騒動の終点
第二章スタートです。
ルイス視点です。
深夜から未明に起こった騒動は首謀者ヴォンドルフ・ヴォルガンの捕縛で片がついた。
彼は帝国から技術提供を受け、爆発物を持ち込んで王族、ひいては王都に住む人間を窮地に陥れたとして投獄された。
記録にはシータイトの名前すらなく、第二王子はこの騒動の被害者という事で処理をされた。
王城を包み込んだ黒い膜に関しては、王都にいなかった諸侯から様々な憶測が飛び交った。
それこそ帝国の新造技術ではないかとよく分からない陰謀論ばかりで耳が痛い。
実際に見た者でなければ信じられないような事なので、わざわざ言及する者がいないのが声を大きくしている要因かもしれない。
あれから早1か月が過ぎ、いまだ修繕工事が続いている王城の廊下を1人で歩いている。
大きな亀裂に光を全く通さない黒い膜がある以外には普通の光景になった。
どうやらこの膜をすぐに取り除こうとすると倒壊の危険性があるらしく、建物に黒いまだら模様が装飾されて物々しい雰囲気を醸している。
シータイトの死を見届けたあと、家族を連れて避難してあそこにはいなかった。そのため両親や姉達もちょうど王城の中ほどから折れる瞬間を目撃してしまっていた。
この王城が破壊されてしまうのを防いだこの膜を永く遺すべきだと決定したのは父だった。
これの正体は分かっているが、救国の遺産とする方向へ持っていって、当の本人に火の粉が掛からないように苦慮しての事だった。
神聖視されるのは個人でなく事象。残酷だが、救国の英雄と担ぎ上げられるよりは楽であろうという考えが伝わってくる。
少しほこりっぽい廊下の先にある執務室の扉を叩いて、入室の許可をもらう。
おざなりな返事を受けて入室すると、眉間を揉む宰相と疲れた表情の国王がいた。
「悪いな、ルイス。看病の途中だったろう?」
「いえ、もう慣れたものです。・・・それで、帝国から返答が来たとか?」
帝国の干渉でこの反逆騒動があったのは明確だった。捕らえたヴォルガンからもその旨を聞き出し、帝国へ調査依頼を送ったのだ。
ただそれも名ばかりで、返答如何では国家間の衝突も避けられないとした内容だった。
「ああ、全くの予想外だったがな。しらを切ってくる方が余程良かった。証拠も証人をいるし、有利な条件で圧力もかけられたかもしれんのでな。」
「それが違ったと?」
「帝国からの技術提供は確かにあったが、以降の使用用途には関わりがないとあった。それに、武力衝突には肯定的でこちらの武力を嘲るような事も記してあった。」
ある意味でこの騒動は、帝国による宣戦布告だったのではないかという考えが頭によぎる。
内乱を起こして疲弊している国なら簡単に勝利できるだろう、と。
それにシータイトが帝国に傾倒したのも問題だ。どこまで侵入されているか分かったものじゃない。
今この瞬間も喉元にナイフを突きつけられているかも知れないのだ。
「それでどうされるおつもりですか?」
「この国を戦火に巻き込む訳にはいかんだろう。ただの内乱として処理し、これ以上帝国との軋轢を生まぬように友好国のまま終結させる。」
「それでは、随分と帝国になめられる事になりますね。」
「・・・いたずらに民に戦わせるよりは賢い選択だったと思いたい。」
国王は深いため息をついて、更に疲れた顔にシワを寄せた。
それはそうと、と国王は前置きをして今ほどより晴れやかな表情をこっちに向けた。
「ルイスよ、彼はどうだ?息災であるか?」
「ええ、今日も元気に食事を楽しんでおりました。・・・本当の子供みたいに。」
「今も昔も子供だろう。彼には褒賞をやらんと、と考えておる。コールドウェルに至っては、娘の婿に欲しいと言ってきておるほどだ。」
「・・・以前、アイツが言っていた事があります。出来ればそれを叶えたいと考えています。」
この功績なら難しい話ではないだろう。障害は多いだろうが、アイツと聖女なら上手くやっていけるはずだ。
「アイツを、コーダを貴族にしてやってください。」
◆
執務室を出て、コーダのいる医務室へと向かう。もう体の傷は癒えているが重要なところが戻っていない。
いや、前に聞いた限りでは戻ること自体が無いのだろうけれど、確実かどうか分からない。
扉の前にいる衛兵に一言言ってから部屋の中に入ると、寝床に足だけ入れて長座しているコーダがオレに気付いた。
「あっ、あの!すみません!僕、あなた様が王子様だって知らなくて!さっきの人に大変無礼をしたから謝っておけって言われたんです!だから、ごめんなさい!」
「・・・い、いや良いんだ。お前が楽な方でいい。」
すっかり元気な男の子になってしまったコーダに寂しさを覚える。歳を考えれば相応なのかもしれないが、違和感の方が先に立つ。
「コーダ、何をしていたんだ?」
「少しでも何か思い出せるようにって絵を描いていました!」
コーダが見せてくれた絵には、真っ黒の中に2つの赤い点がある不思議な絵だった。それは何かの目のように見えて不気味な印象を受けた。
絵を返してやると、また何かを描いていく姿は本当に無邪気な子供にしか見えない。
つい、コーダの頭に手を伸ばして撫でてしまう。
「はぁ、聖女に何て言えばいいのだろうな。」
俺のつぶやきを不思議そうな顔をして見返すコーダは、また絵を描き始めたのだった。
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