俺だけの力
俺はフオム。〈ヴォーガ〉で川の渡しをやっていたが、南端の方行った時に、珍しい髪色や目の色を欲しているイカれたやつに声をかけられた日から俺の人生は変わった。
スラムなんてトコは、行く当ての無くなった野郎なんてゴロゴロいる。そいつらがいなくなったくらいで気にする奴はいない。
適当なヤツを見繕っていると、いつしか死体を集めてる変わり者なんていう噂が立っていた。
噂なんてものは気にする方がアホだ。俺はそれを利用する。
見た目が珍しい死体は高く引き取ると言ってみるとどうだ。スラムのクズ共がこぞってやってくる。奇形のガキだとか変な病気したやつなんか可愛い方だ。死体の目をくり抜いて染色してやがるなんてモンもあった。だが川向こうの奴らはそんなもん関係なしに買い取ってくれたんでありがたい事だ。
ある日、男が死体を売りに来たが家がないという。俺の家はけっこうスペースが余っていたし死体の仕分けに人が必要だったから住み込みで良いなら貸してやるってことで了承したんだ。
半年くらい経った頃か、いつものように川向こうに行くと血相変えて俺に詰め寄ってきやがった。
なんでも、俺の家にいるガキが欲しいのだと言う事だ。だが今は場所が無いんで3か月後に頼むと言って急いで帰っていく。どれだけ楽しみにしていやがんだ。
3か月後、俺は子供の父親に子殺しを頼む。この男は金を多めにやると言ったら喜んでやると引き受けた。こんなクズを父親に持つあのガキに同情するぜ。
あの男しくじりやがった!あんなガキに騙くらかされて川に飛び込んで、そこら中かぶれて馬鹿みてえだ。川向こうの奴にも説明しなきゃなんねえし面倒増やしやがって。あのガキの父親じゃなけりゃ助けなかったな。
なぜだか最近誰かに見られている気がするが知らねえ。あのガキさえ手に入れられればいい。
◆
俺がガスティマとバーリーに懇願して自警団の作戦に同行するために、夕方自警団本部に集まった。
俺のことを知らない人にも分かるようにガスティマが説明してくれた。俺1人でいるわけじゃなくバーリーを子守にさせているので、他の団員は気にしてくれなくていいっという感じだった。
俺は迷惑をかけるかも知れないので挨拶だけはしっかりしておいた。
その後は何事もなく、夜に例の家の近くの路地まで来ていた。俺は意外と見たことある景色もあったし、自警団の事件と俺の出来事が重なっていることに改めて驚いていた。
バーリーの腕の中で、そんな反応をしていたので話しかけてきた。
「やっぱりこの辺りの記憶あるんだね。けっこう小さかったと思うんだけど覚えているものなんだね。」
「うん。ぼくきおくりょくいいからね。」
バーリーが俺にそんなことを言ってきた。確かにあの時は生後3か月。普通なら意識がある方がおかしい。転生なんて突拍子もないこと信じてもらえるか分からないし、誤魔化した。
その時、あの家を窺っていた人が手を挙げた。
「よし、外に誰もいねえみてえだ。やる事を確認するぞ。
最優先はフオムの確保。次に死体の押収だ。フオム以外にも関係者がいるようなら逃すな。以上。突入!」
自警団の団員達がガスティマの号令であの家に極力音を立てずに忍び込む。10人は家の中へ入り、残りの8人は家の周辺に待機した。俺はバーリーの腕から降りて、他の団員と共に入り口あたりでその様子を見ていた。
バタバタと音が聞こえてきた。しばらくして音は止んだ。月明かりしかない状況では、潜んでいる団員に気付かなかったのだろう。
ガスティマ達が出てきて、1人の男を捕まえていた。暴れているようだが団員はびくともしていない。
あっさりと終わってしまったので、みんな肩の力をを抜いて一息ついた。ガスティマは他の関係者がいないか捜索と指示をしている。指示を終えたら、入り口前にいる俺達の方へ1人で歩いてきた。
そんな時、入り口の脇ににあった倉庫から男が飛び出してきた。ガスティマへ一直線に走っているが、ガスティマは気付いていない。何かキラリと反射するものを持っている。刃物だ!
ガスティマまでは5mほど。周りに誰もいない。この距離だ、刃物を持つ男は雄叫びを上げて近づいている。その声にガスティマは気付くが対応出来ない。
ガスティマには今までずっと守ってきてもらっていた。俺はただの子供じゃない。育ててくれることが当たり前で、守ってくれるのが当然だなんて思わない。恩は返すべきだ。
俺は魔力を意識する。遠くへ飛ばしたことなんてないけど、あの男へ当てるように集中する。使うのは雷魔法。いつもみたいな静電気のような小さな魔法じゃなくて、文字通り雷をイメージする。
空から地面に落ちる雷を、俺からあの男に落とす。いける!ガスティマを助けるんだ!
俺は声を上げて魔力を放出した。
「うああああああ!」
鋭い光とともに大きな音が鳴った。
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