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決意と出会い

少し遅くなりました。


 穴を脱出した後、俺はこの状況を打破するために考えなくてはいけない。状況に流されゴミみたいに扱われ強者から怯える毎日。

 物陰に座って柱にもたれて頭を巡らす。ちょうどここは〈ヴォーガ〉の外。目の前には果てしなく広がる平原、背後には暗く淀んだスラム。



 平原は、ハッキリ言って・・・怖い。ここは異世界だ、未知の物が多すぎる。俺はさっきみたいな小さい動物でも動揺してしまうほどに臆病だって実感してしまった。

 〈ヴォーガ〉に戻るなんて論外だ。戻ったところで俺の居場所はない。退廃した生活に未来なんてない。満足に食事もできない浮浪児になるだけだろう。


 現状を変えるためには魔法を使いこなすこと、環境を変えることだ。だから俺は平民街を目指す。冒険者が真っ当に生きる唯一の道だと、俺はその可能性に縋るしかなかった。



 気がつけば朝になっていた。寝落ちしてしまったのか、いつ寝入ったかよく分からない。ぼやける頭を起こして目を開けると、昨日の穴の周りには、2人の人間が中の様子を窺っていた。


(昨日の音は大きかったし、明るくなって見にきたっていう割に少ないな。)


 俺はそんな事を尻目に立ち上がり、少し痛む体で軽く伸びをして左側に歩き出した。とりあえず〈ヴォーガ〉と平原のへり(・・)に沿って行こう。切れ目があればそこが平民街だ。俺は朝日を一瞥して歩き出した。



 しかし昨日あれだけ重傷だったのに、何で平然と歩けているのか不思議でならない。確かにあの時、骨が折れた感覚があったが、今は背中や足が痛む程度で済んでいる。

 大人に殴られたのだから腫れているはずなのに、既に痣になっているなど異常な回復力だ。


 俺は栄養状態が良くないのは明白だが、以前から病気や怪我も長引いた経験が無い。両親から毒を盛られていた時だって何事なく過ごせていた。

 ただ俺の回復力には思い当たる節がある。魔法だ。

 魔法を使える、又は回復力が上がる属性を持っている。この2つの要因のどちらかだろうと考える。


 どちらにせよ、俺は知らず知らずの内に魔法に助けられていたわけだ。


(魔法か・・・。最初は不思議な力って印象だったけど、今は俺が生きている上で掛け替えない力だ。もっと自由に魔法を扱える環境じゃないと、俺は生きていける自信が無い。)


 改めてこの場所には用が無い事を思い知らされたコーダだった。



 それから歩いて数分もしないうちに腹が減ってきた。もう2日は食べていないし仕方ない。家の中をチラチラ見ながら周囲を探ってみる。

 10軒ほど見て回ると俺は目当ての物を見つけた。俺が初めて盗んで食べた果物、あの時の男はヤヤと言っていた。ちょうどあの時と同じ5個あるが、俺はあの時と同じ轍は踏まない。


(魔法は俺のアイデンティティ、もっと上手く使いこなさなければ。)


 雷魔法を遠くに飛ばす、聖魔法の光球を宙に浮かせる、ならば闇魔法も遠距離に干渉出来るはずだ。聖魔法は隠蔽に使っているし、雷魔法は攻撃に使うから闇魔法が全然使えてない。

 闇魔法のイメージは影、影なら伸ばす事が出来るはず。更にかつては俺を包んでいたのだから物を掴めるはずだ。


 ここから約5mほど先にあるヤヤに向かって闇魔法を使う。ズズズッと足元から影が伸びると、素早くヤヤの元に着き一気に包み込んだ。まるで黒い生物がヤヤを丸呑みにしたような光景だ。


(よしっ、上手くいった!)


 塊で動かすと明るいところではすぐに気付かれてしまうから、1つずつ影の中を通して引き寄せる。

 魔法を使ってから確保するまでで1分もかからず、遠くのものを取ることが出来た。


 魔力は30消費という感じで、次はもっと上手く速く出来るようにならなければ。と、思いながらヤヤを齧る。少し果汁があって喉が潤った。

 こういうのは早めに去ることが重要だ。魔力切れにだけ注意しながら、俺はまた前を向いて歩き出した。



 あれから休憩を挟みつつ夕方になるまで歩いた。朝のヤヤはまだ残っているのでこれを食べて寝よう。物陰に座って寝る準備をしていると、背中を預けている壁の向こうから話し声が聞こえてきた。


「あの話聞いたかよ。南の方で魔法を使って暴れてるヤツがいるって話。」

「さすがに知ってるわよ。ここで魔法の話題なんて知らないヤツはいないと思うわ。」


(ふむ。何だか興味深い話だな。)


「さっき〈アンハルト通り〉で自警団の連中が言ってたんだがよ。犯人の目星はついてるそうだ。だから心配ねえって話だったんだが・・・。」

「あー・・・、あなたのお母さん貴族に捕まったんだったっけ・・・。」


(この2人の話から察するに犯人は俺か?しかし貴族に捕まったっていうのはどういう意味だろう。)


「貴族のヤツらは許せねえ!魔法を使えるからっていきり(・・・)散らしやがって。俺に力があったらぶっ殺してやる。」

「まあまあ、あんま言うもんじゃないわよ。どこで誰が聞いてるか。」


 (こんな底辺にも貴族に恨みがある人がいるんだな。というか以前の反応からして魔法に恨みって感じだろうか。なら尚更、俺がここにいる意味がない・・・か。)


 壁の向こうの男女は、別の話に変わっていったので俺も興味を失ってしまった。


 しかしスラムの人間と魔法の確執か。自警団はほぼ冒険者だっていう話だったからスラム出身の者が少ないのだろう。だが以前の反応だと全員が全員、俺の魔法に怯えを見せていたように見えた。

 ということは、スラムに住んでいるのが重要なのかな、と考えるとやはり俺の居場所はここに無いと思いつつ寝る準備を再開した。



 翌日も変わらず歩き、その次の日の朝に境界線付近に到着した。

 非常に閑散としている場所で、ゴミが少し散らかっている程度で、〈ヴォーガ〉の雑多さと静寂が入り混じった異様な感覚を覚える。

 平民街との境界と聞いていたけど、目の前に広がっているのはだだっ広い荒野だ。〈ヴォーガ〉からはその荒野に続く道が一本あり、人影が見える。


 その人影は、今の俺にとって見逃せない存在だった。魔法で隠蔽している今なら素通りしても気付かれないだろう。でもこれは決着させないといけない事だ。

 俺はその存在の前に立ち、姿を現した。


「ガスティ、バーリー。ひさしぶり。」

 

 かつて、俺の家族だった2人がそこにいた。


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