アンハルト通り〉のゴミ捨て場に子供の死体を見つけた、という報告が上がってきた。」


 この情報にバーリーは絶句する。もしコーダだったらと嫌な想像がよぎる。しかしまだガスティマは続ける。


「で、だ。回収してる奴の名前はブルックと言うらしい。そのブルックが使うルートさえ分かればコーダを見つけられるかも知んねえ。無駄骨になっちまうかも知れねえが、お前の意見が聞きたい。」


 バーリーは衝撃的な情報を呑み込み、ガスティマに言われたことに答える。考えるまでも無い事だったからだ。


「コーダ君を見つけられるなら、少しでも近づけるのなら、たとえ無駄骨だろうとも構いません。

 会ってあの時のことを謝らないと僕は先に進めないでしょうから。」


 バーリーは決意するようにはっきりと自らの想いを口にした。

 その日は、遅くなるまで2人で話して、明日に捜索を開始するということで両者とも体を休めるのだった。今、この瞬間コーダが全身全霊で生き延び、人生観が一転してしまうとも知らずに。



 翌朝、2人が自警団本部に出勤するとモンテルロが血相を変えてやってきた。


「おお!来たか。実は今日の未明くらいに東のゴミ溜めで大きな爆発音がしたらしい。

 まさかと思って確認してみたが、昨日の一件と関わっているようだ。」

「なにっ!それは何処だ!?」


 その情報に素早く反応したのはガスティマだ。モンテルロに詰め寄っていると、別の団員が地図を持って場所の説明をしてくれた。


「団長。騒動の場所はここから東に1時間ほどのゴミ溜め穴の密集地帯です。すでに野次馬も多く、団員達で規制しています。」


 ガスティマとバーリーは地図を確認すると、挨拶もそこそこに駆け出そうとした。しかしその時に別の団員が声をかけた。


「団長。急ぎの所すみません。あの少年のことを保護されていた事情は知っています。あの少年のおかげで、川向こうの問題の取っ掛かりも掴めました。」

「しかし・・・あの少年は危険です。この騒動は早くに決着すべきだと思います。」


 ガスティマはその言葉に、ぐっと歯を食い縛り、重々しく口を開いた。


「ああ、確かにアイツは危険な力を持ってる。俺だって魔法に苦渋を舐めさせられてきた。

 だがアイツは世間を知らねえ子供だ。いやまだ2歳くらいなんだから、まだ親に守られて育つくれえなんだ。魔法が危険なら、危険だって事を教えりゃあいい。

 それにアイツには、助けられて礼も言えてねえ。それだけでも探す理由になるってもんだ。」


 ガスティマがそう言う隣でバーリーは強く頷いていた。周囲の団員達は、ガスティマの意見に呆気に取られながらも捜索を了解してくれたようだった。


「確かに、あの時にあの少年が動かなければ団長は、大怪我を負っていたでしょう。あの少年には我々も借り(・・)があります。我々も少年の捜索を手伝います!」


 そう決意表明してくれ他の団員からも賛同の声が上がる。たった一人の少年の為に、しかも魔法使いの少年の為に自警団が団結した瞬間だった。



 自警団本部から、1時間ほど東に進んだ場所。〈ヴォーガ〉の狭く入り組んだ街並みもあって、走るのもままならない。出来るだけ早足で進んだガスティマとバーリーが目にした光景は、地面は抉れ生ゴミはぶち撒けられている惨状だった。


 穴のフチに大きな窪みが出来ている。まるで中から凄まじい爆発があったように。

 ガスティマとバーリーは、これがコーダの仕業であることにすぐに悟った。ガスティマは、あの夜の光景が思い浮かぶが、すぐに頭を振ってそんな思考を追い出した。そんな時に隣のバーリーから話しかけられた。


