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姿の見えない敵


 考える間もなく飛び上がった俺は、マリウスがいる方向へ手をかざす。ヤツが視界に入った瞬間、すぐ狙いを定められるようにだ。

 空中でくるりと体勢を整え顔を向けてみると、先ほどまでいたはずのマリウスが忽然と消えていた。


 地面に染み込みつつある血溜まりに音を立てて着地してみてもそれは変わらなかった。ただ唯一、俺のいた場所に土の槍が出現していたくらいで変わり映えのない光景だった。


「何処に行った!?」


 俺がそう言えば、この空間に響くような声が聞こえた。


「闇魔法っていうのはね、何かに憑依させる事も出来るんだ。まぁこれは実験を続けた結果なんだけど。今思えば、前の世界のバス事故も操作できそうだよなぁ、なんて思えるんだよね。」


 この声は俺のすぐ近くからだった。俺の後方、1メートルも満たない距離から、つまり先ほど倒したはずの怪物の死体から聞こえてきていた。

 頭は圧壊されたはずで、すでに動くこともなく噴出する血液だけが、それを生物だった事を示している。


 だが、ちぎれた胴体部から下がひとりでに起き上がって俺の目の前に頑然と立ち上がろうとしている。

 最初に見た時は後ろ足を引きずっていたはずなのに、それさえも無視するようにして異形の怪物は息を吹き返した。



「気持ちが悪い!」


 再度闇魔法を形成して、腹部に大穴を開ける。ぽっかりと簡単に空いた穴は、向こうの景色を赤く染めてしまうものの倒れる様子はなかった。


「無抵抗の動物に酷い仕打ちだなぁ、コーダ。僕がいる限りこいつは止まらないよ。」


「なら動けなくしてしまえばいいだけだ!」


 

 次は身体を支えている足元を狙う。崩壊魔法を選択出来ないならこれくらいしか方法が無い。

 撃ち込むと簡単に怪物の身体は傾き、頼りなく崩れ落ちようとしている。


 地面と接触するまでの間に怪物の身体は方向を変えるように感じられた。多分、頭部があればぐるりと座席の方へと向いたような、そんな気がした。


「こんな死体でも少女ひとり殺すのに十分なくらいの重さがあるんだよね。」


 

 自らの足が折れ曲がろうとも、血液を振り乱しながら法佳の元へと飛びかかろうとしている異形の怪物。

 肉塊を散らし宙空へと飛び上がった怪物に向けて、いくつ魔法を撃っても止まるような気配がない。



「・・・っくそ!もういいな!」


 もう一人の俺に向けて決意に満ちた声をかけてから、魔法を使って怪物のそばへと近寄ってゴワゴワする毛皮に手を添える。

 記憶を消費する感覚と、記憶を吸収する感覚の両方を手に感じながら着地すると頭に激痛が走って上手く着地出来ずに重心を崩す。

 

 到底1人分と思えないような粒子が自分の周りを漂い俺の中に入ろうとしている。

 その場に片膝をつくと地面が盛り上がるのを感じた。



 避ける事は出来なかった。気付いていたとしてもそこから動く事は出来なかっただろう。

 土の槍は地面と垂直に伸びる訳でもなく、鋭角に伸びて未だ眠る法佳を狙っていたからだ。


「ぐぶっ・・・。」


 着地して気分の悪さから膝をついてしまったからなのか、背中から肩にかけて浅めに抉られていた。

 俺の骨に当たって、軌道をずらさなければ先端は彼女の皮膚を破っていただろう。それほどまでに容赦ない一撃だった。



「ありゃー、上手く避けられちゃった。まだあんな隠し玉を持っていたとはねえ。」


 先ほどまで動いていた死体はすでに跡形もなく俺に吸い込まれている。声が聞こえたのは俺の後方で、足音も聞こえていた。

 土の槍は当たった衝撃で中ほどで折れてしまい、自重によって俺の肉を抉り取りながら地面に落ちていく。

 左腕はもう使いものにならないだろう。


「・・・お、お前、彼女はただの口実だったんだろ!何で手を出す!?」


「君に僕の願いを叶えてもらうために演出したのさ。

 ・・・シータイトが死んだと聞いて、まさか兄王子にやられたなんて思えなかった。誰かが手を下したんだと、そう思ってね。君は多分そんなつもりは無かっただろうけど、その強さが僕のお眼鏡にも適ったのさ。」


「・・・ちぃっ!」


 足音のする方向へ振り向きながら崩壊魔法を撃ち込む。その黒い粒子をまとった魔法は、誰に当たることもなく壁を粉微塵にするだけだった。


「くそっ、どこだ!?」



 石壁の粉塵さえも吸収してしまう身体に驚きを覚えながら周囲を見渡すも誰も彼も見当たらない。


「ほらほら、立ち止まっているだけじゃ良い的だよ?」


 近くの地面が隆起する。俺、というか法佳を中心にして伸びてくる土の槍は避ける事は許されない。

 幾本かは魔法を壁にして防げるが、少なからず被弾していく。


 マリウスがどこにいるかが分からないと、俺は身体中串刺しにされて殺されてしまうだろう。

 一体どうすればいいか分からないと思っていると、不意に頭の中に声が響いた。

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