重なる事件
この話もガスティマ視点です。
次回から主人公視点に戻ります。
それは約9か月前に起こった、とある賃貸業をしていた男が殺された事件。その被害者は、多くの家を貸していて、取り立ても厳しかったそうだ。〈ヴォーガ〉に住んでいながら、平民街にも顔が利く商人だったそうだ。
ある日の朝、被害者は雑貨屋に立ち寄ったそうだ。何でもこれから客と会うからと、飲み水を2本買いに来たそうだ。
〈ヴォーガ〉にも飲み水はある。だがそれは煮沸して冷ました少し濁り小さなゴミが浮いた水だった。
平民街から仕入れられた水は、少し値が張るが綺麗な水なのだ。被害者は常連でほぼ毎日それを男は買いに来ていたそうだ。金を持っているのはあからさまだった。
その被害者の足取りは急にその日で途絶えた。自宅にはおらず、近所の人の話によると、その日に会っていた来客と口論していたらしいということだった。その証言者は、その来客は茶髪で瞳は緑色をしていたとも言っていた。
被害者の仕事関係から調べていくと、多くの証言が取れた。その多くは恨み言だった。
やれ賃料が高いだとか、やれ乱暴だとか。根も葉もない噂もあったが、自警団ではこれを殺人事件として捜査することに決めた。
〈ヴォーガ〉の自警団は、何も〈ヴォーガ〉出身者だけで構成された組織ではなかった。平民街で冒険者をやっていて引退した者達、怪我で一線を退いた者がほとんどだ。一部〈ヴォーガ〉出身の者もいるが、それでも元冒険者集団にも引けを取らない屈強な者達ばかりだ。
自警団の運営は冒険者ギルドがしていることもあり、〈ヴォーガ〉の治安維持に一役買っていることで冒険者を志す者も多く、冒険者ギルドも得をしていたりする。
そのような集団であるからか一般人以下の武力しか持たない〈ヴォーガ〉の人々から恐れられ、情報は隠される事なく集まってくる。
そんな中、証言と合致する人相の男が水場を占領して何かを洗っていたという証言が出た。目撃した者は食用の動物だと思い気にしていなかったようだが、1時間も占領していたため覚えていたそうだ。
更にその男の足取りを調べると厄介な事実も分かってしまったのだという。南側へ逃げるその男を見たという証言だった。
〈ヴォーガ〉の南は今でも何がどうなっているかハッキリしていない。〈ヒルー川〉によって最も危険な一部とは切り離されているものの、無闇に触れるのは、あまりにリスクの高い場所だった。
自警団内では、長い時間をかけてここまで捜査したのにも関わらず、手を出しにくいところであったため捜査自体を取りやめることになった。
◆
ガスティマは事件の詳細を思い出していた。
今、自警団内を賑わせている事件が、コーダが話した内容に重なるところが多々あったために、ガスティマは引っ掛かりを覚えた。コーダの話の最中にも、まさかとも思ってしまった。この考えをバーリーに話してみる。
「昨日の夜から今日の朝方にかけて、自警団の会合でも議題に上がっていた事件がある。お前も知っているだろう。家貸しの事件だ。」
「ええ、そりゃあね。僕だってけっこう駆けずり回ったんすよ。なんかもう無駄になっちゃったって話ですけど。」
バーリーも当然だという風に答える。自警団にいれば嫌でも関わっていたはずだからだ。
「あの事件に、コーダの言っていた話が関わってんじゃねえかと俺は睨んでんだが、お前はどうだ?」
「あれにっすかぁ!?・・・父親が袋、逃げる男、川の家、南に逃げた・・・。
まあちょっと分かりますけど、もうちょっと詰めてみないとなんとも微妙っすね。」
「でも無え話じゃねえ。コーダが起きたらそこんとこ聞いてみんぞ。いいな。」
バーリーがうなずいてみせる。ガスティマは立ち上がり、近くにあった大きめの布を2枚ほど取った。
「おしっ!じゃあちょっとコーダ見ててくれ!」
「ど、どこいくんすか。」
慌ててガスティマを呼び止めるバーリー。
「いい加減眠い。寝る!」
と床に布を敷いて寝始めるガスティマであった。
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