「団長、これってやっぱり・・・コーダ君の仕業ですよね?中から壊した形跡がありますよね?これってどう言う事でしょう。」

「実際に中から魔法をぶちかましたんだろうよ。普通なら瀕死の状態で脱出出来る訳がねえ。だがコーダの魔法なら、脆い土くれなんざ吹き飛ばせるだろうよ。

 まあ、子供の死体があったって聞いた時には流石にビビっちまったけどよ。とりあえず生きているようで安心したぜ。」


 この惨状を前にホッと息をついている2人は、さぞ場違いだっただろう。だが2人にはこの魔法の跡に見覚えがあった、それだけでも安心出来るほどに2人の心は逼迫していたのだった。


 考察した後は、周りにいる自警団員に指示を飛ばし、片付けと聞き込みに回った。ここの管理者は近くに住んでいて、深夜に大きな音を聞いて起きてしまったそうだ。翌朝、音がした方を見に来るとこのような状態だった、と言う事だった。

 聞き込みによる収穫は得られなかったが、早々に穴の補修を終えたあと団員達と自警団本部へ引き返していると、先ほどの管理者が慌ててやってきた。


「俺の家にあったヤヤが盗まれた!ここに来る前には確認したんだが、今見たらなくなっててよ!」


 管理者が慌てているようなので2、3人の団員を調査に行かせて、今度こそ自警団本部へ戻る一行だった。



 自警団本部へ戻ると、またもやモンテルロが出迎えてくれた。


「お疲れさん。おっ、収穫有りって顔だな。こっちも何とか状況整理出来たとこだ。」

「悪りいな。まぁとりあえず団長室で話すぞ。バーリーも一緒に来い。」


 ガスティマはバーリーとモンテルロを連れて自警団本部内の団長室へ入り、椅子に腰掛ける。まずはモンテルロから話し始めた。


「実はな、以前から肉焼きの商店から肉の盗難に遭っているっていう相談があってな。さっきお前らを見送ったあとその話を確認していたら、コーダと思わしき情報が出てきたんだ。

 何でも、店主が見張っていると物陰から小さい子供が出てきて、肉に手を伸ばそうとしたもんだから痛めつけてゴミ捨て場に放った、という事だったんだ。」


 その話を聞いてガスティマとバーリーは絶句した。思わずバーリーは声を出した。


「そんなひどい・・・。しかも翌朝には死体と見間違われるほどだったって事ですよね?その人は正気じゃないですよ・・・。」


 バーリーはその店主を強く批判した。まあまあとガスティマは宥め、モンテルロに話を促す。


「それでだ。盗みが他にないか調べてるとな、コーダが居なくなってから何度か盗難被害が報告されていることに気付いたんだ。あの川沿い辺りから〈アンハルト通り〉まで点と点を繋げば、綺麗に直線が引ける程にな。

 だからコーダがまだ生きていてこの〈ヴォーガ〉を彷徨っているという事が自警団の見解だ。」


 バーリーは俯いたまま項垂れているようだった。ガスティマは引っかかりを覚えてモンテルロに尋ねる。


「何かコーダは目的でもあるのかね。ウロウロと何かを探す訳でもねえみてえだ。モンテルロよ、ちなみに何を盗ってたかって把握出来てんのか?」

「ん?ああ。飲み水とか布きれとかだな。あとはヤヤを盗まれたってのもあったぞ。」


 ガスティマはその言葉にハッとする。団長室の机から地図を引ったくって、2人の前の机に広げる。


「さっきあの爆破現場から帰ってくる時にヤヤを盗まれたっていうことを言っていたヤツがいた。バーリー、あそこの管理者の家って分かるな?」

「え、えぇ。大体この辺りですよ。」


 バーリーはゴミ溜め穴の少し北へ行った〈ヴォーガ〉の外周部分を指す。それにガスティマは、やはり・・・と呟いた。


「コーダの目的が分かったぞ!コーダは最初、〈アンハルト通り〉を目指していた。あそこは〈ヴォーガ〉(いち)の大通りであると同時に平民街へと繋がっているって伝えた事もあった。今もまだ北上してるようだから、コーダの目的は境界線へと行く、ということだ!」


 ガスティマが高らかに推理を披露した後、落ち込むバーリーを奮い立たせ、モンテルロを団長代理に立てて、大急ぎで境界線へ向かった。

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