久々のステータス
太陽が中天に差し掛かった頃、一旦、昨日と今日使った倉庫に戻っていた。ここからあの〈アンハルト通り〉に行く道は分からない。でも一つだけ辿れる道がある。川と〈アンハルト通り〉は、ほぼ垂直の関係になっているから、あの川辺の家が見つかれば戻れる。
この倉庫に来たときはここが右に見えた。ならば道を左に進んで川を見失わないように歩けばいつかは着くだろう。
30分程歩いていると見覚えのある場所に出た。ここはバーリー達と川辺の家を窺った路地だ。
こんなに近かったのか・・・。訳も分からず走り回ったから遠くに行っていた気がしていたけど、子供の足だ、そこまでじゃなかったのだろう。ここからならば夜には着くだろう。俺は少し急ぎながら昨日の道を引き返すのだった。
◆
もう日も暮れて夜も更けている。体感時間ならば20時くらいだろう。まだ着いていないが今日はこの辺で休息をとることにした。
聖魔法で光を流す方法は、夜でも有効なことが分かった。魔法をグラデーションのように切り替えるのは消費が激しいので、この発見はありがたかった。闇魔法の影はまた別の用途に使えるだろう。
〈ヴォーガ〉の狭い路地の端に座り込む。くそっ、腹が減った。今日はあの干した果物だけだから力が出ない。これからは食事自体する機会が減るだろう。1日に1回か、それ以下のこともあるはずだ。
今から、ガスティマ達に会いに行って謝れば許してくれるだろうか。前みたいにガスティマとバーリーと3人で暮らせるのだろうか。
いや、そんなことはもう出来ないって分かってる。あんな顔をされてしまった。あんな事をしてしまった。
魔法を使えること自体が彼らにとっては悪なんだ。遅かれ早かれこうなる運命だったんだ。俺は陰鬱な考えを巡らしながら意識を手放した。
起きたらもう日が昇っていた。腹は減っているけど歩けるくらいには元気だ。飢えが本格化する前に、〈アンハルト通り〉に到着しなければ。
それからは、休みながら歩いた。聖魔法のおかげで日光すらも直接当たらないようなので日陰を歩いている感覚だった。ただ今は暦の上では6月くらいになる。この国は温暖な気候なので気温が高い。日光が無くても汗は出続けるのだ。喉が渇いた。
一旦道の端に寄って水を手に入れる方法を考える。今まで見てきた水は3種類。虫の浮いた濁った水、黄色く濁った川の水、綺麗で透明な水だ。
濁った水は雨水だろうか、川の水は論外、透明な水は自警団に行ければ出所が分かりそうだが今は無理だ。
濁った水を調達しよう。これだけ家が密集しているんだ。少しくらい取るだけだ。煮沸さえすれば飲めるはずだ。
俺は家を見て回った。今は外が暑いから中に人の気配を感じられる家が多い。しばらく見て回ると家主がいない家を見つけた。
音を立てないように侵入し、水桶を探す。桶の中に入った水を見つけたが、入れ物がないことに今更気付いた。水を意識したからか急に喉の渇きが顕著になる。
あまり時間をかけても仕方ない。手ですくって雷魔法を使う。
雷は山火事の原因になるほどだから熱を持っていると考えたのだ。
しかし、ポコポコと泡が出ているが一向に熱くならない。泡が出る度に少しずつ量も減っている。最後には、細かい砂やゴミだけが手の中に残っていた。
くそっ、もう喉の渇きも限界だ。直接飲むしかないっ。
覚悟を決める。今は渇きを癒すことが最優先。意を決してそのまま飲んだ。口に入れた時のザラつきも変な味も気にしないようにした。
水を飲んだ後はすぐに家から出た。家主が戻ってくるかも知れないからだ。そこからまた俺は歩き出す。
やはり途中で腹が痛くなってきたが、数十秒我慢すると何とか治まった。『毒耐性』のおかげかも知れない。不健康かも知れないが体は丈夫で良かった。
すると人々の喧騒が聞こえてきた。もう少しだ。俺は音を求めるモグラのように、暗く陰鬱な路地から這い出るようにして足を早めるのだった。
〈アンハルト通り〉は相変わらず盛況な声が聞こえる。俺はアーチの柱に背中を寄りかからせて座り込む。
目指した目的地なのにこの中に入れないような気がするのだ。あの時3人で入った時は迎え入れられたかのように思えた喧騒が、今では俺を排除しているかのように聞こえる。
俺は顔を上げ、いつもここを警備しているのであろう自警団の団員を見る。帽子にはバッヂをつけて喧騒を見守る目線は、何かを探しているかのように見えていた。
この〈アンハルト通り〉の中に入るのは夜になってからじゃないと気が気じゃない。俺はアーチの柱の隅で座り込みながら目を閉じた。
◆
目を開けると夕方だった。オレンジ色の光が〈アンハルト通り〉を照らし、人はまばらになって話し声は聞こえるが静かだ。警備の自警団員はまだいるようだ。目は醒めたので少し移動する。やりたい事が出来たのだ。
人の気配のない家と家の隙間に入る。動物の死骸やゴミが散乱していたがもう気にならなくなっていた。やりたいことと言うのは熱を発生させる方法だ。
雷魔法を水に直接流す方法は使えなかった。ふと思い出す。あれはかつて授業でやった電気分解だろうか。
じゃああの泡は酸素か水素で、水が無くなったのは水分子が無くなったからか。充満させられる場所があったら爆弾になるような危険性があるな。気をつけないと。
熱でイメージできるのは、やはり火だ。近くにあった死骸に電気を流してみる。静電気程度の威力なら一瞬光るだけだから、魔力を50ほど注ぎ込んで一気に放出する。
バチィッ!と音が鳴る。意外にも音が鳴ったのには驚いたが周囲に変化はなくて安心した。
死骸を見ると、雷魔法を当てた部分だけ黒く焦げていた。強くすると焦げるだけなのか・・・。触るとほのかに温かみを感じるので熱自体は発生させる事が出来たか。なかなか簡単に上手くいかないな。
時間も余ったので、久々にステータスの確認をしてみよう。もうステータスははっきりと発音出来るようになった。
「ステータス。」
【名前】コーダ
【年齢】1
【レベル】1
【ジョブ】孤児
【魔法属性】雷 闇 聖
【体力】10/10
【魔力】117/200
【力】 10
【守り】10
【速さ】10
【運】 10
【スキル】『毒耐性』
名前がコーダになっているか。名付けは自分だし、変な感覚だ。
【ジョブ】が貧民から孤児になっている。それ以外は変わっていない。レベルはやっぱり敵を倒すことで上がるのだろうか、直感的にそう思う。
敵を倒すっていうことは魔物とか動物とかを殺さないといけないのだろうか。俺は先ほど焦がした動物の死骸を見てなんとも言えない切なさを感じた。
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