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合成生物


 マリウスは座ったまま、手を横に広げて肩をすくめてみせた。


「それにしたって早すぎるんじゃないか?あれからまだ2日だよ?普通なら1ヶ月は軽くかかる道程だ。」


「大事なものを取り戻すのに早いに越したことはないだろ。」


「まぁそれについては同意するけど。それでどうやら魔法を取り戻せたって事でいいのかな。」


 マリウスが手を右方に伸ばすと、人間大の暗色の球がユラユラと近づいてきた。それは手に触れたところで止まって、表面が徐々に薄くなり中の様子が分かってきた。

 最後にはその薄膜すらも消え失せ、中から法佳が姿を現した。



 特に取り乱したような格好でも怪我をしてる訳でもない、ついこの間見たばかりの法佳がすやすやと眠っていた。


(あんなの見ちゃうと気が抜けちゃうね。とても囚われているとは思えないよ。)


 もう一人の俺と目の前のマリウスも同じ意見だったようで、似たような顔を向けられる。

 そんな場違いに穏やかな雰囲気をかんじていた時だった。地鳴りのような奇声が聞こえたのは。



「グオオオオオオ・・・!」


「な、何だ!?何の声だ!?」


 先ほど入ってきた扉の方から響く声に驚く。マリウスは事情を知っている顔をして俺に質問してくる。


「あー、これね。・・・ここに来る時、壁に穴が空いていただろ、あそこから顔を出したりしたんじゃないか?」


「あ、ああ。窓かと思って外を覗いたが。」


「あーやっぱりね。あそこ実は窓じゃないんだよ。下にいるヤツにエサを落とすための穴。

 この場所で出来た廃棄物をあそこから落とすんだ。おかげで味を覚えちゃって大変なんだよねぇ。」



 通路を歩いていた時のような振動が段々と強くなってきている。まるでこっちに近づいてきているかのような感覚だ。


「おい、まさか俺を狙っているとかじゃないだろうな?」


「さてね。でもあっちとこっちは繋がってるから、もしかしたら来てるかも。」



 そんな事を言ったからかどうなのか知らないが、ついにあの奇妙な怪物が姿を見せた。

 マリウスがいるところと同じく、その怪物のいる場所もこちらとは鉄格子で遮られていて、興奮したような息遣いと滝のように流れ出る(よだれ)だけでも異常さが感じられた。


 人を模したような顔がこちらを睨んで、舌舐めずりを見せつける。俺はこの怪物にとってはエサなのだろうな。



「悪趣味だよねぇ。今の皇帝は研究者肌でね、雑種を作るのにハマっているのさ。若い肉はいくらでも生産できるから有効活用だって言っていたかな、僕は理解できないけど。」


 そんな事を聞かされているが、相対している方はたまったものではない。皇帝のペットか何か知らないが、見ているだけでも不快過ぎる。


(ちょっとまさか、アレを撃つつもりじゃないだろうね?やめてよあんなの、君だって取り込みたくないでしょ?)


 コイツは少しわがままな感じだな。いや俺も、という事なのか。今、自分の欠点に気付かされても何の役にも立たないが。

 そしてその脳内会議は、怪物の張り付いている鉄格子の軋む音によって中断された。やはり来るのか。


 あの怪物をどうしようか考えている最中、マリウスが話しかけてくる。


「一応言っておくけど、僕が手を出す事はないよ。」


「当然だ。こんな獣もどき、俺にとっては前座にもならない。」

 

 どう戦うなんて計画は立てる必要はない。壊れかけの鉄格子ごと潰してやれば済むことだ。

 こんなのでも生物である以上、頭部を潰せば動かなくなるはず、有り余った魔力を押し固めて怪物のいる場所を上下に挟むつもりで闇魔法を配置する。



 そうするとすぐに金具が壊れた音を鳴らして、ゆらりと怪物が頭から這い出てきた。


「ここだ!」


 上下に展開していた魔法で一気に挟み込む。ぶちゅりと果実が潰れるような音が鳴るのを見計らって魔法を消すと、頭部を失ってもなお足がこちらへ向かおうとしているのが気持ち悪く思える。

 次第に力無く倒れ、赤黒い液体を地面に湛えながらついに絶命を確認した。


「・・・お前もこうなりたくないなら聖女を返すんだな。」

 

「すぐ返すつもりなら最初から奪ってないよ。それに君には僕の望みを叶えて貰いたいんだ。聖女様はそのための口実なんだよ。」



 マリウスというヤツが分からないな。この地位を得てなお、一体何を欲しがると言うんだ。


(できれば聞いてあげてよ。彼には借りがあるんだ。君も知っているでしょ?)


 コイツが勝手に孤独を感じていた時に寄り添ってくれた恩か。法佳の差し出す手を払ってまでマリウスに媚びていたなんて虫酸が走る思いだが、コイツもコイツで辛かったのか。


「それで何をすればいいんだ。富や名声なら他を当たってくれよ、それとも誰かを殺すか?」


「やだなあ、そんな恥ずかしい事を言う訳ないじゃないか。秘密だよ。

 それよりもさ、ここってどういう場所か分かる?」


「・・・いや、見当もつかないな。」


「そう、ならそれでもいいかな。」


 マリウスが肩をすくめながら言ったあと、突如、俺の足元の地面が隆起したのが分かった。

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