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ゴミ溜め

今回は主人公視点ではありません。

次回から戻ります。


 〈ヴォーガ〉の最も大きな道、〈アンハルト通り〉。ここは平民街へと続く道であり〈ヴォーガ〉では最も治安の良い場所である。各地に配備された自警団員が常に目を光らせている事もあり、〈ヴォーガ〉の住人のみならず、他領の平民や貴族でさえも足を踏み入れやすい。


 そんな場所であるためか、様々な物品を売っている店が多く見られる。日光に照らされ輝く宝石や装飾品、隣接する湖や川で獲れた川魚や野菜、食肉などの食材。更には靴磨き、人材の売り込みまで幅広い。そしてその全ての値段は絶対的に安い。

 〈ヴォーガ〉の人間は金を得るために他店より値引きにしかしない。明日食えないかも知れないのだ、計画的な利益より確実性を選ぶ。


 商人は、安くとも質の高い物品の目利きの訓練に役立つし、掘り出し物もある。使い捨ての人材雇用も出来るのでスラムに出入りすることが多い。

 貴族は、買い出しという側面もあるが、度胸試しに〈ヴォーガ〉へ来るような観光気分である事が多い。ほとんどの者は、徹底した警備の前に秩序立った〈ヴォーガ〉に何だこんなものか、と肩透かしを食らうのだが。



 自警団により統制がとれているように見えてもここは最下層。喧嘩や諍いなどは絶えない。やれ肩がぶつかっただの、やれ値段が高いだの。全ての事柄に対応している自警団は厄介ごとに辟易していた。そんな自警団にこんな陳情が舞い込む。


 何でも、ゴミ捨て場に鳥が集っている、というもの。


 ゴミ捨て場には生ゴミや粗大ゴミが混在する非常に汚らしい場所だ。唯一、平民や貴族が集まれる〈アンハルト通り〉の隠しても隠しきれない汚点でもある。

 分別などの文化があるはずも無く適当に放り込むだけだ。食肉を扱う店が肉の切れ端でも入れれば、人の雑踏の中でも動物達が漁りに来る。

 今回もそんな事だろうと思い、自警団は適当に様子を見に行かせて、あとは専門の掃除屋に頼むのだ。


 そんな貧乏クジを引いたのは、主に治安維持を担当しているグリム副団長旗下20名のうちの新人、ゼナンであった。先輩であるグルーゴを伴ってゴミ捨て場の調査に向かった。



 〈アンハルト通り〉の露店の裏手にあるゴミ捨て場の利用は、店側や客側などと制限していない。場所さえ知っていれば誰でも使用できるので非常に汚れやすい。専門の掃除屋が週に1回、回収と運搬をするだけであとは放置になっている。


 ゴミ捨て場に到着したゼナンとグルーゴは、まずゴミに集っている鳥を追い払った。次に、鳥たちが荒らしたゴミを適当に片付けていると奇妙なものが目に入った。


「おいこれ、なんだ・・・?」

「ちょっグルーゴ先輩これ、子供じゃないっすか?うわー・・・、なんかこういうの見るのキツいっすね・・・。」


 ゼナンとグルーゴが見つけたのは、ボロボロになっている子供のようなもの(・・・・・・・・)だった。ところどころ鳥に(ついば)まれた跡があり見るに耐えないものだった。


「確かに〈ヴォーガ〉っぽいちゃあそうなんすけど・・・。うわぁ・・・。」

「ゼナン、こんなん見るもんじゃねえぞ。さっさと掃除屋に頼んで片付けてもらおう。鳥だけじゃなく色んな動物も引き寄せちまうからな。」


 ゼナンは青い顔を引きつらせ他のゴミを片付けていたが、グルーゴは専門の掃除屋を呼びに行ってしまった。


 しばらくして専門の掃除屋と一緒に帰ってきたグルーゴは、ゼナンと共に粗悪なリアカーにゴミを積んでいく。子供のようなものは2人で恐る恐る持ち上げて、そっとリアカーに積んだ。

 専門の掃除屋に、時間外の迷惑料と特殊な品物のお詫びを渡してから、2人は先ほどのことを話しながら自警団に帰った。



 ゴミ捨て場から出発した〈ヴォーガ〉の掃除屋のブルックは、思わぬ収入に心を躍らせていた。


 いつもの回収タイミング以外に突然頼まれることは偶にある。その時は迷惑料として精々1食分儲かるだけだ。

 だが今日は3倍ほど違った。生ゴミ(・・・)があったからだ。


(あの若いのは耐性がねえようだったが、あんなのココじゃあ珍しくもねえ。まあいいか、今日は良い酒でも飲むぞ!)


 足取り軽やかにブルックが1時間ほど歩くと〈ヴォーガ〉の東端、一歩外に出れば平原が広がる場所に、粗雑に木の板で塞がれているゴミ溜め穴があった。一部の蓋を開けてリアカーの中身をボトボトと捨てる。

 中身を捨てた時に呻き声のようなものが聞こえたような気がしたが、気のせいだと思い、ブルックは意気揚々と引き返して行った。


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