ヴォーガの外
主人公視点に戻ります。
ガタガタと振動を感じる。体は怠くて動かせないけど、瞼だけを力なく開ける。
俺が這いつくばっているのはゴミ捨て場の地面ではなく、木の板張りの床だった。自分の周りは材木の切れ端やボロ布、カラカラに乾いた骨や腐ってしまっている野菜や果実などがある。一言で言ってしまえば、ゴミだ。そして上を見やれば、雲一つない青空が広がっていた。
(ここ何処だ・・・。)
と思っていると体中に感じていた振動がおさまった。すると急に床が持ち上がり後ろに転がってしまいそうになる。
(うわっ、あぶねえ!)
少し堪えてみるが抵抗虚しく滑り落ち、床が途切れたと思えば宙に投げ出された。すぐに柔らかいクッションのようなところに転落したので怪我はしなかったが、更に頭上から落ちてくるゴミに潰され呻き声を上げた。
上からゴミが降ってくる衝撃が止み、俺にのしかかるゴミの重さで息苦しさを覚えた。体が重く動きづらいけど、顔だけでも外へともがく。
幸運にも隙間があったのでそこに頭をねじ込んで外へ出る事ができた。周りは薄暗いが5mほどの円形の空間だ。記憶を巡らして考えていると一つの答えに行き着いた。
(俺はゴミ捨て場で意識を失ってから運ばれたのか。そしてここに落とされた。・・・つまりここは、ゴミ溜めか。)
周りを見渡しても色々なゴミがある。生ゴミはもちろんのこと、粗大ゴミも多い。
前世では普通、ゴミが溜められたあとはどうなったっけ。分けて潰して、最後には燃やす・・・。
(マズいことになった!この世界ではどうなってるか分からないけど、ここはマズい!)
燃やす文化が無くとも何かしらの方法で処分されるはずだ。気合いでゴミをどかして、何とか体を外へ出す。まずはここから脱出しなければ。
◆
ここが薄暗いのは光が天井のあちこちから漏れているからだ。上を見上げれば板を蓋の代わりにしているけど適当に置いてあるだけ。あそこまで届けば下から押し上げて出られるだろう。
今の場所から蓋まで大体1mくらい。俺の身長では背伸びしても届かない。使えるのはゴミだけで、今回、魔法は役に立ちそうもない。
まずは壁にゴミを寄せる。こんな状態じゃ力が全然出ない。恥も外聞もプライドも捨てて、肉をもっと食っておくんだった。
そんなことを思いながら布や木材を中心に足場を固めていく。そこへ適当なゴミを集めて、ある程度山が出来たら、乗って踏みしめて固めていく。
もう蓋の隙間から差す光はオレンジ色と薄っすら月明かりが混ざっている。ゴミの足場に乗って背伸びしても、あと少しだけどまだ届かない。
見る限りこの穴のキャパシティ的に、喫緊で処理があるとも思えないので今日はこれくらいにしようと作業を中断する事にした。
俺は踏み固めた足場から降りようとする。だが俺は油断していた。ここはゴミを溜めている所だ。木材や布を1箇所に集めれば他のゴミが顔を出す。
俺はグズグズに腐っている果実に足を取られ、足場にしていた場所から滑落して腐敗している生ゴミに突っ込んでしまった。
(クソッ・・・最悪だ・・・。)
ペッペッと口に入ったものを吐き出す。あぁもう今日は休もう。疲れているんだ。
俺は穴の壁に背中を預けて座り込んだ。外は完全に夜で、差し込む光が頼りない。目を閉じようとしていると、ガササッと擦れるような音が聞こえた。
(なんだ・・・。何の音だ。)
──ガサッ、ガサガサッ。
(何かが動いている。)
──ガサガサ、キシシッ。
(何かいる。怖い。)
──・・・ガサササササ!
(近づいてくる!怖い、怖い!)
咄嗟に右手を使って聖魔法で光球を作って周囲を確認する。・・・何もいない。
──キィキィ。
バッと音が聞こえた方を見る。一瞬シュルリと毛の生えた尻尾が見えた。慌てて左手に雷魔法で雷球を用意する。
(俺で遊んでいるのか・・・?)
──ガサササッ、キシッ。
目の前のゴミが揺れている。心臓がドクドクと脈打ち、息も荒くなる。
(怖い。怖い。怖い!・・・こんなの早く終わってくれ!)
──ガサッ、ドバンッ!
目の前のゴミから動物が飛び出してきた!口は大きく開けられ、よだれに塗れた口内、鋭い牙。鼻の周りにはヒゲが生えていて、目は魔法の光を反射してギラギラと輝いている。
「うわ、うわあああ!ああぁぁああ!!」
それを見た瞬間、叫びながら両手を前に出して、2つの光球に魔力を注ぎ込む。大きく膨れ上がると混ざり合い1つの砲弾となって、目の前の動物にぶち当たる。
それでも止まらない光輝く砲弾は穴の壁を大きく抉り土を撒き散らして爆発した。
数十秒は呆然としていたが、ここから脱出出来ることに気付いて慌てふためいて駆け出す。足取りもヨタヨタとおぼつかない。
けっこう大きな音が鳴ったから人も来るかもしれない。今度は忘れずに魔法で隠蔽した。
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