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褒賞


 その日から宰相ユリウスの後ろを雛鳥のようについて回る日々となった。

 守秘義務があるのか、俺が入室を許可されていない場所も多く、ルイスがこの国の要所を任される立場になったのだなと感慨深くなる。


 多忙を極めるルイスは、寝る間も惜しんで補佐役として勉強に勤しみ、その地位を確固たるものとしていった。

 当然ながら、中枢部に入り込んだ事で国王である父と会話をする事もあり、幼少に掴み損なった家族の愛を実感するに至り性格は更に穏やかとした物になっていった。



 フィオレンサとレティシアも同様で、少しは成長したルイスに好意的なので、姉弟間のわだかまりは無くなったと言える。


 シータイトからの嫌がらせはついに鳴りを潜め、シータイト派はうるさいが本人はさして干渉をしてこなくなった。

 ただ、帝国とは頻繁に連絡をとっているらしく、子供ながらに友人が恋しいのだと評判だが、何か裏がありそうで怖い。



 今日は、ついに法佳が聖国へと帰る日。巡礼の評価、シータイトとの婚約を報告するために戻るのだと言う。


「幸田くんともっと一緒にいたかったけど。・・・はぁ、憂鬱だよ。」

「2年後には会えるんでしょ?その頃には法佳を守れる男になって見せるよ。」


「嬉しいんだけど、・・・なんかフクザツ。」


 ここはルイスの私室。お別れだからと、関係者しか入れない場所を提供してくれている。

 当の本人は、仕事にかまけて寝るだけの私室らしいのでほぼ使われていない秘密の場所だ。


「俺がもっと自由な立場だったら一緒に行きたかったけど。独りにさせるようで申し訳ないよ。」

「本当はさ、そういうのシータイト様が言わなきゃなんないんだよ。」


「法佳はシータイトの方が良いの?」

「う、うぅ。意地悪だよ!・・・そんなの、幸田くんの方が良いに、・・・決まってる。」


 からかい甲斐がある少女は、俯きながらもボソボソと俺への好意を話してくれる。


「アルヴィと同じくらい法佳が大事になったんだ。」

「アルヴィちゃんは愛されていたんだね。・・・ん、愛、して?」


 アルヴィを思い出すかのように視線を外して遠くを見ていると、また更に赤くなっている頬を手で挟むようにしている。


「・・・愛、してる。」


「当然。法佳も同じくらい愛しているよ。」

「う、うああ!恥ずかしい恥ずかしい!よくそんな事、真顔で言えるよ!」


 ワタワタして頭を振り乱す法佳を落ち着かせようと髪を撫でる。


 平和で幸せな一幕だった。いつかこんな関係が終わりになるだろうけど、今この瞬間だけは自分のものにしたいという独占欲が芽生える。

 あと何年かしたら本当に法佳はシータイトのものになる。


 だから今だけはこの欲に忠実に彼女の体温を感じていたいと、そう思った。



 聖国へ見送ったあと、ルイスと合流する事になった。ちょうど褒賞の仕分けを手伝っているらしく、昼食休憩の最中だった。


「お前、ロンバード領って知っているよな。あの領主の屋敷が占領されてけっこうな混乱があったらしいぞ。」


「ああ、そういえば後任とかどうしていたんだろう。領民に影響はあったの?」


「いやすぐに賊は有志の冒険者に討伐されたみたいだな。民に大して影響は無いようで、その者らに褒賞を与えようという書類があったんでな。」



 懐かしいほどに昔に思えるあの下卑た男を失脚させたのは他でもない俺だし、事の顛末が気になる。

 

「冒険者って意外とすごいんだ。あまり実感がないけど。」


「精鋭だったのだろう。聞けば40歳を過ぎたベテランのようだったから、多めに配慮するべきかと思っているほどだ。」


 随分とすごい人なんだな、と今まで会ってきた冒険者達とは違う感想を抱く。

 話は終わったとばかりに、ルイスはまた宰相の部屋に戻るようだ。さすがに機密が過ぎる、俺なんかが立ち入れる場所ではない。



 部屋の前まで連れ立って歩いて見送る。さて暇になった、と引き返そうとすると見計らったかのようにルイスの姉であるレティシアがいた。

 あの口うるさい侍従もおらず小さな手で控えめに手招きしている。



 コソコソと近寄ると更に見えにくい場所まで移動した後、金色に輝く髪をゆったりと頭を下げてきた。


「お、お上げください!何があったか知りませんけど、私なんかに頭を下げるなどと!」


「いいの。ルイスがここまでになったのもあなたのおかげ。私達じゃどうにもならなかった。姉なのに、弟の面倒を見切れなかったの。・・・だから、ありがとう。」


 また緩やかに顔を上げる所作は、息を呑むほどで経験した事のない高貴さが手にとるようにわかった。

 昔はアルヴィに似ていると思っていたけど、根本からして違うんだなと確信めいたものを感じた。



 アルヴィと同じ色をした人に惹かれていたのではなく、その色をしていた人にアルヴィを重ねてしまっていただけなんだ。

 あの瞬間に死んでいたアルヴィを引きずり回すなんて、随分と女々しい事だった。


 そう思考の海に沈む俺を不思議そうに見てくるレティシアは、青く透き通る瞳に疑問を浮かべている。

 

「すみません、少し考え事を。・・・でもルイス様が変わったのは私ひとりだけの力とは思えません。ご家族がいたから変われたんだと思います。ですからレティシア様も、もちろんフィオレンサ様もあの人を褒めてあげてください。」


「・・・あなたが言うなら、やってみる。じゃ、私もう行くから。ありがとね、本当に。」


 レティシアは身を翻して来た道を戻っていった。途中、手を振ってくれたのでそれを対応しながら最後まで見送った。




 家族。俺の家族は誰なのだろう。もう思い出せない前の家族なのか、俺が殺し俺を悪魔と呼んだ今の家族なのか。

 どっちにしたって俺にはもう父と母と呼ぶ資格は無いのかもしれない。


 傍若無人に他者を排除し見下し続けたルイスだって、兄を殺そうと水面下で策略を巡らすシータイトだって父と母がいるんだ。

 2人が羨ましいと思う。父と母がいるだけで天涯孤独になる事はない。それに兄弟だっていて何が不満かと思う。

 

 俺はレティシアを見送った後、人気のない廊下でぼうっと立ち尽くしていた。

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