エピローグ
あれから5年の月日が経ち、ついに正式に貴族の称号を得る事となった。
ここは、謁見の間。長い時間をかけたが、元の豪奢な部屋に復旧された室内で、玉座に座る青年の前に歩みを進める。
18歳を数えるようになった精悍な顔つきのルイスの前にひざまずいて、男爵への陞爵のため言葉をもらうのだ。
まず、口を開いたのはルイスで、少し低くなった声で俺に言葉をかけてくれた。
「コーダ・ヴァルヴィーナ。ここに貴殿を正式に貴族として認めよう。更に長きに渡り私の護衛をして励んだ褒美として、我が国と友好を深めている聖国から婚約者を娶ってもらう。
そして貴殿の治める領地は、長らく国有地となっていたヴォーガ地区を与える。大変な統治となるだろうが、貴殿なら出来ると信じている。以上だ。」
ルイスがそう区切れば、次は俺から謝辞を述べる。
今までずっと俺を世話してくれていたルイスに感謝を示すにはここしかない。
「はっ。必ずその期待に応えられるよう一段と努力を致します。陛下におかれましても私を慈悲深く傍においてくださり誠にありがとうございました。」
ルイスの両手首につけられた黒い火傷痕を目の端におさめながら、一息つく。あの火傷痕は、ルイスにとって手枷なのだという。
一瞬でもシータイトに殺意を持ってしまった自分への戒めなのだと。
俺はシータイトを殺した罪がある。それに蓋をしてまでも、俺に期待してくれているのだから否が応でも結果を出さなければいけない。
これは強制ではなく、俺の心からの恩返しでもあるのだから。
そんな義理深い新王から、ついに俺は旅立ちを迎えるのだ。
「必ずや、我が故郷を立派にしましょう。いつか陛下をご招待出来るように復興させてみせます。
ルイス国王陛下に一層の忠誠と服従を誓います。」
「・・・ああ、頑張れよ、コーダ。」
最後は、いつものように砕けた口調で返答してくれた。俺はその言葉に笑顔でもって頷いてみせたのだった。
◆
謁見の間を出て知己のいる控室へと戻る道中、腰に手を当てこちらを待ち構えている者がいた。
それは、自領の騎士団長までに上り詰めたアイーシャだった。
「ふぅん、ついこの間まではナヨナヨしていたけどもう心配する事はないのかしら?」
「ああ、悪かったな。あの時は色々と情緒不安定だったんだ。悪かったな、首。」
自分で首に手を添えてみせて、あの時の非礼を詫びる。そう言うと、待ってましたと言わんばかりに何故か笑顔になっていく。
「謝るの遅すぎ。でもいいわ、あんたの領地ってうちと近いんでしょ?あの子を満足させられているか、この私が監視してあげるわ。嫌とは言わせないわよ?せいぜい努力しなさい。
でもまあ、おめでとう。それと待たせているんでしょ?早く行きなさい。」
「お手柔らかに頼むよ。ありがとう、アイーシャ。」
手をヒラヒラさせてすれ違っていく彼女に、礼をしてから先を急ぐ事にした。
更に部屋に向かって歩いていると、先の方から3人の人影が見える。どうやらこちらを見つけて歩いて来てくれるようだ。
セレスティアル、ユーゴー、ユージェステルとクラスメイトが揃い踏みだった。
「おー、ついにお前に先越されちまったな。」
「ありがとう。これからもよろしくね、ジェスティ、ユーゴー。」
この2人にはよく世話になっている。ルイスの性格が丸くなったのも法佳との仲が深まったのも、この2人のおかげだ。
でもシータイトとマリウスという2人の転生者を手にかけた俺にとっては過ぎた存在である事は確かだ。
彼らはシータイトの仇を討つのに躍起になっていると聞いた。やはりこの事は墓場まで持っていく秘密にしておかないと。
(ずるいね、君は。コイツらは一生捕まえられない悪漢を追い続けることになるのに、君だけは優しさを享受出来るなんてね。こんな話があるかい?)
(でも聖女様は理解してくれたよ?仕方なかったんだって。)
(あの女はお前らに甘すぎるだけだろ。それにシータイトだけじゃなくて僕の仇も取ってくれるなら助けくらいしてやるのに。)
マリウスはどうも不満そうだ。それをもう1人の俺が宥めているような状況だ。
もう感じ慣れた情景だ。マリウスも友達と一緒にいられるのなら、取り込んだ甲斐があったというもの。
仲睦まじい感覚を持っていると、蚊帳の外だったセレスティアルから声がかかる。
ルイスが王になった以上、彼女は王妃となる。今はここにいられるが本来はルイスの傍にいないといけないのだ。
「私からもお祝いの言葉を差し上げますわ。平民から貴族になったんですもの、敵は多いでしょうが頑張りなさいな。
それと妹の事もよろしくお願いね。」
「だな!俺らもサポートできる事はするからデッカくやろーぜ!」
「とにかく、幸田おめでとう。彼女は部屋で待ってる。俺達は王都観光でもして帰るからこれでお別れだ。」
ユーゴー達が差し出してくる手を取って固い握手を交わすと、外へと繰り出していった。どうやらセレスティアルはルイスの所へ行くようだ。
彼らを見送ってから目的地へと急ぐ。
◆
ドアをノックすると女性の声で許可がされ入室する。胸元に透き通るような装飾品をつけたシエラに促されて、中央にいる法佳の元へと案内される。
聖女然とした白い服に身を包んだ彼女は、なおも一段と魅力的な女性に成長していた。
これからそんな彼女の横に並び立つのだから、俺も気を引き締めないといけないな。
「お待たせ、行こうか。」
「あ、うん。ちょっと待ってね。」
法佳は飲んでいた紅茶を置いて出発の準備を始めた。
今日から王都を出発して領主として〈ヴォーガ〉へと凱旋するのだ。
道中に用事があった事を思い出し、支度をしている法佳に声をかけた。
「途中、〈ジュマード〉の街に寄りたいんだけどいいかな?」
「アルヴィちゃんのお墓参りに、だよね?」
「そうだよ。アルヴィも一緒に俺の故郷を見て欲しいから。昔、そう約束したんだ。」
「ならお供え物も買っていかないとねー。あっでもちゃんと挨拶もしてないや。怒ってるかなぁ。」
そんな話をしている間に、出発の準備が出来たようだった。法佳は俺の前に立って手を伸ばしてきた。
「行こ!」
「そうだね、行こう。」
俺達の未来は明るく輝いている。今まで出会った人達やこれから出会う人達、全てが俺達の門出を祝福してくれている。
貴族としての不安はあるが、隣にいてくれている法佳がいるから大丈夫。
頭の中で、僕達も忘れるなと何やら聞こえてきた事も頼もしい限りだった。
でもまずはアルヴィの所へ行って、何があったか報告しないとな。
そして俺は法佳の手を取って歩き出した。
以上で孤児転生は完結致しました。長い間、お付き合いくださいましてありがとうございました!
ご意見、ご感想は非常に励みとなりました。完結まで投稿できたのは、読者様の応援あっての事です。
本当にありがとうございました!
活動報告に反省をまとめていますので、ご興味のある方はご覧になってください。裏設定なども触れていますので、良ければご覧下さい。




