事故
本日2話目です!よろしくお願いします!
俺たちは今、バスに揺られている。
あの博物館で展示物を見たあと一様に疲れた表情をしており、大型バスが発進するや否や居眠りしている生徒や教師が多く見られた。
生徒会副会長でリーダーシップ抜群の新田勇吾や、学校のアイドル的な双子、神山聖佳と神山法佳も今日は大人しいようだ。
時刻は16時を過ぎた頃、今日はもう帰るだけだという安堵感から眠気が誘発されているのだろうと感じてしまう。実際に俺も、横に座っている友沢も同じように眠たいからだ。すると、隣の席から話題が飛んでくる。
「最後にあんな衝撃持ってくるとかセンセー達も趣味がわりーぜ。話に聞く修学旅行ってのはもっと楽しいって話だったんだけどなー。」
俺は確かにそうだと相槌を打った。聞くところによれば、去年はあの博物館には行ってないって噂を聞いたと思い出し友沢に返答をする。
「そういえば、今年だけらしいよあの博物館行ったの。去年まではテーマパーク行ってたって。」
「なにーっ!恨むぜセンセー。まーでもいつでも行けるとこより貴重な体験出来たってか?そういうことで納得してやるぜ。」
「ふふっ。確かにあんなのはもう見たくもないよね。」
友沢の軽口を聞いて少し笑ってしまう。貴重な体験なのは確かだった。自分が積極的に知ろうともしない限りああいうのは見れないだろう。そう思いつつ周りも静かということもあり、眠気の方が勝ってきてあまり思考が出来なくなってしまう。
「あー友沢。俺ちょっと眠い・・・。続きはまた帰ってからにしよう。」
友沢も眠かったのかすぐ了承し、そのまま寝入ってしまう。
俺は眠る直前に今日の博物館での衝撃を思い出す。あの奇妙な笑顔の老人。今も頭に焼き付いて離れない。友沢も分からないと言っていたし見間違いだったのだろうと納得させる。
さて、寝ようと思い目を閉じるとすぐに意識を手放した。そこで俺は気づくべきだったのだ。このバスが静かすぎたこと。
まるで乗員乗客全てが眠っているような静かさに。
◆
空は夕焼けから夜の暗闇に移り変わろうとしている頃、走っている大型バスを見る1人の老人がいる。顔に深くシワが刻まれ、口の端は裂けんばかりに吊り上げられ、赤く光る目がほのかにしかし爛々と光っている。老人は空に浮かびながら、見通しの良い道路を走っている大型バスに手をかざす。
まるで魔法でも使っているかのように淡い青の光が車両を包む。途端にバスはフラフラと蛇行をし始め、スピードを出したまま反対車線に侵入してしまう。タイミング悪くトレーラーが走ってきて侵入してきた大型バスの横っ腹に突き刺さる。
大きな音が鳴った。どこからどう見ても大惨事は免れない大事故だ。
すぐに大きな音を聞きつけて野次馬も増え、救急車や消防車や警察車両も駆けつけてきた。報道車や報道ヘリまで出動し、一部始終を撮影し続けた。
奇跡的にトレーラーの運転手は助け出されるも、燃料が漏れていたのか大型バスとトレーラーは炎上してしまう始末。バスに乗っていたものたちは助け出される事はなかった。全て死んでしまったのだった。
バスの近くに寄った老人は大きく口を開け体の全ての空気を吐き出すような高笑いをした後、淡い青の光とともに霞のように消えてしまったのだった。
◆
この事故は多くのメディアに取り沙汰され日本中を飛び回った。関係者が頭を下げ、保護者が涙の会見をする。警察は総力を上げさまざまな検証を行い、事故発生時の証言を集める。
原因は居眠り運転とされたものの、当時の証言を集めると奇妙な共通点が浮上した。それは男の高笑いが聞こえたというのだ。それもしゃがれた老人のような。
報道映像にもノイズとして混ざっており、バスが事故の博物館に立ち寄っていたことも分かり、オカルト寄りの様々な憶測が飛び交った。
ただ、あの老人の高笑いだけを大きな謎としながら、人々からは忘れられていくのだった。
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