出発前夜
ガスティマ達と外出した日から、更に2週間が経った。いつものようにガスティマは時折帰ってくるだけだが、バーリーも駆り出される事もあり、家に1人でいることも多かった。
当然、1人でいる時は暇なので魔法の練習をしている。以前に思い付いていた、日中に姿を隠せる聖魔法を実現したかったからだ。
暗闇には周りの暗さもあるので、影をまとえば認識出来なくなる。昼の明るさでは光を出すだけでは悪目立ちするだけになる。
光を出すのではなく光を吸うのではどうかというのも試した。
しかしこれではダメだった。光を吸うと真っ黒に見えてしまったのだ。ただそこにあるだけなのに深さを感じてしまうような黒。光を操作出来る魔法で闇を作り出せたことに驚いてしまった。
こんなのが足元に出たら穴かと思ってびっくりして立ち止まってしまいそうだ。
光を操作出来るのであればあとは、流す。水流のように流せば自分の後ろの景色を相手に見てもらえるんじゃないかと思う。
自分の手の周りに光が流れるイメージをする。水や風が自分に当たって、自分を避けるように動くようにイメージする。
ジワジワと透けるように見えてきた。実際は後ろの景色を写しているだけだ。10秒ほどで完全に見えなくなった。成功だ!
魔力を止めてステータスを確認すると20消費していた。少し時間をかけ過ぎたかも知れない。熟練すれば数秒で済むし魔力消費も抑えられそうだ。
これなら魔力さえあれば目立つ事はなさそうだ。最近では消費魔力も少なくなってきた。それ以外にも魔法を練習しよう。
◆
その頃自警団本部では佳境を迎えていた。コーダの言う川沿いの家が見つかったのだ。自警団の情報収集担当のルシエール副団長率いるチームが掴んだ情報だ。
それは、死体を集めて南端へ売る闇商人がいると言うもの。その近辺では変わり者とされているが、実態は南端との窓口役で川を舟で渡って死体を売り捌いている。名前はフオム。
ガスティマは、2日後に決着をつけると団員に告げる。参加チームは、フオムを見つけたルシエール、荒事担当のアーケイル、斥候の出来るジルフィの3チームとガスティマだ。
半数以上は本部に残し一時的に指揮はモンテルロが取ることになった。
出発は夕方で到着は夜。絶対に逃がさないためにも、明日は力の温存をして当日に向けて準備を進める一同だった。
◆
魔法の練習をしていると、玄関から音がしたので慌てて引っ込め寝床入って寝たフリをする。今起きましたと言わんばかりに目を擦りながら確認してみると、珍しくガスティマとバーリーが一緒に帰ってきた。
2人の表情は緊張していて無愛想だ。何かあったかな。
「がすてぃ、ばありい。おかえり。なにかあったの?」
俺の一言に驚いたような2人。けっこう分かりやすい態度をしていたけど気付いてなかったのかな。そんな俺の言葉にバーリーが返答する。
「た、ただいま、コーダ君。実は、コーダ君が前に言ってた川沿いの家が見つかったんだ。
あさっての夕方から自警団のみんなで行こうっていう話があってね。」
自警団はあの家を見つけたらしい。まだあの家にはエコー達がいるのだろうか。そんなことを考えていると、
「でも僕はここに居るからコーダ君を1人にするわけじゃないから、安心して!
また次の日には、団長やモンテルロ副団長達とファーナに行こうって思ってるんだ。だから・・・一緒にいようね!」
バーリーは俺に念押しするように一緒にいようと言ってくる。
「うん、分かった。バーリーと一緒にいるよ。」
俺はバーリーの言葉に答えながらある思いが自分の中で大きくなるのを感じていた。
◆
翌朝は久しぶりに3人で食事をとった。バーリーと俺が話して、ガスティマが豪快に笑う。幸せな家族みたいな一幕。ガスティマはいつもと変わらないけど、バーリーはどこかぎこちない。そんな時間が過ぎていく。
夕方になって、3人で食事をとっている時、俺の思いを打ち明けることにした。
「がすてぃ、ぼくもあしたいきたい。」
それだけだった。一目でもいいからエコーとダコタの姿を見たかった。そんな俺の言葉に2人ともうなだれた。
「あぁー・・・。やっぱりか。」
「やっぱり行きたいんだね、コーダ君・・・。」
まるで2人とも俺が行くというのを分かっていたような口振りだった。
「おかあさんとおとうさん、あしたじゃないと、もうみれないきがするんだ。だからつれていってほしい。」
多分明日に自警団が行けば捕まるだけだろう。何をしたか分からないけど、自警団だって悪いヤツじゃない人達をどうにかしないだろうから。
そんな俺の言葉を聞いてガスティマは、逡巡しながらも答えた。
「コーダがそう言うだろうってのは、昨日の時点でバーリーと話してたんだよ。コーダもああいうことがあったからって、会いたいって思ってるはずだってな。」
「僕は、コーダ君が危険なところに行って欲しくないって思ってる。行きたいって言われても止めようって思ってるよ。」
バーリーが、俺に詰め寄って諭すように言ってくる。でも俺は・・・。
「でもぼくは、いきたいんだ。
こわいかもしれないし、きけんかもしれない。
でも、ばありいがいっしょにいてくれるんでしょ?ならだいじょうぶだよ!」
すると、バーリーは両手で俺の手を強く握ってきた。
「うん!まかせてよ。頼りないかも知れないけどコーダ君を守るよ。」
バーリーは笑顔でそう言った。俺だってバーリーもガスティマも守るんだ。そのための力はある。
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