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退屈な日々

視点変わってシータイトです。


 今日はルイスが、宰相の父が治める領であるエルダール領へと向かう前日の日。


 聖女フォミテリアの助言もあって、スムーズに進められた旅行計画は、僕の意表を突くに至った。

 ルイスがここまで積極性を持つまでになったのは、コーダという幼い護衛にある事は明白だった。


「それで、コーダの情報は手に入ったか?」


「はい。護衛業を引き受けたあたりまでしか分かりませんでしたが。」


 僕の支援者の中で、情報収集役として動いてくれているのは、子爵家の長男トーリスだ。

 陞爵(しょうしゃく)のため僕に取り入って、褒美を得ようといったところだろう。僕の周辺にいれば王の覚えも良いだろうし。


 しかし、この経歴は目を見張るものがある。

 罪を犯し奴隷まがいの扱いを受けていたところ、魔法研究所に拾われ被験体となった、か。


「この魔力封じを受けてもなお、魔法使用を確認したというのは真実なのか?」

「はい。どうやら本当のようです。実際そのような研究が現在の主流のようですから、それが裏付けになるかと。」


「魔法が使えなくなれば、僕でもただの子供になる。うらやましいね。」


 そんな力が実在するなら、あのルイスには過ぎたおもちゃ(・・・・)だ。

 最近では僕のイタズラも不発に終わっていて、ストレスが溜まっている。セレスティアルも現状に喚くだけで大して使えないし上手くいかないな。


「シータイト殿下、しかしあの護衛はルイス様に離れることはないでしょう。聖女様との関係も良好と見えますし、城内ではルイス様の評価を見直すような声も聞こえます。」

「ふむ、不良の更生のようなものか。狙ってやったのなら大した策士だね。じゃあ少し苦渋を舐めてもらおうかな。」


 そう言って僕は、支援者からの貴金属など役に立たない贈り物をトーリスに押し付けていく。


「シータイト殿下、これは一体?」

「適当に金のない冒険者でも雇って襲わせて欲しい。ただしルイス達が撃退出来る程度の規模でね。」


「・・・なるほど、ルイス様のわがままの結果、聖女様が危険に晒されてしまうという事ですか。承知しました。」


 それにしても外出が許されるなんて、聖女がすごいのかルイスの重要性が低いのか。どちらにしても自由に動ける身が羨ましい。



 ルイスが王都を発って3日ほど後のこと。


 毎日毎日、顔の知った人間達と半ば義務的に会話するのにも嫌気が差してくる。人に会えば礼賛されて、心が冷えていくのを感じている。

 ルイスがいる時は死なない程度に魔法をぶつけていれば、良いストレス発散になったが今日はもういない。


 優秀だと持て囃されてきた僕の魔法が、ことごとく無効化される事だってもう無い。


「退屈だ。」


 そうひとつ呟けば、本や流行りのゲーム、お茶会を開催しようなどと忠言してくる者までいる。

 僕にはそれが酷く冷たく感じられる。シータイトという光に擦り寄ってくる羽虫のような存在だ。


(そういう意味ではルイスに嫉妬する。あの傲慢な性格なら日々に退屈する事もなさそうだしね。)


 

 そんな折、我が父である国王ロイエルからお呼びが掛かった。

 退屈凌ぎになるのならと飛び付いた訳なのだが、周りからは聞き分けの良い真面目なシータイト様と映ったに違いない。



 国王陛下に呼び出されたとは言えあくまでも私用、親子の会話だったため執務室へと直行した。

 部屋の扉をノックして、入室の許可を得てから父と対面した。


「すまぬな、シータイト。折り入って頼みがあるのだ。」


「お気になさらず、暇で溶けてしまいそうだった程ですから。それで、ご用件とは?」


 何か神妙な顔つきの国王に軽口で答えると、国王は実はとたっぷり前置きして話し始めた。


「アーデルガルド帝国というのは知っておるな。我が国の北部に位置する列強国だ。直接、国境が接しておらんので、今までは交易程度の関係であったが、どうやら使者が訪問してくるようなのだ。」

「使者、ですか。どのようなお立場の方でしょう。」


「第三皇子だ。・・・なに、突然という訳でもない。連絡はあったのだが、たまたまルイスがいない日だっただけだ。」


 ルイスのなどどうでも良いが、居ないならそれだけ面倒事が減るので今はありがたい程だ。

 アーデルガルド帝国とは、このネルケルト王国より規模は小さいが、海と山に隔てられた自然の要塞を持つ国として有名だ。

 そしてその帝国の文化は、土地柄なのか他方に漏れる事が少ない。


 さながら鎖国と思わせる対外政策で、黄金郷があるだとか人間ではなく魔物が治めているだとか、根も葉もない噂が絶えない。

 帝国産とレッテルを貼れば、平凡な商品も瞬く間に高値で取り引きされる。


 アーデルガルド帝国はそれほどまでに、未知で妖しい、言うならば魅惑的な価値がある。


「第三皇子とは、これはまた随分と高貴な方ですね。物見遊山でしょうか。」


「そんな簡単であれば良いがな。・・・本題はその皇子なのだが、お前と同年らしいのだ。」

「ええ、分かりました。僕も帝国には興味がありますし、お友達になれるよう頑張ります。」


「話が早くて助かる。では頼むぞ。」

「暇なだけです。失礼しました、国王陛下。」


 その日から歓迎の準備に王城は追われ、2日後の朝、アーデルガルド帝国一行様がご到着された。


 騎士は全身鎧というわけではない。基本的には軽鎧で剣はさることながら、弓や槍に至るまで、まるで戦争に赴くかのような出立ちだ。

 馬にまで鎧を着けているためか、その疑いは王城全体にまで広がっているように思う。


 噂ほどでもない金の装飾がついた馬車から、1人の少年が降りてきた。

 その少年は、日に焼けたような浅黒い肌をして僕のような色素の薄い髪色をしていた。

 背丈はほぼ同じだったが、その強く輝いている金の瞳に僕は吸い込まれそうになる。


「アーデルガルド帝国、第三皇子のマリウスだ。仲良くしてくれるかな?」


 マリウスは僕に向かって右手を差し出し握手を求めてきた。

 僕はその手をにこやかに握って挨拶を返す。


「僕の名前はシータイト。こちらこそよろしく。」


 マリウスの手は、僕と同じような大きさではあったが、なぜかゴツゴツとした感触を感じた。

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