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孤児になった日


 ガスティマを襲おうとしていた男に雷魔法を浴びせたあと、俺は歓喜していた。ガスティマを守れたことと魔法を遠距離で使えたことにだ。俺は得意気な顔で周囲を見ると、一様に目を見開き、驚きや怯えた表情を見せていた。

 ガスティマに目を向けても驚いたような顔だがどこか信じられないというようにも見えた。雷魔法を当てた男は倒れていて動かない。少し焦げたような匂いをさせていた。まさか・・・と思っていると、


「おいコーダお前なにやったんだ・・・今のって。」


 そうガスティマが話始めると、倒れた男に駆け寄る人が見えた。男を揺さぶって声をかけた後、俺の方をキッと睨む。あの顔は・・・。


「ちょっと!大丈夫なの!?

 そこのガキ!何やったん・・・、あんたのその目・・・、あの時逃げたガキだね!?あんた自分の父親をよくも!」


 エコーだった。じゃああの揺すられているのは・・・。


「あんたが逃げた後、あたし達がどれだけ大変だったか・・・!

 こんなガキなら産まなきゃよかったよ!この親殺し!」


 ・・・俺はそこで初めて人を殺してしまったのだと理解した。それも自分の父親。

 意識が混濁する。考えたくても頭が動かない。ショックで涙腺が緩む。


「うああ、ぅぐっ・・・ぇぐっ。ぼくは・・・ただ・・・たすけようと・・・」

「あんな光をぶつけといて・・・。殺す気が無かったって言うのかい!?あんたは悪魔だよ!」


 もう涙は止まらない。いつも助けてくれらバーリーならと思って、そばにいてくれるバーリーに顔を向ける。

 バーリーは眉間にシワを寄せて悲しい顔をしている。ぐっと口を噛み締めして俯いて、ごめんっと謝った。


 そんなバーリーを見ていられなくてガスティマを見る。ガスティマも同じような悲しい顔をして、重く口を開く。


「コーダ、今のは・・・魔法だ。魔法はこの〈ヴォーガ〉ではダメだ。やっちゃいけねえんだ。」

 

 ガスティマは俺にそう諭すように言うのだった。




 このスラム〈ヴォーガ〉はネルケルト王国では最下層にあたる。

 日々の生活には苦しみ、住居さえ持たない者がいる。それはこの国ではここだけだ。


 この国は、王が土地を治め、貴族が周辺の領地を管理し、平民が働き支えるように成り立っている。逆から見れば、平民は貴族に税を納め、貴族は王に忠誠を誓う。大まかな仕組みとしてはどこも同じだろう。

 スラムに住む者というのは、税も納めず不法に土地を占拠している者でしかない。だから最下層なのだ。


 こうしたスラムの人間達は平民や貴族に忌避感を抱いている。恐怖感を持っている者さえ珍しくないだろう。

 

 更に平民にとっても、目の上のたんこぶのような存在に貴族がいる。貴族は傲慢で選民思想というのが常識だ。何故なら彼ら貴族は、魔法(・・)を持っているからだ。


 魔法は7属性あり、その根源である魔力も千差万別である。だから貴族は確かめずにいられない。自分の能力、魔法の威力を。


 貴族達は、平民やスラムの人間達を使って自分の能力を確かめる。特にスラムに住み着く人間は掃いて捨てるほどいるのだ。練習台として死んでいった者達など数えられない。

 貴族達は、王族や貴族以外を大いに見下す。魔力を持たない者を嘲笑するのだ。



 だから平民やスラムの人間達にとって、魔法は迫害の象徴なのだ。

 それは平民として育った者、スラムで生きてきた者、例外なく公平に正しく持つ価値観であった。




 俺はガスティマからの言葉を理解できない。だがこれだけは分かる、ガスティマは俺の行いに微塵も感謝の気持ちを持ってない。むしろ何か面倒ごとを抱えたような顔だ。

 ガスティマは、言葉を続ける。


「この〈ヴォーガ〉じゃ、やっちゃいけねえんだ。何故なら魔法を嫌っているヤツしかいねえからだ。〈ヴォーガ〉にとって魔法は恐怖でしかねえんだ。」


 俺は涙が出てくるのなんて気にせず問い掛ける。


「ぅう・・・、がすてぃは・・・ぼくのこともきらい、なの?」

「・・・。」


 ガスティマは俺の問い掛けに答えなかった。そうか、そういうことなんだ。バーリーが目を逸らしたのも、ガスティマが答えないのも全部・・・。


「みんなっぼぐのことが・・・ぎらいなんだぁ!」


 涙が止めどなく溢れる。


「かぞぐだとおもっでだ・・・、なんでもっ、はなぜるとおぼってたっ!このちからのっ、ごどだってぇ・・・。」


 言葉も上手く話せない。


「コーダ!嫌いなんかじゃねえ!」

「うるさいっ!うるさいうるさい!みんなっぼぐのことが、こわいんだぁ!」


 俺はもう何も見たくなくて魔力を放出した。太陽のように眩しい5mほどの大きな光の球が俺の目の前に浮かび、夜の〈ヴォーガ〉を照らす。


「みんなっ・・・いなくなっちゃえばいいんだああ!」


 意識して大きな光の球を地面に叩きつけた。

 魔力が衝撃で周囲を放射状に吹き飛ばす。側にいたバーリーも、周りにいた自警団員も、ガスティマも、エコーも全て。

 俺は後ろを振り返って逃げた。ガスティマやバーリーの顔が見たくなかったからだ。


 あの時と同じ月明かりを受けて。


次回はクラスメイトの転生を2話挟んで、三章になります。


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