第一回転生者会議
僕こと、コーダ・ヴァルヴィーナ準男爵が王国貴族に足を踏み入れてから1年後、コールドウェル領の街〈ローラン〉に来ていた。
僕も聖女様も10歳を数えるところまで来ていて、2人で街を歩いていても姉弟みたいでどこか楽しい。
聖女様が言うには、僕はどうやらこの世界に転生をしてきていて、今日はその仲間達と会合をするために街を練り歩いている。
「やっぱり良いですよ、僕は。覚えてないですし空気を悪くするだけです!」
「居てくれるだけで良いの。いいから行こう、みんな待ってるよ。」
記憶喪失の人間が思い出話なんて出来るはずも無い。僕の頭でも嫌がっているし、身体の方からも乗り気じゃなさそうにダルさが伝わってきている。
前の僕も転生者という関係が面倒だったんだろうな、と珍しく通じ合えた気がする。
無理に手を引かれて連れられて行く先は、大通りに面する大きな屋敷だった。聖女様が正門にいる門番に顔を見せるだけで通してもらえるのは、まるで貴族みたいだなぁと思う。
「幸田くんの事は私から話すから、ね?それにみんな貴族の子だから面識は持っておいた方がいいよ!」
「・・・は、はい、分かりました。でも本当に初対面なんですからね。」
屋敷の中の一部屋に入ると既に揃っているようだった。
誰を見てもキラキラとしていて、目のやり場に困る。どことなく大人な雰囲気も感じられて、僕だけが子供なんじゃないかという違和感に襲われた。
特に青い髪の人は、僕が部屋に入ってくるなり睨みつけてきて身が縮こまるようだった。
「遅いわよ。いつまで待たせるのかしら。やっと私のヒメユリ商会も軌道に乗って来たというのに、これじゃあ時間を潰しているだけですわ。」
「まあまあ、お姉ちゃん落ち着いて。これで多分みんな揃ったんだから。」
金髪で緑色の目をしている、いかにもお嬢様然とした少女が文句を言う。フワフワの髪が微かに揺れて、窓から差し込む光で発光しているかのように輝いている。
とても聖女様と血が繋がっているとは思えないけど、これが転生前の姉妹だったって事なのか。
「おー幸田、早く終わらせて街で遊ぼーぜ!この辺ケッコー武器屋とかあって見に行きてーんだよ。」
「ジェスティ、お前はそればっかだな。まず街の散策がイベントを誘発させるんだ。マッピングも出来るし特に路地裏とかにフラグがある事が多い。」
薄い金髪の少年と黒髪の少年が僕を視界に収めながら話している。肩をすくめながら話す黒髪の少年は、紙に何かを描きながら薄い金髪の少年に説明している。
入室した時からこっちを睨んできていた少女はツカツカと歩いてきて、少し低い僕に低い声で何かを言ってくる。
「あんたねえ、前に言ったこと覚えてないの?あんたが守られてちゃ意味ないのよ。あーもう見損なったわ、あんたにあの子は相応しくない!」
「え、あ、はぁ、すみません。」
「・・・それに前よりもっと腑抜けになって苛つくわ。早く座りなさいよ。」
青髪の少女に促されて端っこへと腰掛ける。共通の話題が無い僕にとっては、やっぱり居心地は良いものではなかった。
無理にでも断るべきだったと後悔し始めていると聖女様の声が聞こえた。
「私が確認出来ている限り、とりあえずこれで全員。あと2人は、接触が出来たんだけど今はもう来られない状態なの。」
「その都合が悪いってーのは、猫沢と新田だろ?アイツら確かどっちも王族に転生したんだよな。」
ジェスティと呼ばれていた薄い金髪の少年が手を挙げて発言をする。ここでは共通認識のようで話を理解するのに必死になる。
「そう、猫沢くんはアーデルガルド帝国の第三皇子。・・・新田くんは、この国の第二王子。」
「おい!それってまさか!」
「うん、・・・新田くんはもう、この世にはいない。」
そうか、僕は旧友をこの手で殺したのか。前の僕はそれを後悔していないのが分かるけど、この事実を聞くと居た堪れない。
僕は周りの人が自分を責めているみたいに感じて俯いてしまった。
「確か襲撃の被害者だって聞いたぜ。あークソ!もっと早く俺らが団結できてりゃ新田は死ななかったかもしれねーのに!
あいつを手にかけたヤツは絶対許さねー!」
ジェスティは座っていた椅子を蹴るようにして立ち上がって、右手を高く掲げて見せる。
僕よりも体格が良い彼は、それだけでも絵になる。3歳上のルイス様と同じくらいの背丈で豪快に話す様を、僕は直視できない。
「みんなもアイツの仇をとろーぜ!俺はアイツの兄貴に顔が利く、向こうだって同じ思いのはずさ。だから俺らも手伝って、犯人とっ捕まえて懺悔させてやろーぜ!」
「だな。俺は魔法で切り刻んでやる。泣いても許してやらん。」
「そうね、そもそも王子を狙うなんて悪い人間なのは確か。多少は痛い目に遭って貰わないと私の気も鎮まらないわ。」
彼の言葉に賛同していく転生者達。ここで自分がやったんだ、と言って信じてもらえるのか。
もし信じてもらえたら僕はこの人達に復讐されて、彼らも旧友を手にかけたという呪縛に囚われてしまう。
やっぱり僕はこの場所にいるべきじゃなかった。この悲しい事実は誰も幸せにならない。
「まあまあ、あまり物騒な事は止めようよ。それとさもう一つお知らせがあるんだよね。・・・幸田くん、いいかな?」
「・・・あ、はい。」
一旦僕への復讐話は区切られた。聖女様が展開していく話は、嘘もあったけど僕が事故で記憶喪失だというものだった。
いつか戻る、今はまだ、解決策はある。そんな事を聖女様は話しているけど、僕の心は逆だった。
このまま記憶なんて戻らなければいいのに。旧友を殺した感触、情景、何もかも全部戻らなければ、僕は重荷に潰されないで済む。
聖女様には、やっぱり駄目だったとそう言おう。
幻滅されてしまうかも。でも彼女は優しいから大丈夫、いつもの柔らかな笑顔で許してくれるはずだ。
聖女様の甘い幻想を思い浮かべながら、周りから向けられている怪訝な顔に愛想笑いで対応していった。
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