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聖国縦断


 北門を基準にして北上し、2、3時間か経ったかと言う時に頭の中で声が響いた。


(あ、アレ!右の方に小さく明かりが見えない?)


 その声に従うようにして右に視線を向けてみると、確かに仄暗い空に一点だけ明かりがあるのが見える。その明かりは頼りなく明滅していて、一度気付けば意識してしまうもので落ち着かない思いだった。


(寄ってみない?方向もそんなに変わらないし、位置の修正にも良いかも知れない。)



 コイツの言う事ももっともだと針路を明かりの方へと向ける。

 しばらくかけて近づいてみると、大きな木造の建物だった。チラチラ見えていた光は、小窓から漏れるランプの光で風に揺れる日除け布があの現象を起こしていたようだった。


 建物の中を覗くと、ベッドがある部屋と大きな机がある部屋が何重にも積み重なっている構造だった。


(これルイス様の言っていた木塔かなぁ。)



 やはり暗闇の中を行動するのは危険だ。知らぬ間に方向を間違えて、俺ひとりだったら道を外れてあらぬ方向へ進んでいっていたかも知れない。

 気が逸ってしまって、とんでもない失敗をする所だった。


 俺達が近付いてきたのが分かったのか、見張りが声をかけてきた。


「おお、利用者か。いつの間にいたんだ?出国印があればここを使えるが持っているか?」


「いや、まだこれからも進み続けるから、あまり用は無い。地図の確認だけさせてくれ。」


「やめとけやめとけ。若いから行ける気もするだろうがこっからは難所で有名だ。聖国自体が山の上にあるから暗い中だと命の危険もあるからな。

 聖職者用にすぐに行き来可能な道があるらしいが、俺らなんかじゃ情報も公開されてねえ。兄さんも噂に騙されたクチだな?」



 聖職者、つまり法佳達は別の道を使っているのか。ルイスはこっちの道を提示したから、王族にも秘密とは相当重要な経路なのだろう。


(暗いのは確かに危険だよ。実際に方向を間違えたし、せめて明るくなってからにしようよ。)


(だが急がなければ法佳達がどうなるか分かったものじゃない。シータイトと同じくらい邪悪な人間だと思え。)


(悪いけど、何処に向かうか分からない賭けはしたくないよ。それにマリウスは僕らを招待するとか言っていたから、すぐ聖女様に何かするとは思えない。)


 そう言われるとそういう気がしてくるのが困ったものだ。意識は別だが身体は共有、コイツの考えも尊重すべきなのだと感じてきている。

 それにコイツの方がマリウスとの関わりは長い。無意識的にマリウスの性格を感じているのだろうか。



 頭の中の口論が収束を迎えた頃、俺の返答を待っている見張りに向けて声を出す。


「じゃあ、朝日が昇るまでここを使わせてもらう。これ出国印だと思う、確認してくれ。」


 ルイスからもらった荷物の中からそれっぽいものを取り出して見せる。貴族用の印章だったようで、軽くたじろがれたが空いている部屋に入って朝まで過ごす事となった。



 翌朝、白々と大地が明るくなってきた頃、地図の確認をしてから出発した。昨日の話の通り、山間(やまあい)にある聖国方面を目指し進んでいくと、昼前には砦らしき建物が見えてきていた。


 周囲に街はなく砦のみがそこに鎮座しており、分かりやすい国境なのだと思わせた。

 手続きで時間を食われるつもりはなかったので姿を隠して上空から侵入した。


 だが、ちょうど砦の真上を通過する時に障壁のを突き破るような抵抗があったので、どうやら悪手だったようだ。


(なにか感じたよね、今。悪い想像しかできないんだけど。)



 コイツはこう言っているが、姿は見えないので気にせず突き進む事にする。

 

 とは言ったもののこの魔法の弱点は、音と衝撃。

 着地と跳躍から大体の目星をつけられたのか、進む先に人集りが出来上がって行くのが見えていた。


(まさかあれって、僕らを狙ってる?)


(厄介だな。聖女奪還の最中に聖国と敵対するのはややこしいぞ。少し道を外れるか。)


 不幸中の幸いでここは山間部。人足によって舗装された道を避けて山中を突き進む事にした。

 落ち葉などを踏みしめると余計に音が出るので、樹上や岩石を利用して人の営みからあえて外れていく。


 

 この判断が功を奏したのか、以降は追っ手からの圧力を感じる事なく聖国を縦断していった。


 大きな国という訳ではない。昔見た教会のような建物がいくつもあり、更にネルケルト王国の王城よりも立派な大聖堂が中央にある事以外はひとつの街のようだった。


(意外と小さいね。この分だと今日中には抜けられるかなぁ。)



 予想通り、空が夕暮れがかるくらいには反対側に来れていた。あとは入った時と同じように何気なく出て行くだけだ。

 だがそれは叶わなかった。最後の跳躍で跳び上がった瞬間、俺達の身体は横方向からの衝撃で吹き飛んだ。

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