救うものと失うもの
激しい雷光は窓という窓を破って、瓦礫とともにシータイトへと殺到する。細かな破片は月明かりに照らされ空中で乱反射して幻想的な光景を映している。
天を割るような轟音は巻き上がる烈風と正面からぶつかり合い、部屋の床や壁を抉っていく。
そんな激しい戦闘に周りで拘束されて寝かされている王族達もただでは済まない。
俺は片手間に闇魔法を使い、戦闘の余波を防いでいた。
「そんなお荷物守っていて、僕と戦っているなんて舐められたものだね!死ななきゃ聖女に治させるのに律儀なことだ!」
「またそう言って!聖女はお前の道具じゃない!一個の人間だ!」
「あんなお飾りのどこが気に入ったんだか。王子に媚び売る犬は教会の犬とお似合いだと言う事か、笑えるね!」
当然こんな規模の撃ち合いだと全員がもう気がついているわけで。
彼ら目が覚めたとき、シータイトが魔法を使っている状況が理解できていなかった。
シータイトが目が合ったフィオレンサに向けて魔法を放ったのを見て、慌てて闇魔法で障壁を作ったんだ。もうコイツに姉弟愛なんて無いのかも知れない。
◆
シータイトが腕を振って暴風を起こし、俺がそれに対応して雷撃を落とす。赤い絨毯も麗しく装飾された壁も、シータイトが座っていた玉座も、すでに見るも無惨に瓦礫に変わっている。
そんな応酬がいくらか繰り広げていると、闇魔法の障壁の隙間から火球がシータイトへ迫った。
俺との戦闘に集中していたのだろう、即応出来ずに顔面に直撃した。
「・・・悪いな弟よ。お前にはもう遠慮はしないで良いらしい。」
「チッ!割り込むんなら殺す気で来い、邪魔だ!」
顔にかすかな火傷を作ったシータイトは、俺に向けていた魔法をルイスへと転換させた。
それにルイスは反応出来ていない。反応できていたとしても詠唱していたのなら間に合わない。
「ルイス!」
また目の前で大切な人を殺される訳にはいかない。〈ヴォーガ〉での記憶を注ぎ込んで自分の右腕から崩壊魔法を発射する。
父と母の記憶がはらりはらりと崩れていくのを感じながら腕を伸ばしていく。
ルイスに暴風が接触する直前、ついに間に合って暴風はそよ風のように霧散した。
「危ないから出てこないで!怪我でもしたらこの国はどうなるんだ!」
「お前なら守ってくれるだろうと思ったからな。微力ながら援護しよう。」
「本当に微力すぎるよ、お兄様。あんたじゃ役不足だ!」
シータイトはあざけり笑うように虫を払うように腕を振る。それだけで破片が舞い上がり、凶器となってそこら中に降り注ぐ。
ルイスまで失う訳にはいかない。俺はついに幸せな記憶にまで手を伸ばす。
「・・・さよなら。バーリー。」
◆
良い気になっているシータイトに向かって崩壊魔法を撃ち出す。狙いが逸れたのか、胴体ではなく右腕に直撃してしまった。
「なっ!なんだ!?僕の腕がっ!・・・っくそ!」
崩壊魔法が接触するとジワジワ侵食して風化させていく。それを瞬時に感じ取ったのか、シータイトはまだ繋がっている二の腕を風刃で切り裂いた。
「あがあああ!・・・あっ、ぐぅ。か、回復魔法を・・・。」
痛みを耐えながら器用に反対の手で聖魔法で痛みを消していくシータイト。
無心で自分の傷の手当てをしているシータイトに、闇魔法で10メートルは先にいるシータイトの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「うぁ!・・・お、お前なんだその魔法は!僕の知らない魔法があるっていうのか!」
「こんな魔法、使えない方がいい。それよりももう終わりだ、シータイト!お前はこのまま捕縛されて反逆の罪で裁かれるんだ!」
自分の顔を寄せて怒鳴りつけるようにシータイトに敗北を判らせようとする。間近に迫ったシータイトの瞳は、まだ自信気に輝いていて勝利の芽を諦めていない。
「コーダとか言ったね、確かに君には敵いそうにない。それは認めるよ。でもね、君さえいなくなれば僕は最強なんだ!ご退場願おう!」
シータイトは残った左腕を俺の脇腹に添えると、先程と同じように手のひらから暴風を起こした。
俺は錐揉みして宙に吹き飛ばされ、もうすでに跡形も残っていない窓へと飛んでいく。
なんとか壁を掴んで外に投げ出されないように耐えるものの、崩れかけた外壁に支える力もなく呆気なく放り出された。
一瞬見えたシータイトの顔は勝ち誇っているように口角が吊り上げられ、子供特有の甲高い声の高笑いが響いていた。
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