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神山法佳の転生


 私は神山法佳。いつも明るいお姉ちゃんの聖佳の後ろでおずおずとしているだけだった。

 ネット小説とかも読んでいて、異世界転生なんて出来たら自分を変えられるのかな、なんて思うこともあった。



 修学旅行の帰りのバスが、事故で私達は死んでしまったらしいっていうのをベリルテスさんっていう神様に言われた。急に異世界転生だって言われても、お別れを言えなかった友達を思って泣いてしまう。小説の中の人達は平気そうだったけど、実際に体験するとすごく気分も沈んでしまう。

 

 ベリルテスさんは、私達にどうやって生まれるかを選んでもらうって言ってきた。王族から孤児まで、範囲は広いけどどれも大変そう。小説では王族とかに転生したら、政略結婚とかあるし。身分が低いと暮らすのが辛そう。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか私と愛子ちゃんと幸田君だけになっていた。あたふたしていると愛子ちゃんが耳打ちしてきた。


「法佳、どっちにしたい?平民と貴族。」

「わ、私は普通の平民、がいいかな?」


 私は質問の意図が分からなかったけど考えていた方を伝える。

 愛子ちゃんが大きな声で、男爵家にするって言ったら、幸田君に目配せをしていた。

 まさか・・・、私、幸田君に辛い選択をさせようとしてるんじゃと思っていると、


「あー、じゃあ俺が孤児選ぶよ。法佳さんは平民になってくれればいいから。」


 私は申し訳ない気持ちになって、幸田君にぎこちない笑顔を向けることしかできなかった。



 最初、転生した後は周りが何も見えず、どうなったか分からなかったけど3か月くらいで見えるようになってきた。

 部屋はワンルームみたいに小さいけど装飾は煌びやか。全体は白い石で作ってある。でもところどころ金色の装飾が付いているし、家具なんかはホコリひとつ付いてない。窓ガラスもあってベッドもフカフカだし、私は平民を選んだと思うんだけど。


 日中は私が寝るまで、3時間おきに修道服の女性が様子を見にくる。顔を向けてみると真面目な顔が少し破顔していた。忙しい合間の癒しにでもなっていたら赤ちゃん冥利に尽きるなぁ。



 1才ともなると声を出せるようになったので、いつも様子を見に来ていたシスターの名前──シエラと呼ばれていた──を呼んでみた。

 シエラさんは慌てて外に出て行ってしまった。何が起きたんだろうと思っていたら、シエラさんがすごい綺麗な女性を連れて帰ってきた。


 その綺麗な女性は自分の胸に手を当てて、私に向かってグローリアと言った。自己紹介かと思ったので、その言葉を繰り返してみた。

 グローリアさんは驚いたものの私を抱き上げて頬擦りしてくる。いい匂いがする。そっと私をベッドに下ろして笑顔を向けて部屋から出て行った。良い人だったなぁ。


 それから1週間くらいは部屋の外が忙しい音が聞こえていて、シエラさんも部屋に来る回数も減っていた。私はそんな音を聞きながら、ネット小説の王道、魔力を感じてみる事にする。転生した後は魔力を使えることが鍵だっていうことは知ってる。

 魔力は体内を構成している力らしい。魔力魔力と念じて体を探ってみると、あった!何が動かせる感覚がある!

 ぐるぐると動かして、試しに指先から出すように意識する。


 ぽんっと自分の爪ほどの光が出た。出た!と喜んで嬉しくなって声を出した。周りから見たらきゃっきゃと楽しい声をあげていただろう。



 その翌日、グローリアさんが私を抱き上げて侍女を引き連れて部屋から出してくれた。グローリアさんは私を大事そうに扱ってくれて、私は良い匂いと初めて外に出たので浮かれていた。


 やがて、グローリアさんは3mほどもある大きな扉の前に立っていた。侍女がゆっくりと扉を開けると、大きな大きな大聖堂だった。

 大聖堂は外からの光差すステンドグラスで彩られ、白くそびえ立つ柱は幅が2、3mほどで装飾も華美だ。正面奥の方にはこれまた大きな女神像がある。

 私を抱えたグローリアさんは真っ直ぐ伸びる金の刺繍が施された赤い絨毯の上を歩く。絨毯の左右には修道服の大人達が、手を胸の前で組んで頭を下げて、私たちを見ないようにしている。私ってただの平民に転生したんだよねっ!?



 グローリアさんは絨毯を進み、そのまま階段を上がって、正面にある女神像の前にいるお爺さんに私を抱え上げた。

 

「アノルサクロ教会が教皇、アウレリス・デル・イ・アノルサクロ様。

 (わたくし)、アノルサクロ教会が枢機卿、グローリア・カルヴェールでございます。

 本日は、我が娘に洗礼、並びに洗礼名を頂戴したく存じます。」


 グローリアさんがそう言うと目の前のお爺さんが、何か呪文のような言葉を唱える。すると私が淡い光に包まれていく。不安になったけど温かいように感じて次第に落ち着いた。


「我らが奉じる神、ベリルテス様の洗礼によりカルヴェール枢機卿の娘をお決め頂いた。

 その娘は今日(こんにち)から、フォミテリア・カルヴェールと名乗るがよい。」


 ・・・私は大変なところへ転生してしまったようだ。確かに、王族でも貴族でもない平民。でもこれは特権階級で枢機卿って言ったら、教皇の次に偉いんだっけ・・・。



 私は後で知る事になるのだけど、このアノルサクロ教は、エルランドに広く深く分布する、一大宗教だ。

 グローリアさんはアノルサクロ教の上層部、3人いる枢機卿の1人である。神山法佳はカルヴェール枢機卿の一人娘に転生してしまったのだった。


もし気に入っていただけましたら、感想・評価・ブクマよろしくお願いします!


次回から三章に突入します。

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