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最低限の信頼

途中で視点が変わります。


 昏夜祭のあと、実際国王の言う通り夜も更けていて3日間に渡る婚約式もついに終わりを迎えた。


 あれから法佳とは会う事もなくルイスの私室へ引き上げると、早速メイド達に衣装を脱がされる。

 もうこの扱いにも慣れたもので、どうせ止めても意味ない事なので流れに任せている。



 翌日の朝、来客の帰りの馬車がひっきりなしに出発している王城へと足を向け、国王のいるであろう執務室を目指す。

 昨日の昼とは違って、ルイスも真剣な表情を崩すことなく緊張感のある空気が流れている。


 執務室へと入ると、宰相と国王が待ち構えており既に着席している様子だった。ルイスが座って俺が傍に立つ、それを待っていたかのように国王は話し出した。


「ルイス、お前のかつての蛮行はいまだこの王城の従者の記憶に深く根付いておる。だがこと聖女においてはお前の好き勝手が功を奏したと言えよう。」


「失礼ですが父上。聖女様の心を掴んだのは私ではなく。」


 ルイスが言い切る前に国王は手で制して発言を止める。宰相も俺を見てくるし、何だか気まずい雰囲気だ。


「私の目が衰えたのやも知れんが、シータイトとの婚約話は時期尚早だった。やはり聡明とは言え子供であったか、と後悔の念もある。」


「聖女様は貴族ではありませんが、民衆からの絶大な信頼があります。聖女様が通れば街道は人の塊によって封鎖され、そしてその期待を物ともしない胆力も備えている。」


 胆力なんてあるのか。単にあまり気にしない性格なだけだろうあれは。


「気が逸ってしまった、あの人気にあやかろうと息子を差し出した短慮さを呪いたい。婚約式の最中の聖女の表情は、どこか曇っておった。ただ昨日あのテラスでの一件ではその陰りも無く心から笑って見えた。少なくともシータイトでは引き出せなかった顔をしていた。」


 そう言うと国王はその若々しくも凛々しい顔の目元の皺を深くし、真一文字に口を閉ざしてしまった。傍に立つ宰相も切れ長の目でもって、俺を射抜いてくるかのようにして見ている。

 この非常に重い雰囲気は俺が原因なのだと分かるのに、そう時間はかからなかった。


 俺から発言できるはずもなく、ただただ無為に時間ばかり過ぎていく事となった。

 そんな時、痺れを切らしたのかルイスが声を上げて、重苦しい雰囲気を切り拓いてくれた。


「父上、この話のために呼んだのですか?こんな事は当人同士でやらせれば良いのです。」


「あ、ああ。本題はそうだ、・・・ユリウス言ってしまえばもう覆りはせんぞ。」

「昨晩の事で将来性を見出した者はもう幾人もおります。どちらか、などと既に決まっていたのです。」


 国王と宰相だけが的を射ない会話をしている。ルイスも呆けたようにしているし分からないのだろう。


「通例としては少し遅いやも知れんが。ルイス、お前を次期国王として任命する事になった。」


「はっ、よ、よろしいのですか父上?」


「独断ではないぞ。そもそも生まれの時点で決まっておった様なもの。王とはただの役職、とは昨晩お前の発言だな。お前がこうも高尚なる定見を持っていたとは、恐れ入った。」


 ここに来てついに決まったか。こんな瞬間に立ち会えた事は護衛冥利に尽きるな。

 国王の表情はどこか爽快さが窺えて、長年の心配事が解消されたかのようだった。


 兄弟間で争うにしろ、どっちがどうだと言うのを決めておかないと動くに動けない派閥もありそうだしな。


「とはいえ、お前も慣れない事があるだろう。まずは2年ユリウスのところで勉強し、治政を見よ。」

「は。承りました父上。」


「それともう一つ、コーダとやら。帝国の皇子と随分似ておるようだが、帝国貴族の縁者か?」

「は、あ、いえ。私はこの王国に生を受けたれっきとした王国民であります。昨晩もご本人からお話し頂きましたが、偶然かと思われます。」


 確かにあの皇子を見た人なら疑うのも分かる。間諜か何かだとでも思われているのか。


「そうだったか、気にするな。・・・では本日からルイスをユリウスの補佐として任命する。王になる以上、僅かな隙もないよう真に励め。」


 ついにルイスこそが王であると現王が認めた。ルイスだってシータイトほど賢い訳でないにしろ、国民を思う心を持っているのだと思う。

 俺は大した人間じゃないけど、この王子の傍に仕えられた事を誇りに思うだろう。



「そうか、ついにお兄様が宰相の補佐に。」

 

 椅子に深く腰掛け顎に手を当てて考え込むのは、齢8歳にしてこの国以来の才子と讃えられたシータイトであった。

 王子とは思えない調度品や宝石類がそこかしこに飾られた目も眩むような部屋で、1人の男から報告を受けている。

 この第二王子の将来性を見出した者達もまた、現在では右往左往とどっちつかずの立場をとっているとか。


「陛下の御心を察するならば、通例通り第一王子が即位するものと──。」

「そんな事は分かっている!僕は結局スペアだっただけだ。これまで通りやる事は決まっているんだよ。・・・ヴォルガンに連絡をマリウスには僕から話を通す、ついに決行だ。」


 シータイトという少年は、なまじ前世の記憶など持って生きてきたので、家族という繋がりを意識しない。

 姉達も兄も、血は繋がっているらしい“お姉様”と“お兄様”であり一個の人間と評価していない。


 一方では冷酷、また一方では果敢。だが往々にしてこの両者は理解者を得られないという弱点がある。


 だがそれはシータイトに限らず、コーダもまた同じ性質を持っているのだ。

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