孤児生活
俺は泣いて泣いて、涙なんか枯れてしまっていたのに泣いていた。
ガスティマやバーリー達に、そして自分の父親に魔法をぶつけてしまった。あの人知を超えた能力を人に使ったことを、深く重く考えていた。
今となっては冷静に思う。あれはもっと慎重に使わないといけない。周りも危ないし、自分だって暴発する危険がある。感情のおもむくままに使ってはいけない力だ。
俺はあの場から逃げたあと、当てもなく彷徨っていた。まだ夜は明けないようだ。今のうちに体中を闇魔法で包み、隠蔽する。何かあってからでは遅い。俺はまだまだ非力な子供なのだから。
とりあえず今日の寝床を探さないといけない。
ここがどこだか分からないけど、屋根があるところじゃないと落ち着かない。闇魔法があるし見つからないだろうけど、隠れられる場所が必要だ。
ふらふらとしばらく歩いていると、右手に月明かりに照らされ倉庫のような家屋が見えた。倉庫の中に入って奥へと進むと、布を引ったくり地面に敷いて寝転がる。走ったり泣いたり魔法を使ったりと疲れていたのだろう。もうその後の記憶はない。
◆
夢を見た。部屋で家族3人でと一緒に団欒を過ごすそんな幸せなワンシーン。そんな光景を見て手を伸ばすも届かない、声を上げても聞こえないみたいだ。そんな光景を俺は・・・。
目を覚ますと暗い闇の中だった。目から涙が出ている。変な夢でも見たのかな。倉庫の入り口から見える外の光景は昼だった。
俺は闇魔法と聖魔法をうまく切り替えながら、暗闇から外へ出る。
この魔法も5秒くらいで展開出来るようになった。消費も半分くらいだ。
眩しいがすぐに目が慣れる。この倉庫の周辺にはあまり人気がないようだった。
周辺の情報を集めてみよう、俺はとりあえず人を探してみるのだった。
1時間は歩いただろうか、大きな川に辿り着いた。ここまで来るのにかなり迷っていたが、場所さえ分かれば10分ほどで来れる距離だ。
川には小舟が出ていて釣竿のようなものを垂らしている。川はやはり黄色く濁っている。あの川と同じ川だろう。
俺は漁船が出ているのならば家があるはずと周辺を探索する。すると、小舟を入れられるように出来た家屋を見つけた。舟屋というのだったっけ。
周りに人がいるけど、ゆっくりと忍び足で中に入る。
舟屋の中は床板がU字型に川の上に張られ、釣り道具や舟の修理に使うような木の板があった。だが俺は見つけていた。非常食なのか、木の箱の上に干した果物が5個あった。
俺はそれを見つけると周囲を確認して手を伸ばす。1個だけだからと思い、干した果物を取る。甘い、美味い。
もう我慢出来ないと、むさぼり食う。まだ足りないともう1つ、もう1つと食べ5つ全て食べてしまっていた。やってしまった・・・盗み食いじゃないか・・・。
そこへ物音に気付いたのだろう、男が声を上げて中に入ってきた。
「おい!誰かいるのか!」
「おいおいここには誰もいねえはずだぞ。ん?」
「うわっ。ここの干しヤヤが全部ねえ!やられた!」
俺はその男達を見て体を硬直させていた。動けばバレる。魔法の隠蔽では音まで消せない。目だけ動かして息を潜めて、木の箱の側で身を縮こませて固まってしまう。心臓の音が大音量で頭に響く。
「さっき音がしたんだ。遠くには行ってねえだろう。動物か何かはわかんねえが、ぜってえ捕まえてやる!」
「俺は中を調べるぜ。物陰に隠れてんのかもしんねえしな。」
「くっそーっ、全部盗りやがって。」
男3人の内、2人は外へ行って、1人はここに残って周りを探りだした。物をひっくり返したり袋を蹴ってみたりして近づいてくる。
ふと、男は俺の近くで立ち止まる。こちらに手を伸ばしてきた。バレたのでは、と思っても体は動かないままだ。目を見開いて男の手だけに集中する。
男は俺のそばの箱の蓋に手をかけ勢いよく持ち上げた。
「んだよ。ここだと思ったんだがなあ。」
男は蓋を閉めて離れていく。俺は緊張の糸が切れたのだろう、ふぅっと小さい息をついてしまった。
「誰だ!
・・・何もいねえ。気のせいか。」
危ないところだった。気付かれたと思った。緩んでいた気を再び引き締める。
その後、男が舟屋の外に出て行くまで俺は硬直しっぱなしだった。
◆
3分ほどしたら外に行っていた2人が帰ってきて、舟屋担当の男も合流して肩を落としながらどこかへ行った。
危なかった。もし見つかっていたら殴られ蹴られ、こんな幼い体じゃすぐに事切れてしまっていただろう。
とりあえず舟屋の外へ恐る恐る出て、すぐ動けるように建物の壁に寄りかかって考える。
今必要なものはただ一つ、食料だ。この〈ヴォーガ〉は、日本のように食材が溢れているわけでもない。俺みたいな子供が食料調達出来る訳もないし、料理なんて出来ない。
生きる為には盗むしかない。
人が多い場所は一つだけ心当たりがある。
俺はかつて一度だけ行った、〈ヴォーガ〉のメインストリートである〈アンハルト通り〉を目指すことにしたのだった。
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