初めての狩り
死骸を眺めてボーッとしているといつの間にか辺りが暗くなっていた。俺は細い足に力を入れて立つ。家と家の隙間から出て、アーチの方に行くともう警備もいなかった。
俺は誰もいなくなった通りへ足を踏み入れる。今この場所には俺だけしかいない。少し全能感を感じる。
腹が減った。ヨボヨボと動いてあたりを見回す。すると通りの反対側で動く物が見えた。
人間じゃない、動物だろうか。
近づいてみると、5cmほどの毛が生えたネズミみたいな動物がいた。
俺が近づいても姿が見えないので、鼻をヒクヒクさせて周囲を観察している。俺はもう体も拭いてないので臭いだろうとは思うが、動物は俺を捕捉出来ないでいる。魔法で隠蔽すると匂いまで覆う事が出来るのか。
俺は心の中が急激に冷える感覚を覚えた。音を立てないように慎重に動物を掴む。動物は突然動きを封じられたのだ、バタバタと抵抗して抜け出そうとする。せっかくの獲物だ、両手で力一杯押さえ込む。
「っくっそ!・・・ぐっ、大人しく、しろっ。」
雷魔法を電気ショックのように使おうとして動物に放出する。動物の頭から足の先までピンっと突っ張り動かなくなった。叩いてみても反応がない。地面に置いて一息つく。
・・・や、やった。初めて動物を仕留めた。
俺は地面に置いてある動物を再度掴もうとすると、ビクッと体を震わせて動物が立ち上がった。
「ひぃや!」
俺は情け無く怯えて尻餅をつく。動物はぎこちなく体を動かして俺から去っていった。
俺は初めての狩りに失敗をした徒労感で見送ることしかできなかった。
◆
尻餅をついて呆然とした後、俺は空腹である事を思い出した。捕まえられなかった事が余計に食事を意識してしまった。
このままだと眠れない。せめて水だけでも頂こうと近くの家を探る。
するとすぐそばの木造の建物に小さな隙間を見つけた。ちょうどあの動物が入れるような隙間だ。なぜここにあの動物がいたのか、食料があったからではないか。そう思ったら俺はもう盗みなんて気にしていなかった。
隙間に近づくと木箱や木の板で隠されているようだが、隙間には削ったような跡があった。先ほどの動物が歯か何かで削ったのを修理する事もなく放置しているような感じだ。
ならば俺が通れるくらいの穴にして塞いでおけば分からないのでは、という安直な考えが頭を支配する。
俺の体は細い。身長で言えば60cmくらい。頭は20cmくらいだろう。大体これくらいかと測って、雷魔法を指先に集中して固定する。指先から5cmほど伸ばして不定形のカッターのような感じだ。
建物の壁に押し当てると、初めは焦げるが段々と穴が空いていく。これを線を引くように動かしていく。ジジジッと微かに音が鳴り木が焦げた匂いがするが大したものではない。10分程かけて通れるくらいの穴をくり抜くことに成功した。
身を縮こませて中へ入ると、ここは店の裏口のようだった。カウンターがあって調理場がある。俺が開けた穴は棚の側にあって人目につきにくそうだ。
昨日のように余計な物音を立てて人が来るなどの失敗はしない。忍び足で周囲を見ていると俺の身長と同じくらいの樽があった。覗き込むと水が入っていたので慌てながらも手ですくって飲む。ザラつきはあったが前に飲んだ水とは桁違いに美味かった。
水を飲んで、顔を上げると大きな塊が目に入る。触ると柔らかい。手がべったりしたので匂いを嗅いでみる。・・・血だ!ならばこれは肉だ!
先ほどの雷魔法のカッターで底の部分を小さく削ぎ取る。生焼けだが気にしない。口に放り込んで咀嚼する。血が汁のように滲み出てきて、なかなか噛み切れないけど美味い。
2、3分は味わっていたが、そろそろ出ていかないと翌朝捕まってしまうだろう。名残惜しいが隙間を箱や板で入念に塞いでから建物を出た。
アーチのところまで戻って、口の中で噛み続けていた肉を飲み込む。本来は生肉など食べてはいけないのだが、俺には『毒耐性』がある。
今までもクソみたいな環境で生きてきたんだ、これくらい平気じゃなきゃ出来なくてどうすると考えながらアーチの隅の方で眠ったのだった。
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