表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/175

功績は主人のもの


 また次の日も同じように退屈に過ごすのかと思っていると、朝早くから国王陛下に呼び出しを受けた。

 おおかた昨日の事だろうと2人で高を括って、(おおやけ)に外出できる権利を得た事を嬉しく思っていた。


 王城へ向かう足並みも軽やかで、本の虫と化していた昨日のルイスとは思えない。



 国王のいるらしい執務室へ2人して入室すると、宰相と国王が待っていた。

 そしてルイスが国王の向かいに座り、宰相が俺と顔を合わせる形で傍に控えている状態となった。


 国王は宰相と何かを話していたかと思うと、俺に視線をよこした。


「その者、昨日の式の最中に乱入していた賊を捕らえたそうだな。名は?」

「私めはコーダと申します。」


 いきなり本題だとは思わなかったけど、チラリとルイスを見てから名前だけ伝える。


「してルイスよ。その者の功績はこの国を救ったと言えよう。財務局の次長であるコールドウェルの娘だったのだ。賊に危害を加えられればどうなっていた事か。」


「その賊というのがどう侵入したかを追求した方が良さそうでは、父上?」


「それは式が終わってからでも良い。それよりもこの件でルイスが出席していない事が露見してしまったのでな。」


 なるほど。俺が姿を見せた事で第一王子の不参加がバレたのか。謹慎とか言ったって顔を見せないのは不自然だものな。


「それで本日の昏夜祭があるのだが、その時点で蟄居を解く。病かなにかだったと理由をつけ出向いてくれ。」


「はい、せいぜい挨拶回りだけはやりましょう。」


 宰相が見せてくれた出席者の一覧や流行に合わせた礼服など、急な都合合わせにテキパキと対応していく様に、ルイスは本当に別世界の人物なのだなと改めて思う。

 剣呑な性格さえ取れれば気の良い普通の人間なのに、かつての愚行が尾を引いていて実の父親からさえ厄介者と評価されているのが悲しくなってくる。



 個人的な謁見を終え、支度をしてゆく。後は出向くだけだという頃になって、糊付けされたパリッとした濃青の詰襟服に身を包んだ俺とルイスは、王城の私室でくつろいでいる所だった。

 外出のほぼ出来ないルイスの白い肌は、服の濃さにも引けをとらない高貴さが滲み出ていて、やはり王子様なのだと思わせる。


「ルイス、その、こういうの初めてで、どうしたら良いんだろう。」


「お前は黙って後ろに立っているだけでいいさ。例の少女にだけは挨拶する方が良いだろうがな。」


 メイド達も俺の戸惑う姿を見てやきもきしているようだ。前に弟のようだと思っていると聞いたので、この大舞台に臨む俺の動揺を心配してくれているのだろう。


 しばらくすると、迎えの人間がドアを叩いてきた。俺はそれに驚いて、ルイスはそんな俺を笑う。

 お前もまだまだ子供だな、なんて言われながら案内された先には両開きのドアが荘厳とあった。


 この木の板一枚隔てた先に大勢の貴族がいるのかと思うと、心臓がバクバクと脈打って緊張していくのが分かる。

 顔だけは強張らせないように意識を保ちながら、堂々とするルイスの陰に隠れて真面目の仮面をかぶる。


 

 案内人がドアを静かに叩くと、向こうからドアが開けられる。


「ネルケルト王国第一王子、ルイス・フォン・ネルケルト様のお成りにございます!」


 開かれたドアの先は多くの人間がひしめいていて、中央の一直線だけは避けられている、さながら異物扱いを受けた王都巡行のようだった。

 あの時もこっちに向けられる視線は、畏怖、疑念、猜疑などこっちとは一線引いたようなものだった。唯一違うのは未来の国主が堂々と先導して歩みを進めている事だ。



 顔だけは崩さぬように細心の注意を払いながら、その頼り甲斐のある背中から離れないようにして、着席に至るまで周りなんか見ている余裕はなかった。

 ふと隣を見れば、驚いた顔を向けている法佳がいてその向こうにはニヤケ顔のシータイトが見える。


 法佳は、純白にさらに白を合わせたようなヒラヒラとしたドレスに身を包んでいて、今は肩口から薄絹のストールをかけている。

 先に見えるシータイトも似たような格好で、普段の俺の白い制服姿では悪目立ちしていただろうと、服飾を担当してくれた人には深く御礼を言っておかないといけない。


 こっちからでは聞こえない声量で、シータイトは法佳に何やら話して俺から視線を戻していた。

 曲がりなりにも婚約者が公の場で、他の男を凝視しているのはよろしくないのだろう。


 シン、と静まり返っている会場はとても楽しげな雰囲気ではなく、司会らしき男が話し出すまでその静寂を生み出した原因であるルイスへの注目が逸れる事はなかった。



 司会によれば、この昏夜祭は昨日までのお堅い式───俺達は内容まで知るよしもないが───とは違って、歓談が主な会食形式の催しのようだ。

 今まで蚊帳の外だった第一王子には、他方面からの挨拶、また最近積極性を身に付けたルイスからの弱者を見下さないもてなし(・・・・)は、これまでの第一王子像から穏健になった姿を知らしめるには十分だった。


 こちらも婚約者であるセレスティアルも同席し、気まずい雰囲気を感じさせない所作が好感を生んだようだった。



 最終日に満を辞して登場したルイスに殺到する人の波が落ち着いたと見えるや、法佳がこっちへ近づいて来ているのが見えた。

 頭の中でお祝いの言葉を準備していると、2人の間に割り込む姿が見えた。


「あ、あの、昨日は助けて頂いて、ありがとうございました!」

 

 昨日とは打って変わって、晴れやかな表情で肩口で揃えられた髪を結わえた例の少女が走り込んできた。

もし気に入っていただけましたら、感想・評価・ブクマよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