魔法の練習
ガスティマ達に、両親から逃げてきた理由を話した日から2週間ほどが経った。俺はバーリーと一緒に部屋で生活している。バーリーは別の家に住んでいるらしく、夜に俺が眠ったあと帰っているらしい。
ガスティマは時折、家に帰ってきており、俺に服を買ってきてくれることもあった。帰ってきた時は一緒に食事をしている。
ガスティマ達の食べているものは野菜中心だが、肉料理もある。主食はパンで、硬いようで細かくちぎってスープに浸して食べている。
俺はいつもと変わらず豆を潰した離乳食だ。バーリーのオリジナルなのか刻み野菜が入っていて栄養がありそうだ。
仕方のないことだけど、かなり物足りない。お腹はいっぱいになるが、味の濃いものが恋しくなる。
そんなことを考えていたからか、ガスティマ達にじっと視線を向けていたようだ。
「コーダにゃ、まーだこういうのははええぜ。あと2、3年もすりゃあ食えるかもなぁーっと。・・・おっとっ!」
俺の口に肉を近づけてきたので身を乗り出すと、ひょいっと戻される。ガスティマはしてやったりと豪快に笑う。なんともお馴染みの手に引っかかってしまった、とむすっとしてしまった。そんな姿にバーリーも笑いをこぼしていた。
そんなこんなで日々を過ごしていたので、俺の体も健康そのものだ。ガリガリ状態から普通の幼児くらいにまで成長していた。
子供の成長は早いんだなぁと他人事のように思うのだった。
◆
日中はいつもバーリーと世間話をしている。俺は話す練習にもなると積極的に話している。バーリーは自警団に入ってもう2年になり17才だという。前世の俺と同い年と思えないほど立派な人だ。
そんな話をしている時に、この世界の暦が判明した。
1週間は、前世と同じ7日のようだ。ただ曜日が違っていて、火・水・風・雷・土・闇・聖となっている。
1か月は35日、5週間あるということだ。それが10か月あるので、1年は350日になる。
今は、5月10日のようなので、5月の2週目の風曜日となる。
1年の感覚は前世とはそこまで変わらないようだ。
〈ヴォーガ〉の気候は、7月から9月に雨季があり、1、2、3月と9、10月が涼しく、4、5、6、7、8月が少し汗ばむくらいの暑さで、過ごしやすい環境だ。
こういう環境だからこそ、〈ヴォーガ〉に人が集まるのだろう。
◆
夜になると、バーリーと食事をして、体を水で拭いてから寝床に入る。俺だけになるので小さい暖炉の火は消してある。
バーリーにお休みと言うと笑顔になって自分の家に帰っていった。周りの音がしないことを確認するとノソノソと起き出し、俺はあることを試す。あの家から逃げて以来、使っていなかった魔法だ。雷は電気、闇は影、では聖は何だろうとずっと思っていたのだ。
言葉のイメージからだと、光とか神聖な感じがする。
手をかざして魔力を意識して放出するように力を込める。するとやはり、1cmくらいのペンライトのような光が生まれた。光量が悲しくなるほど弱々しい。光を消して、ステータスを確認する。
【魔力】190/200
前回の検証と同じく、10減っている。とすると、魔力を込めれば込めるだけ規模が大きくなるということかと、先程より力を込めてを一気に放出する。
カッ!と部屋中が見渡せるほどの大きく眩しい光が現れる。やり過ぎたと思って慌てて消してステータスを確認すると意外すぎる結果が表示される。
【魔力】140/200
50しか減ってない!?大きさだけで見たら10消費の100倍はあったはずだ。何だか面白くなってきて、次は10cmくらいで先ほどの光量の塊を生み出せるか試してみる。
ぐっと力を込めるが、さっきより丁寧に、紙粘土で団子をこねるみたいに形を意識する。小さい光から段々と成長していき10cmくらいで止める。光量は魔力をどれだけ注ぐかだ。更に力を放出して光を強くしていく。
やり始めて20秒ほど経ったころ、こんなものかと、一息ついて満足する。ステータスを見てみよう。
【魔力】80/200
今回は70減っている。いい加減眩しいので光を消してから、理由を考えてみる。
一番魔力消費が多かったのは、時間をかけた場合だ。光量の差はほぼなかったし、時間で消費量が変わるのは確定だろう。形にこだわる事も関わっているかもしれない。
精密な制御をすれば消費量は多く、その逆は速さと消費量の少なさは魅力だが爆発的に発動してしまう感じがする。
まだまだ物足りなかったので色々試していると、魔力が10を下回ったくらいで、眠気が襲ってきた。魔力が切れたのかな。
なるほどこういうデメリットもあるんだと、思いながら俺は意識を手放した。
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