油断と慢心
今回から()内で心の声を表現してます。
転生序盤のシーンはこのお話になります。
あれから5日は、アーチの隅と店の中にある肉を往復する生活だった。昨日の夜は肉の置いてある場所が変わっていて違和感を感じた。なので今日は昼にその店に様子を見に行く事にした。
1人で昼の〈アンハルト通り〉に入るのは初めてだ。しかもこんな人の多い場所なんて・・・。
アーチを抜けて、ゆっくりとその雑踏の中に混ざる。いつも同じ所にいる警備の自警団員がこちらを見た気がした。バッと振り返って見てみると顔を動かしていただけだった。
(何だよ、驚かせやがって・・・)
そう思って再度歩みを進め始める。
「おい!何してる!」
(やっぱりバレてたんだ!)
身を固くして声を上げた自警団員の方を振り返る。自警団員は全然俺とは違う方向に歩いていって、痴話喧嘩を止めに入っていった。
・・・今日はもうやめておこう。別に今日じゃなくてもいいし、今日はやめよう。俺はそう強引に納得させて引き返す。警備の自警団員の顔を見ないように俯いて歩く。アーチにつくとホッと息をついていつもの隅に座り込む。
夜までは暇なのでいつものように魔法の考察をする。魔法は危険な力だけど俺にとっては生きる価値と言ってもいい。これがなかったら俺はここにいないし生きられてもいない。手で弄ぶようにして魔力を作ったり消したりする。
熱を作る魔法だけはどうにか物にしたい。細かい毛や布を雷で焦がしてみても一瞬しか火種がつかない。なんとか出力を上げて火を点けようとしていると瞼が重くなってきた。
(う、あ・・・、急になんだ・・・眠気が・・・。)
俺は地面に倒れ込むように意識を失った。
◆
目を開けると真っ暗だった。もう夜か・・・。この一瞬で朦朧とする感覚は覚えがある、魔力切れだ。最近は聖魔法を掛けっぱなしだったし魔法の試し撃ちも多かったし限界を超えてしまったのだろう。起き上がって、〈アンハルト通り〉に歩み入る。
(夜になると当然誰もいないから落ち着くな。やはり俺は1人の方がいい。1人なら楽だ。)
成長したらいつかは〈ヴォーガ〉の外に出て、冒険者ってのもやってみたい。魔法も使えるし普通の一般人よりかは稼げるんじゃないかな。こんな底辺みたいな生活もしないで良いだろうし、クラスメイトとかにも会えるかもっ。
こっちじゃこんな幼児だけど、前世は高校生だったんだ。恋だってしてみたいな。
俺はまだ見ぬ未来に思いを馳せながら、〈アンハルト通り〉を横断し意気揚々と歩く。あの日見つけた店の裏手まで来て決意を新たにする。
「明日は逃げずに、昼間の〈アンハルト通り〉に行こう。大丈夫。俺には魔法がある。」
俺は胸の前でグッと手を握って前を向いた。
◆
いつもの日課でもある肉を削ぎに、店の裏にあるカモフラージュを外して中に入るといつもとは違って明るかった。
「見つけたぞ!ガキ!」
中に入ると、男が火を灯したロウソクをカウンターに置いて待ち構えていた。何故か俺はその男と目があった。すると男が近づいてきて、
「てめえがこの肉を食ってたのはわかってんだ!こんのガキィ!」
俺の頭を掴んで振り回されて床に叩きつけられた。腹から叩きつけられて肺の中の空気が全て出る。
(な、なんでこいつ俺が見えてんだっ。)
「こんなんで簡単に許されると思うなよ。俺の店の商品傷つけたんだからよぉ!オラッ!」
倒れている俺の背中に蹴りを入れる。何度も体中を蹴られ、踏みつけられる。その度に俺の中から何かが折れる音が聞こえる。
「・・・ぐぁっ!・・・ぐっ・・・。」
・・・どれくらい経ったろうか、10秒か、はたまた1分か。何だか意識が遠のいている気がする。
何度か俺を蹴ると男は足を振り上げ、俺の顔を思いっきり蹴って仰向けにする。体中に温かいものが流れ出ているのを感じる。
「店ん中でガキを殺しちまうのは流石にダメだわなあ。ゴミはゴミに相応しいとこに捨てておいてやるよ!」
「あァ・・・、ガハッ!」
俺の首を掴み上げて、男は店を出る。首を掴まれているので息があまりできなくて、小刻みに呼吸すると、うるせえ!と頭を殴られ黙らされる。
1分ほど歩いてゴミ捨て場のようなところに投げ捨てられる。最後にトドメとばかりに俺の背中を踏みつけ後に唾を吐き捨て、男は去っていった。
「うぇっ・・・ぐぅ、いてえ・・・。いてえよ・・・、くそっくそ・・・。」
体はもう十分に動かせない。息をする度に鋭く痛む。服は血が滲んでいて破れていない所なんてない程にボロボロだ。
(俺はこのまま死ぬんだろうか。家屋の裏で見つけた動物の死骸のように呆気なく無残な姿になってしまうんだろうか・・・。)
俺はゴミ捨て場に突っ伏して涙を流す。なんで俺がこんな目に・・・。
こんな事になるなら異世界なんて来なければ良かった。魔法が使えるからって浮かれてた。俺は食べ物を盗むしか出来ないただのガキなんだ。
俺は、こんな世界を憎む。こんな生まれを憎む。こんな世界を謳歌出来るのは、生まれが恵まれてるヤツだけだ。俺はこんなクソッタレな第二の人生を後悔した。
・・・ただもうそんな事はどうだっていい。俺は恵まれたヤツを踏みにじって見下して嗤ってやる。
その為には、どんな事をしてでも、足掻いてでも、このどん底から這い上がってやる。
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