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少女の憧憬


 目の前へと駆けてきた少女は、昨日暴漢に攫われかけていたサナリア・コールドウェルという少女だった。

 事前に確認した情報では、俺より2歳上の10歳でコールドウェル家の四女だそうだ。


「あの時はどうなってしまうものかと思っていて、あなた様に助けていただけなければ私は。」


 尻すぼみに聞こえなくなってしまったけど、不安だったのだろうと思う。俯いた顔がどうにも弱々しく見えて庇護欲を誘われてしまう。

 

「いえ、あなたにお怪我が無く何よりです。こんな護衛程度に礼をして頂いて嬉しい限りです。」


「本当ですかぁ!私も嬉しいです!・・・あ、あの私はサナリアと言います!あなたのお名前をお聞かせくださいませ!」


 頬を紅潮させたサナリアが俺の手を取りぶつからんばかりに体ごと近づいて来た。

 その質問に答えようとすると、スッと白い装束をまとった細い腕が俺とサナリアの間に文字通り割って入ってきた。


「その人の名前はコーダって言うのですよ、サナリアさん?」


 そこにはまるで厳然たる冷笑を貼り付けた幽鬼のような聖女様がいた。傍で見ている俺でさえ背筋に伝うものを感じているのだから、相対しているサナリアの緊張感は計り知れない。

 ただ、俺にはその迫力が綺麗で美しく思えた。


「せ、せせ聖女様!?」


「ちょっと私、コーダ(・・・)くんと話しがあるの。席を外してくださる?」


「え、ええ。何て言うかその、失礼いたしました!」


 サナリアは来た時と同じようにして駆けていった。忙しい人だ。

 彼女が去っていくとすぐにこっちに振り返った法佳は、先ほど感じた凄みもなく一仕事終えたような爽快感さえ表情に出していた。


 つい1週間ほど前には一緒に旅をする仲だった法佳の聖女様然とした姿に見惚れてしまう。


「どうしたの?幸田くん。」

「ほ、いえ。聖女様が大変お美しいので見惚れていました。」


「えっそんな、う、嬉しいけど。なんか。」

「これは私見ですが、今までに見たどんな女性よりもお綺麗かと。」


 見惚れてしまったのは事実。艶めく化粧や透き通るような瞳、仕立ての良いドレスも相まって素晴らしい。

 アルヴィも着飾れば同じように見惚れてしまいそうだけど、アルヴィには生活感のある服の方が似合っているかも知れない。


 その2人の美少女を比べられる俺はなんて幸せ者なのだろうかと思ってしまうほどだ。



 俺がそう言った後、もう見慣れてしまった赤い顔を背けて何か小声で言っている法佳に、ようやく挨拶回りが済んだルイスが疲れたように話しかけてきた。


「お前らいちゃつくのは良いが場所を選べ。・・・コーダ、オレは疲れた、テラスでも行くか。聖女様もどうかな?」


 あくまでも聖女様と第一王子に付随する護衛という立場で会場に面したテラスへと移動した。

 この顔触れなら人払いなんてしなくても、勝手に人が逃げていくので楽が出来て良い。


 何人か騎士の知り合いも見て取れて、会釈をすれば笑顔を返してくれるほどにはなったようだ。

 法佳とルイスが椅子に腰かけて、間に俺が直立する状態になる。


「オレはいないと思ってくれて良いぞ。シータイトもさすがにここに寄ってくる事もないだろうしな。」


 優雅に茶をすするルイスは、夜風に吹かれて気持ち良さそうだ。疲れたのは本当だったのか、欠伸をかましているほどだし。

 そんなルイスから目を離すとジッとこっちを見ている法佳と目があった。


「さっきの女の子、あれ誰?」

「ああ、あれは昨日ここで騒ぎがあった時に助けた子だね。あの時はルイスも呼ばれてなかったし長居する必要もないかと思ってすぐに帰ったんだ。だからさっきお礼を言いに来てくれたんだと思う。」


「ただ助けただけなの?本当に?」


 法佳に向けられる視線がキツくなったように思える。まるで睨んでいるかのような不機嫌そうな顔だ。


「ただ助けただけだよ。あとは怪我をしていたから回復魔法をかけたくらいかな。」

「へぇ、どうやって?」


「確かあの時は指に傷があったから、膝をついて傷を治してから血を布で拭き取ったんだ。それですぐ家族の所に走っていったから。」


 俺がそう言うと、法佳は頭を抱えて呻き声のようなものを上げていた。

 そこで初めて、法佳の頭に青い髪飾りがあるのに気がついた。


 聖女様を着飾るにはとても安っぽい、露店で買った花の髪飾り。


「どーしてそういう事するの!幸田くんは見境がないの!?女の子だったら誰でも良いの!?」

「誰でも良い訳ない。もし君が襲われていたら城ごと滅ぼしていたかも知れないよ。」


 そう言って俺は法佳の頭上に揺れる花飾りのあたりを撫でる。必然的に髪を撫でてしまう事になるので、サラサラとした感触に顔がゆるむのが分かる。


「これつけていてくれたんだ。」

「ひゃ、あ、うん。大事な物だし。」


「嬉しいよ。」


 2人で平和な時間を過ごしている傍では、欠伸を噛み殺しているルイスがいてくれたのだった。

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